11 学園の日々
魔法陣間移動は便利そうだったので、早速作ってみた。マリエラが公爵邸と僕の屋敷の部屋同士を移動するためだ。人一人が載るくらいの円形の台は、強い魔力が必要そうだったので、エドモンド公領のダンジョン第15階層で採れたボスの角を輪切りにして作った。そこに魔法陣を転写し、特大の魔石を嵌め込んだ。さて、実験だ。
エリザベートの了解を得て、一つを公爵邸に置き、もう一つを僕の屋敷に置いた。僕は、自分のワープを使って、公爵邸から屋敷に、設置のために移動する。
『いいよ、姉さん。移動して。』と、準備が整ったので、僕は念話で合図をする。
するとたちまち、屋敷のマリエラの部屋に設置した魔法陣から、マリエラが飛び出してきた。
「成功だ。」と、続けてエリザベートも飛び出す。
これはすごいな。でも誰でも移動できるというのは、それはそれでセキュリティー上の問題がありそうだね。部屋に設置した魔法陣を隠すために、ダミーのウォードローブでも作ろうかなどと考えながら、皆で行ったり来たりして楽しんだ。
移動の魔法陣を設置した翌日、僕は学園の魔法理論のクラスで、先日の疑問を口にする。
「図書室の本に、移動したり、走る速度を上げたりするような便利な魔法陣が載っていたのですが、どうして皆使っていないのですか?」
先生は、「いい質問ですね。そのような魔法陣は、それが完成されたものであっても、正確に複製するのが難しいこと、強い魔力を必要とし、自分の魔力では到底足りないので、大きな魔石がいること、いざ発動しても身体が付いていかずに大きな怪我をしたり体調を崩したりすることがあることなど、根本的な問題があるのです。便利そうでもむやみに転写して使おうとすることは勧められません。」と答えた。
そうか。図書室で魔法陣を書き写していっても、普通じゃ発動できないんだ。僕は得心した。でももう作っちゃったよ。誰の身体にも影響は無かったけれどね。結果論か。内緒にしとこう。
学園が始まって最初の週末、僕とマリエラは、トーリード・ダンジョンの13階層に潜ることになった。水晶のストックが欲しかったのだ。なにせ、トーマス商会が、美容ポーションの予約が殺到したため、少し強気の販売計画を立て、月産5,000本を打診してきたのだ。卸値で大金貨120枚(前の世界では、1億2000万円というところか)になる。これだけの収入があれば、左団扇だね。
容器の形状、大きさが同一なので、水晶から複製しながら生成すれば、その程度の数なら大したことではない。左手に水晶を握り、容器をイメージし、右手を水晶に触れてから右に水平に広げていくと、一回で50本くらいガチャガチャ出てくるのだ。それを100回繰り返せばよいので、数分の作業だ。
ポーションの液は、薬草が庭で元気に繁茂しており魔石も大きいのがゴロゴロあるので、大量に作るのは容易だ。詰め込む作業は、メイドたちが総出で行える。メイドの増員は、手配をしよう。
そこで、僕は注文を請けることにした。定期収入があると、何かと便利だ。この屋敷を買ったときのように、使うときは大きな金額が必要になるからな。
マリエラは、エリザベートの護衛なので、週末でないと公爵邸を空けられない。前夜に転移してきて、翌朝出発だ。馬車でダンジョンまで行き、入場料を払って魔法陣で13階層に入る。よし行こう。
途中、チェルニーたちに乗りながら、効率よくゴーレムたちを倒していく。その度に、ドロップした肥料の土、水晶、鉱物、魔石を、マリエラのバッグに回収する。特にロックゴーレムを念入りに倒した。ダンジョンで採れたものは、いったんすべてマリエラのバッグに入れることになっている。
僕が、いつ現世に戻るかわからないので、マリエラに残しておかないとならない。暗黙の了解なのだ。
ゴーレムたちを倒すのに、マリエラはお宝の小さな盾を使ってみたが、これがすごかった。飛び掛かってきたメタルゴーレムを、簡単に跳ね返し、敵を全く寄せ付けないのだ。盾は適当な大きさに変化する。適度な重さで、大きさは自在だし、この階層の普通のゴーレムくらいなら赤子の手をひねるくらいにたやすく撃退できる。やっぱり、魔盾だった。
さあボス部屋だ。銀色の従者ゴーレム5体と巨大なボスゴーレム、前と同じメンツだね。
従者ゴーレムは倒すのにわけないよ。ボスは3回目だし、魔盾もあるので、4本手だけど余裕で防御だ。今回は2人なので再びチェルニーに助太刀をお願いしして、スムーズに倒した。
ボス部屋では、今回は、大きな金塊がドロップした。ミスリルも高価だけど、宝飾品には、金が映える。さて、宝箱は何が入っているかな。
「最初と同じ、魔槌だね。魔物を叩き潰すには便利だから、姉さんもっていてよ。」とマリエラに手渡す。マリエラは、ドッカーン、ドッカーンと大きな音を立てながら何度か振ってみて、「いいね。ボスもこれで叩けば倒しやすいかもね。」と言う。
せっかくだから、ここから1往復してみることにした。そして、多くのドロップアイテムを回収し、再度、ボス部屋に戻る。魔槌と魔盾は、最強だ。ボスの右手2本を僕が相手をしている間に、マリエラは、盾で左2本を防ぎながら、槌で胴体をガンガン叩き、今度はチェルニーの助け抜きでボスを倒すことに成功した。魔道具は便利だね。
2度目の宝箱からは、ボスが身に着けていたような宝飾品類がざっくざっく出てきた。
僕らは、14階層に出て魔法陣でダンジョンの入口に戻った。次の機会には、14階層にも行きたいな。
その日は、もう夕方になっていたので、屋敷に戻り、夕食を食べ、久しぶりに一緒に風呂に入って穏やかな夕べを過ごした。残念だけど、明日は学園なので、マリエラは魔法陣で公爵邸に戻る。
明日から学園第2週目が始まる。あっという間の1週間だった。
しばらくの間、学園では、平穏な日々が過ぎた。前期は3か月あるので、早々問題が起こるものでもない。
「ダンジョン」のクラスに出た。ダンジョンの攻略方法の授業ではない。領地にダンジョンがある学生を対象に、その経済効果や冒険者ギルドの組織など、領地経営に役立つ知識を教えるのが目的だ。第三皇子もエリザベートも受講している。
あれ、アレクサンドロスもいるよ。領地にダンジョンがあるのかな。
「ダンジョンに入られたことのある方はおいでですか?」と教師が尋ねる。皇子もいるので口調は丁寧だ。
誰も手を挙げない。おそらく誰も入ったことはないのだろう。僕は、正直がモットーなので、「ございます。」と手を挙げた。そして、求められるまま、内部での冒険談を熱く語った。
皆、僕の話に聞き入っていたよ。
授業が終わり、昼食時に、アレクサンドロスがいつものとおり僕の隣に座る。そして、顔を少し緊張させてこういった。
「なあ、ダンジョンのこと聞いていいか。わが伯爵家の領地にダンジョンがあるんだ。伯爵家を継ぐには、いつかは入ってみないといけないんだけど、おまえ付いてこないか。」
どんなダンジョンだろう。どうせ最下層は、スライムくらいしかいないだろうから、面白くはなさそうだ。伯爵のコネで上級者のパーティーに参加させてもらって、高層を狙おうか。でも遠いんだよな。いつ行けるかだ。
だが、よくよく聞くと、攻略するのはどこのダンジョンでもいいそうだ。攻略証明があれば、事足りる。
何だ、それじゃ折を見て、帝都のダンジョンに連れて行ってあげよう。友達だからね。
こうして、アレクサンドロスとダンジョンに連れ立つことを約束した。