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10 帝都学園の入学初日

 今日はいよいよ帝都学園の入学初日。早めに馬車で屋敷を出て、まず、校長室に向かう。

「お早うございます。ベレンテル校長先生。」と僕は元気にあいさつして、御側付きのアンナとエルザを紹介する。

「お早うございます。アキラ様。授業が始まるころに、教室にご案内しますから、それまでここでお待ちください。選択された最初の授業は、領地経営でしたね。」

 しばらくして、キンコンカーンと予鈴が鳴るや、ヒルデはアキラを教室に連れて行った。


「この方は、ヒノノボルクニから当国にお越しになられたアキラ・フォン・ササキ様です。本日、当校に入学されました。この上級クラスに所属されますので、これまで学んだことなどを教えて差し上げ、友好な関係を築いていただければ幸いです。」

 校長の紹介を受けて、僕は「アキラ・フォン・ササキです。本日からともに学ばせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします。」と訛り丸出しのあいさつをした。

 校長は、僕を後ろの空いている席に案内し、クラスを後にした。

 アンナとエルザは、僕が教室に入るのと同時に、後ろの扉から教室に入り、他の生徒の護衛や御側付きと一緒に教室の背後に立っていた。


 第三皇子は、僕と同じ、一番後ろだ。警備上、前にするわけにはいかないだろうな。

 顔を合わせ会釈であいさつを交わす。教師が教室に来て、授業が開始だ。さて、最初の授業は何だっけ。領地経営って言っていたね。授業のことは、すっかり頭から抜けていたよ。


「領地経営には、3つのポイントがあります。産業を育成すること、優秀な人に仕事を任せること、領民を困窮させないことです。そうすれば税収も上がり、広い領地も隅々まで目が届き、そして領民が暴動を起こすこともありません。皆さん、ご自分の領地では、どんな産業が盛んですか。その産業が領地を潤し、税収を上げ、民の生活を保つことになっていますね。・・・」

 などと、教師は、結構分かり易い説明をする。この国は、結構知的水準が高いね。


 次のクラスは、魔法理論か。教科ごとに教室が変わって、学生が移動するのだな。

 男子の教室がある棟と女子の教室がある棟は、別々だが、一緒に受ける授業の教室は、その間の事務棟の2階に置かれている。ちなみに、3階は図書室だ。


 魔法理論は共学なので、第三皇子に半歩遅れて一緒に移動した。皇子は、護衛を2名、御側付きを1名従えている。僕は、もちろんアンナとエルザを従える。

 教室に入ると、エリザベートが席にいる。その足元に白猫がうずくまっている。教室の背後には、マリエラがいる。このクラスは、彼女も取っているのだ。


 その彼女の席を、何人もの女の子が取り巻いている。

「その艶やかな髪とお顔はどうされたのですか?」という感嘆の声が耳に入る。

「トーマス商会で取り扱っている美容ポーションのおかげですわよ。」とエリザベート。

 そうか、美容ポーションを使って初めての学園だったね。女の子には、絶対興味があるよ。また、僕の仕事が増えるな。僕が広めちゃったんだし、安定収入になるので、いいんだけどね。

 皇子と僕は、エリザベートの元まで行ってあいさつをし、それぞれ席に着いた。

 皇子は、席に着いてからも、エリザベートをちらちらと見る。やっぱり婚約者がきれいになっているのは気になるよね。


「魔法は、魔素が魔力を発動して生じる現象です。魔素は体内にもありますし、空気中や物質の中にも存在します。特に、魔石は、魔素が凝縮されていますので、魔石を利用することにより、高い魔力を得ることもできます。魔法の具体的な発動形式が魔術です。」

「魔法を起こすときは、詠唱を使います。また、魔法陣も魔力を高めるためや、魔法を起こすために使われます。魔法理論では、詠唱の効果的な使用法や、魔法陣の仕組を勉強します。前期は、詠唱について勉強してきましたので、後期は、魔法陣を中心に学んでいく予定です。」

 と教師が授業についての説明を行う。

 魔法陣か、丁度良かった。個人的にも知っておきたい分野だ。これからの授業が楽しみだ。

 こうして、午前中の授業が終わった。お昼を食べに食堂に行こう。


 皇室は、特別室で食事をする。学園には、第二皇子イオラントが第3学年にいるので、第1学年の第三皇子ウラノフと一緒に昼食を取る。母親の異なる皇子同士の交流は個別にはなかなかないので、情報交換のよい機会にもなっている。

「初日だけれど、何か変わったことはあったかい?」とイオラント。同族の男性同士だと口調が崩れる。いや、むしろわざと崩してストレス解消を図っているのかもしれない。

「アキラと同じクラスを受けたよ。」とウラノフ。

「アキラか。献上を受けた短剣は見事だったな。抱いて寝てるよ。」

「兄さんもそうなのか。僕だけじゃなかったね。」

「それから、エリザベートがきれいになっていたので驚いたよ。」

「母や妹たちと同じポーションを使っているんだろうな。あの献上されたポーションは、母や妹たちが使って、すごい効き目だったからな。」

 特別室では、こんな平和な雑談が続いていた。


 食堂は、ビュッフェスタイルだ。そんなに種類があるわけではないが、家で食べるものとは傾向が異なるので、興味深い。

 うん、赤い濃い目のスープとパサついたコメがある。これはカレーか。この世界にもカレーがあるのか。コメを木の器に載せ、カレー風のルーを掛けた。それを持って空いている席に座り、スプーンで1口食べた。おっ、カレーだ。それほど辛くはないが、これまでコメもカレーもあるとは知らなかった。家でも作れないかな。もっと辛いのがいいな。

 などと考えているときに、後ろから声が聞こえた。


「おい、お前が竜使いか。」

 振り向いてみると、僕より10cmばかり背が高い小太りの男子学生が立っていた。この子、前のクラスにいたな。人見知りしない積極的な性格なんだな。

「そうだよ。よく知ってるね。名前を教えて。僕は、アキラだよ。」

「アレクサンドロスだ。何でも知ってる。」

 マケドニアの大王の名前をもらったのか。でも、この世界とは関係ないよね。たまたまかな。何でも知っているって、学者みたいな名前を見ればそう思うよね。


「どこかの王様みたいな名前だな。由緒がありそうだね。」と思ったことをそのまま口に出す。

「そうだ。帝都から南に馬車で10日ほど行ったところにある領地のミナンデル伯爵の長兄だ。」と答えが返る。

 南か。カレーも香辛料や砂糖も南だな。興味がわく。ちょっと聞いてみるか。

「ところで、この食べ物は何というのだ。南の食べ物か。」

「何にも知らないんだな、お前は。これは、カレーだ。南で採れる辛い野菜を使っているのだ。」


 あっ、そのまんまカレーか。いいことを聞いた。僕が、そのあとカレーの種類や作り方を矢継ぎ早に聞いていったら、遂に、「うるさい、うちに来い。食わせてやる。」ということになった。そして、いつの間にか彼も僕の隣に座り、カレーを食べながら講釈を垂れていた。カレーでこんなに話すことがあるんだ。カレーって奥深いね。

 カレーパーティーか。楽しみだな。


 午後のクラスは取っていないので、その日は、そのあと、図書館に行く。目当てのものがあるのだ。初めてなので入室証を作ってもらい、保証金として中金貨1枚を支払った。損傷したりすると修補にお金がかかるからということらしい。アンナとエルザは、廊下で待機だ。

 目当ての棚を探す。


 あった。魔法陣の書架だ。エドモンド公領の冒険者ギルドの図書室には、日常的な使用を目的とした魔法陣の本は充実していたが、非日常の魔法陣のものはなかった。

 ここにはあるかな。何冊か手に取ってみる。火の起こし方、水の出し方、湯の沸かし方・・・知っているものばかりだな。

 おや、これは知らない。それは、僕には未知の魔法陣であった。


 移動系の魔法陣か。魔法陣同士の間の移動って、ダンジョンの魔法陣に似ているね。

 これは、魔法陣に乗ってそのまま垂直に移動する方法か。天井の掃除でもするときには、役に立ちそうだけど。あっ、果実の収穫に使えるか。

 靴に仕込んで速度を上げる魔法陣か。靴だと小さいので魔法陣を仕込んでもスピードアップには限度がありそうだな。早く走れば、身体への影響もありそうだ。

 これは、防御系か。衣服に縫い込むこともできそうだ。馬車の内装にも使えるかもしれない。でも防御は、いつかはそれを超える武器が出てくるんだな。

 巨大な城壁を有していたコンスタンチノープルだって、オスマン帝国がハンガリーの武器商人から買い取った、動かすのに牛50頭も必要という巨大な大砲で打ち砕かれたっていうじゃないか。まぁ、そんなこと言っても、普通の攻撃であれば、この魔法陣で十分に防げそうだけどね。

 それにしても何でこんな便利な魔法陣が普及していないのだろう。今度のクラスで質問してみようか。いろいろ考えながら、僕は、片っ端から脳裏に魔法陣を転写していった。


 こうして学園の初日を終えて屋敷に戻った。そして、今さらながら思い出したのだけど、アレクサンドロスって要注意人物の一人だったな。まあいいや。大物そうではないし、カレーも食べたいしね。


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