8 帝都ダンジョン第13階層新攻略
13階層に出た。まだ、ダンジョンに入って、3時間くらいしか過ぎていないので、ついでに13階層も攻略しようか。僕とマリエラにとっては、いつものパターンだ。シルビアは攻略のスピードに驚いていたが、自身は益々元気になっているので、ここで戻る選択肢はないだろう。ということで、勢いに乗って先に進むことにした。
新しい階層なので、斥候として白頭鷲のオペルを飛ばし、灰色オオカミのヴォルクを走らす。ここは、ゴーレム階層らしい。鉱山がモチーフか。
偵察によると、まずは泥のマッドゴーレム、次に岩のロックゴーレム、そして金属のメタルゴーレムが待ち構えているようだ。ゴーレムは初めてだね。体の中枢機能を破壊すればいいらしい、というのは予備知識だ。
まあ、とりあえず進もう。
チェルニーたちに乗って、泥道を進む。すると、マッドゴーレムが、そこここから湧き出してきた。大した事なさそうだね。でも、泥だけあって、中枢機能を破壊するまでは、泥の体は再生するらしい。
やってみようか。ということで、手足を斧で切り落して、様子を見ていたら、定石通り再生した。だったらこうだな。と、思いきって頭から一斧両断したよ。
「何だろう、これは?」ドロップした泥の塊を見て僕は呟く。
「これ、聞いたことある。畑に撒くと、作物がすっごく良く育つって。でも滅多に手に入らない。初めて見た。」とシルビアは興奮気味だ。
要するに肥料なのか。さすがに農家出身だ。よく知っている。貴重なもののようなので無駄にしないで、きっちり拾っておこう。わが家の畑にも使ってみようか。でもマジックバッグがないと、こんなのは、なかなか持って帰れないよね。シルビアは、自分の倒した獲物の分を、ゲットしたばかりのマジックバッグに収納している。早速役に立っているね。見ていて嬉しいよ。
泥地で何体かを倒したあと、岩地に出た。そうすると、今度は、ロックゴーレムだな。硬いんだよ、予備知識では。本当はどうか知らないけどね。
案の定、左右の岩山から、ロックゴーレムがボロボロと湧いて出た。
「やっぱり硬いね。」と言いながらも、3人で次々に破砕していく。当たり前だよ。僕らは、岩より硬い武器を持っているんだ。
ロックゴーレムのドロップアイテムは、底辺20x20 cm、高さ30 cmくらいの硬くて透明な六角柱状の物体だった。
「何だろう。」と触れてよく見る。僕は、知識の範囲内の鑑定はできる。
「水晶だ。」これをポーションの容器にしたら付加価値が出るなと考えたが、1塊で1,000本くらいしかできそうもないので、ロックゴーレムを片っ端から倒し、たくさんの水晶を手に入れた。これで当分の間の在庫は確保だ。
引き続き鉱山ばりの巨大な洞窟を奥へと進む。順当にいけば、今度はメタルゴーレムかな。
『やっぱりだな。』
茶色、鋼色、銀色のいろいろなメタルゴーレムが行く先々からどんどん湧いてくる。
メタルだから雷には弱いかな。と考え、「マリエラ姉さん、雷をお見舞いして。」とお願いする。
するとマリエラは、雷剣を思い切り振りかぶり、ゴーレムたち目掛けて雷をお見舞いする。
ガラガラガラーンと、雷が勢いよく直撃した。その直後に、ゴーレムたちから、ボン、ボンと黒煙が上がった。内部から破壊されたね。これでは、もうスクラップだ。
ドロップアイテムは、魔石のほか、銅、鋼、銀といった鉱物だった。精錬済みだから後が楽でいいね。鍋や食器でも作ろうか。と思いつつ、先を急ぐ。さあ、13階層のボス部屋だ。
ボス部屋に入ると、そこには深みのある渋い銀色をした従者ゴーレム5体と巨大なボスゴーレムがいた。
銀色は、きっとミスリルだな。さっきの銀色とは、硬さが違うはずだ。でも僕らの武器は、ミスリルでも破壊できるんだよ。シルビアのミスリルソードだって、硬さやしなやかさが強化されているから、普通のミスリル板なら造作なく切り裂けるんだよ。すごいんだからね。
僕らは、これまでのように、シルビアが1体、残りを僕とマリエラで引き受ける。
さすがにボスの従者は、雷一発では倒れない。ドカーン、ドカーンと何発か当て、動きが鈍ったところでガシッと切断だ。
僕は、魔斧で叩き切る。ガツーン、ガツーンと何度も叩いてぶち切ると、従者のメタルの体は、ひしゃげて見る影もない。やり過ぎたかな。
従者が消滅したら握り拳2つ分のミスリル塊がドロップしたよ。これは高く売れる。なにせ金より高価なんだからね。
さて、ボスだ。ミスリルのボディーに、4本の手があり、金の飾りを着けている。頭に首に腕に足に。ボスの威厳が満載だ。でも戦いに飾りは邪魔だろうに。自分で戦う気はなかったかもしれないけれどね。僕らが強過ぎたんだな。
そして僕らは、自分の持っている全ての力を出して、一斉にボスに襲い掛かった。
巨体に似合わず、体の動きは速い。4本の手も、見事にコントロールされている。遠距離攻撃もあまり効果はなく、接近戦を戦うも、絶え間なく腕が襲ってくる。
僕も両手に魔斧を持って戦っているので2本、マリエラとシルビアが1本ずつで、僕らの手も合わせて4本だ。まず、僕らで、ボスの手を留めよう。左手2本を僕が相手をし、右手2本をマリエラとシルビアが相手をしているときに、「チェルニー、チャンスだ!」と僕は叫んだ。
「ガゥッ」と唸りを上げて、後ろに回って控えていたチェルニーはボスに飛び掛かった。そして、ボスが後ろに気を取られ、右手の対応がおろそかになった瞬間、マリエラは飛び上がってその雷剣でボスの首筋を勢いよく切り叩いた。
でもボスは倒れない。そして再び正面の敵に4本の手を向けてきたが、後ろからチェルニーに体当たりをされ、前のめりになる。チェルニーは、もともと石で出来ていたんだから硬いんだよ。そこを僕の魔斧が、ボスの胸を叩き切った。
ドーンと大きな音がして、ボムゥと煙を上げてボスは倒れた。そしてドロップしたのは、ミスリルの大きな塊、金の飾と超特大の魔石だった。
さて、宝箱は何かな。
僕が箱を開け、中を覗くと、「うん、メイス?」そこには、銀色をした金槌のようなメイスが鎮座していた。
まず僕が握って安全を確認する。これは魔槌だな。ここの宝箱なんだから、特別の能力が付与されているはずだ。壁に向けて振ってみる。その途端、「ぐわーん」と音がして、そこの壁が崩れ落ちた。すごい威力だね。使ってみたいな。
『どうだろう、マリエラ姉さん、魔武器のないシルビアさんに持ってもらおうか。』
『いいわよ。今日は、シルビアの快気祝いだしね。』と僕とマリエラの念話。
「シルビア姉さん、今日は姉さんの快気祝いだから。この武器は、姉さんが持っているといいよ。マリエラ姉さんも賛成しているよ。」とシルビアに魔槌を渡すと、極限の笑顔が返ってきた。
そのあと、もう一回ボス部屋を攻略することにして、ダンジョンの準備が整うまで、戻ってゴーレム狩りをすることにした。もちろん、魔槌の試し打ちを兼ねてだ。
その威力の凄いこと、メタルゴーレムは、ボカン、ボカンと次から次に魔槌で打ち壊されたよ。魔槌は、柄の太さや長さ、そしてヘッドの大きさや形状も獲物との戦闘に応じて変化することもわかった。終始ご機嫌のシルビアだ。いい収穫だったね。
ボス部屋も二度目になると、慣れと魔槌が加わったせいもあり、制覇は最初のときほど苦ではなかった。チェルニーの助けもいらなかった。
今度の宝は、順番にしてマリエラのものになったようだ。何が出るかな。
「盾か・・・」奇妙な文様が刻まれている。まあ、魔盾だろうけど。縦30cmほどで、一見子どもの玩具みたいに小さいけれど、きっと大きくもなるんだろうね。マリエラが、盾を持っていろいろ振ってみるが、実際に攻撃を受けていないせいか、ウンともスンともいわない。今度試してみよう。
こうして、僕らはダンジョンを後にした。
外はもう昼下がりだ。新階層攻略なので、証明をもらいに冒険者ギルドに寄らなければならない。僕とマリエラは、回収品を売る予定はない。シルビアは、一部をギルドに買い取ってもらうそうだ。
このギルド支部の勝手知ったるシルビアが、受付に小声で話しをする。「支部長いる?13階層を攻略しちゃったんだけど。買取も希望よ。」と。
すると受付嬢は、驚きの表情をしたまま急いで奥に入り、しばらくして出てくると、僕らを部屋まで案内してくれた。そして、僕らが攻略の証拠の品々を出してその部屋で待っていると、「シルビアか。大怪我をしたって聞いていたが、ガセネタだったのか。」と言いながら、支部長が職員を2人連れてやってきた。
支部長は、「ここの支部長をしているハンス・テバルトだ。君たちは、Sランクのアラン君とマリエラ君だね。噂は聞いているよ。」と一気に話す。僕とマリエラは、簡単にあいさつを返した。
「それにしても、3人で、13階層攻略かい。3、4日前に12階層を攻略したばかりだろう。今日は、トールウォールは一緒じゃないのか。」と言いながらも、目の前の証拠品を見ながら、「ゴーレムだな。13階層の様子を詳しく聞かせてほしい。」と、あまり詮索することなく、僕らの話を聞く。2回倒したことは内緒にすることを、前もって打ち合わせ済みだ。
職員の1人は、記録係だったようだ。時折、僕らに質問をしたり、補足を求めたりして口を開いた。この世界では、メモ用紙も簡単には手に入らないので、きっと記憶力が図抜けている人なのだろう。話を聞き終わると、その職員は、攻略証明書を発行するために部屋を出て行った。
僕らは、証拠品で出したボスの落としたミスリルの塊や金の飾りを、マリエラのマジックバッグに引っ込める。13階層ボスのドロップアイテムは僕とマリエラ、12階層のボスのものはシルビアと、分けっこしたのだ。
もう1人の職員は、鑑定担当のようだ。シルビアは、買取を希望するミノタウロスの角と斧、そしてゴーレムの泥、水晶、各種の金属をマジックバッグからその場に出す。しかし、シルビアの出した品は多数に及ぶので、結局鑑定は明日ということになった。証明書の発行も受けたので、僕らはギルドを後にした。
馬車に乗って皆で僕の屋敷に戻った。マリエラも今日は一日休みをとっているので、泊っていけるそうだ。今日は、3人で仲良くお風呂かな。また川の字になって寝ようかな。
こうして、その日は終わった。