5 帝都ダンジョン初の攻略
ダンジョンに潜る前日、トールウォールの拠点でマリエラのマジックバッグにパーティーの荷物を収納し、僕らは、近くの宿泊所に泊まった。早朝にダンジョンの入口に集合することになっている。
当日の早朝、ダンジョンの入口に到着した。パーティーメンバーには、昨日までに全員とあいさつを交わしている。皆、身軽になったので、僕らは随分感謝された。報酬もタダみたいなもんだしね。嫌われる要素はないよ。
僕らを含めて合計9名、早速、魔法陣で出発だ。
12階層に到着する。対陣を整える。斥候のメンバーが先行し、リーダーがパーティーを率いる。4人が、2人1組で行動し、戦闘を担当する。残る1人はしんがりだ。後方に注意し、獲物の拾い忘れがないように注意し、けが人が出れば、治療も行う。
シルビアは、戦闘班のようだ。斥候が、合図をすると、皆で注意をしながら進む。しばらく行くと、棍棒を持った角のある大目玉が出た。あぁ、こいつか。目玉はフェイクだったな。
戦闘班の4名が飛び掛かる。なかなか連携が取れている。大目玉は棍棒を振り回すが、メンバーたちの素早い攻撃に翻弄され、そこを後ろに回ったメンバーが、隙を見て飛び上がり、首筋に剣を突き立てた。
冒険者って、自分の身長くらいは普通に跳躍できるんだね。この世界の人間は、身体能力が高いよ。元の国に連れて行けば、皆たちまち金メダリストだよ。
大目玉は、片膝を付いた。そこを、戦闘メンバーは皆で魔物に切り付ける。そして、魔物は倒れ、角や棍棒や魔石のドロップアイテムが出る。
いつもなら、しんがりのテリーが回収役だが、今日は、僕らが拾って運ぶ。
テリーは「とっても助かるよ。棍棒なんて重いから、拾いきれないんだ。角だって持ち運ぶと結構じゃまだしね。」と僕らに感謝する。
こうして、途中で何度か魔物を倒し、何度か休憩し、そして最初のキャンプ地に着いた。皆、疲れ切っている。何ともないのは、ただ歩いているだけの僕らだけだ。そういう約束だから仕方ないよね。せめて美味しい夕食を振舞おう。
マリエラが、マジックバッグからパーティーのテントを出した。4人用が2つだ。羊の皮か、結構重いね。これを担ぐのは大変だ。僕らも同じくらいの大きさのテントを1つ用意している。魔牛の革製だから、軽くて頑丈だし、断熱効果も高いすぐれものだ。
テントを設営したあとは、夕食だ。夕食を取りながら、明日の計画を話し合う。事前の計画は立ててあるので、その再確認となる。それと、今日の振り返りを行う。
今日の夕食は、肉と野菜の暖かな煮込みと焼きたてパンだ。鍋ごと取り出して、皆に振る舞う。暖かな料理は、体力を回復させる。また、煮込みには、体力回復の薬草まで入れてあるのだ。食べるメンバーの幸せそうな顔。お代わりが殺到した。よかったよ、お役に立てて。
朝が早いので、就寝も早めだ。僕らのテントは、魔鳥の羽毛製のふかふかの布団付きなので、シルビアがそれを見て、今日はここで寝ると言い張る。仕方がないから、3人で川の字になって寝ることになった。僕が真ん中だよ。なにせ少年だからね。両脇から抱き枕だよ。
翌朝、テントの片付と朝食を終えて、早速出発だ。朝食は、調理済みの串焼きとパンにカップスープだよ。どれも作りたてのように暖かい。
昨日と同じパターンで、割と順調に進む。魔物は、大目玉だけではなく、ミノタウロスもぼちぼち混じる。ミノは強いね。4人がかりで、リーダーが参戦し、粘った末にようやく倒した。鋼の斧は、それなりに価値がある。マジックバッグに収納する。ミノと戦った後は、休憩の時間も長くなる。
そこで僕らは、蜂蜜入りビスケットを皆に配った。ヴィオレッタに焼いてもらったお菓子だ。でも今日のために、特別に体力回復の薬草入りなのだ。皆、美味しそうに頬張っていたよ。
「これを食べたら疲れが取れた?」と不思議な顔をしているメンバーもいた。効き目が高いね。
その日は、ボス部屋の少し手前で野営をする。十分に休んで、明日、決行だ。
その日の朝、朝食を終えてテントを片付け、少し歩いてボス部屋の前にやってきた。最終打ち合わせのあと、ボス部屋に皆で入る。ここは、倒すか倒されるかの死闘が繰り広げられる。デスマッチはきついね。
これまでのものより一回り大きな従者のミノタウロスが5体、そしてもう一回り大きなボスが1体、パーティーを待っていた。
「この大きさのミノが5体か。そんな情報はなかったな・・・。」とリーダー。しかし、後には引けない。戦闘部隊に斥候担当も加わり、2人1組になって、6名で戦闘準備に入る。
従者たちがゆっくりこちらに歩を進める。
シルビアの組が、1体のミノに襲い掛かった。ミノは、鋼の斧を振り回して、2人を打撃する。シルビアたちは、盾で防ぎながら隙を窺おうとするが、片時も休みのない連打になすすべもなく防御に徹する。そして突然、ミノは、それこそ力任せにシルビアの盾をぶっ叩いた。ガシーンと、シルビアは、盾ごと吹っ飛び、壁に叩きつけられた。左半身がぐしゃっと潰れる。骨が折れ、肉が切れて、きれいな銀色の髪もじわじわ血に染まる。
『シルビアさんが大変だ。』
僕は、羽毛マントを使って飛ぶようにシルビアも元に駆けつけ、かかえて戻った。その際、ミノの鳩尾を思い切り蹴り上げてやった。復讐だ。ミノは吹っ飛んでいったよ。シルビアの相棒は、その様子を見て、あっけにとられていた。
すぐにリカバリーだ。僕は、シルビアの頭から左半身を順番に掌で魔力を注ぎ込んだ。怪我してすぐだと、回復が早い。潰れた左半身は、次第に元の姿を取り戻してきた。でも、今日はもう戦えない。ここまで怪我をして、そこまでの回復はすぐには無理だ。意識が戻るのも少し時間が掛かる。
メンバーがまた1人吹っ飛ばされた。シルビアほどの怪我ではなさそうだ。あとで、回復してあげよう。それにしても、あと4人でミノ5体は無理じゃないかな。でも、手出し無用って言われているしね。
そこで、しんがりのテリーに尋ねてみる。テリーは、青い顔をして震えながら、皆の戦いと僕の施術を交互に見ていた。
「ねぇ、テリーさん。僕らは、リーダーから手出し無用って言われているんだけど、このままでいいと思う?」
僕がミノを吹っ飛ばしたのは目撃している。彼は、最後の勇気を振り絞って、こう叫んだ。
「リーダー、アキラさんに救援要請を願います!」
アルバートは、こちらをちらりと見て「アキラ殿、救援を願う!」と叫んだが、その瞬間ミノに吹っ飛ばされた。
僕とマリエラは、早速、救援に向かう。「任せておいて!」と。
僕は、お得意の魔斧の二刀流だ。マリエラの手には、雷剣だ。お揃いの羽毛マントを羽織り、空を舞うようにミノたちに飛び掛かっていく。
僕は、2体を左右の斧で一度に相手をする。ミノの斧を軽くはじきながら、「やっ。」と腹を切り、驚いて前かがみになるミノの喉笛を裂く。僕が丁度見上げる高さに弱点があるのがいいね。それに一辺に2体だと効率がいい。いつもってわけにはいかないけれど。
マリエラは、やはり2体の身体を雷剣で刻んでジュワッと焦げ目をつけながら、1体のミノの喉笛を掻っ切り、返す剣で、もう一体も同様に仕留める。ビーフの焦げる香りが漂うよ。とても美味しそうだ。
その間に、パーティーメンバーは総掛かりで1対のミノを倒した。アルバートも戦線に復帰している。あとは、ボスだ。
「ボスは、どうします。アルバートさん。」と、念のために確認する。
アルバートは、「一緒に戦ってもらえるか。」と、すまなそうに僕らにお願いをした。この状況ではそうなるよね。
メンバーで戦えるのは、3人か。それだけでもよく頑張っているね。
「じゃあ、皆は、前からボスの気を引いてね。僕らは、後ろに回り込んで倒すから。そしたら、後は、皆で止めを刺せばいいよ。」と、僕とマリエラは、左右からはボスに回り込む。
アルバートたちは、ボスの正面から向っていく。ボスは、アルバートたちを滅多打ちにしようと、両手の斧を振り回す。
僕らは、大周りに後ろに回り、隙を見て、ボスの両肩に飛び上がる。僕は斧、マリエラは剣を、丸太のような首の付け根に叩きこんだ。
さすがのボスも前のめりになって倒れ、そこにメンバーが思い思いに剣を突き立てた。
戦い終わって、アルバートが心底ほっとした表情で「ありがとう。君たちがいなければ、パーティーは全滅していた。今回は完全な準備不足だった。リーダー失格だ。」と言う。主観的に準備万端って思っていても、客観的な姿が見えてないときってあるんだよね。次があってよかったよ。
ボスが倒れた。さあ、宝箱だ。でも僕とテリーは、怪我したメンバーの介抱が先だ。
宝箱からは、マジックバッグ出たみたいだよ。アルバートさんがマリエラのを見て欲しがっていたから、丁度よかったね。
僕は、まだ意識が朦朧としているシルビアを背負い、帰り支度をしていると、メンバーから化け物でも見るような目をされた。僕は、異世界から来た時点で化け物だけどね。
ダンジョンを出ると、あらためて、アルバート始めメンバーから口々にお礼を言われた。皆、無事に出られてほっとしている様子だ。僕らが預かっていた装備や収納品は、アルバートが持つ入手したてのマジックバッグに移し替える。アルバートは、冒険者ギルドに寄らないといけないので、僕は、他のメンバーといったん拠点に戻った。
その頃にはもう目を覚ましていたシルビアは、小さい僕に背負われて恥ずかしそうにしつつも、がっしりと僕にしがみついていた。背中が暖かいね。恐怖がよみがえってくるせいか、時折、背中で小刻みに震える。拠点に着き、シルビアを奥の部屋に運び、ベッドに寝かせつけた。
「ねぇ、シルビアさん、まだ治療が必要なので、僕の屋敷に来ない?もちろん個室でメイド付きだよ。」と僕は尋ねる。
シルビアは、嬉しそうにうなずいた。「お願いするわ。」
こうして、明日、あらためて馬車で迎えに来ることにして、僕とマリエラは、帝都中心部に戻った。
いろいろあったが、帝都最初のダンジョン攻略は終了した。この階層は、あまり魅力はなかったな。でも様子がわかって参考になったよ。