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3 謁見

 謁見の日が来た。


 エドモンド公爵の紹介なので、公爵も当然随行する。公爵は、公爵領と帝都を結構頻繁に行き来している。帝国の議員も務めており、また、王族や他の貴族たちとは表面上は親しく付き合いをしておかないと、自分の知らないところで大変なことが起こるらしい。足をすくわれないように、にらみをきかせるのと、情報収集も欠かせないというところだ。


 公爵の馬車と僕の馬車を連ねて、皇宮に向かう。事前の打ち合わせは十分だ。献上品を立派な箱に仕舞い、従者に持たせる。皇帝と王妃、2人の夫人、皇子と王女のそれぞれに用意をしてある。女性は怒らせるとあとが怖いから、もらって喜びそうな物を厳選したよ。


 皇宮の門は、さすがに厳重だ。大きな門構えの両脇に警備の詰所があり、何人もの衛兵が見張りをしている。その前で馬車を停め、本日の約束を告げる。担当の衛兵は、僕らをいったん門の中にいれ、内側の詰所で、記録と突き合わせて、名前、人数、荷物等を確認し、武器は預けるように申し付ける。


 公爵は、執事と護衛を従え、僕は、執事と献上品を持って上がる従者のメイド4名を従えている。僕の方は、ヴィオレッタたちを除けば、屋敷のフルメンバーだ。皇帝の謁見に立ち会うのは初めての者ばかりなので、公爵の執事から事前に十分なマナーの講義を受けている。あと、忘れてはならないのが、神獣猫2匹だ。これだけの人数なので、手続きに時間が掛かった。


 皇居は広い。中に入ってしばらく走らないと、皇宮までたどり着かない。そこに至るまでの庭園の造形も見事である。皇宮は、横幅100mもありそうな、4階建ての館で、中央がドーム状になり、一段高くなっている。荘厳である。

 ここに、皇帝とその家族が居を構える。また、この国の行政もここで執り行われる。


 その皇宮では、その朝、皇帝が思案をしていた。

『アキラ・フォン・ササキ。ヒノノボルクニの王族。竜使いであり、神獣使い・・・。』

『本当であろうか。ヒノノボルクニなど、どこにもその名は知られていない。それが皇帝に謁見とは。偽物であれば首が飛ぶぞ。』

『竜を使って公爵の令嬢を救った話は、ここにも報告が届いている。神獣の姿は、あちらこちらで目撃されている。猫の姿をしているが、アキラが命じると巨大になると。アキラは、この国の者ではないのは事実であろう。異国語で話すが、意思は通じるという。』

『だが、王族というのはどうなのか。知らないのをいいことに、勝手に名乗っているだけではあるまいな。でも、どうやったら、それがわかるか・・・。』

 そこに使いがやってきて、「アキラ様がお着きになられました。」と皇帝に伝えた。


 皇帝たちは、それぞれ謁見の間に向かう。今日は、王妃と第一夫人、第二夫人、第一から第五皇子、皇女たちすべてが臨席する。黒と白の猫がピューマに変身するのが見られるという話を聞いて、皆が見たがった。また、あらかじめ伝えられた目録には、珍しい献上品が皆の分まで用意されている。

 皇帝たちと従者、警護らが謁見の間で準備を整えると、アキラたちが呼び入れられた。


 進行役が口上を述べる。ヒノノボルクニの王族、アキラ・フォン・ササキ殿が皇帝の謁見を賜るという内容だ

 僕は、皇帝の前に進み、片膝を付きあいさつをする。

「わたくしは、ここから遥か東にあるヒノノボルクニから参りました。王位を継承することなく、一人竜に乗り、神獣を連れてこの地に至りました。」

 嘘は付いてないよ。竜のことは、皇帝の耳に入っているはずなので、ここであえて口にした。神獣は、ここで見せることを約束している。


「楽にせよ。王族か。ヒノノボルクニは、この国では知られていない。どのような国なのか。」と皇帝。

「はい、人々は争うことをせず、国は豊かで、民度の高い国でございます。」と僕。ほとんど何も言ってないに等しいね。あまり詮索されたくないので、僕は続けて言う。

「皇帝陛下とお妃さま方に献上品を持参いたしましたので、どうぞお受け取りください。」と、従者に献上品をここまで持参するように促す。

 従者は、皇帝の係官に献上品を手渡す。係官は、脇に置いてある台の上で、皆に見えるように献上品を開く。


 最初は、皇帝への献上品だ。箱を開けた途端、思わず周りから感嘆の呻き声が漏れる。

「これは、代々伝わる宝剣でございます。この意匠の素晴らしさと、剣を飾る宝石のきらめきをご覧ください。」と僕は説明する。まあ、ダンジョンに代々伝ったものだけどね。


 係官が宝剣を持ち恭しく皇帝に差し出す。

 皇帝は、驚嘆した表情を隠すこともなく、差し出された宝剣に、しばしの間、見入っていた。そして、「まさに、宝剣じゃな。素晴らしい造りじゃ。」と宣う。

 そして、係官に下げさせる。


 次に王妃への献上品だ。同じように、係官が箱を開けると、王妃の口から「まぁ!」と、満面の笑みとともに、一言漏れた。

「こちらは、ダイヤモンドに彩られたティアラでございます。デザインも異国のものでございます。」と僕。異国って、ダンジョンだけどね。

 王妃は、本当に嬉しそうに、係官から差し出されたティアラを眺める。

「王妃様には、美容ポーションもお付けしております。髪、顔、手足などに塗り込むと、次の日には、一層お美しくおいでになられます。」

 明日は、ポーションの効果で、一日中舞い上がる王妃の姿が目に浮かぶね。


 それから僕は、第二夫人と第三夫人に、それぞれダイヤモンドの意匠を凝らしたネックレスを献上した。喜ぶ顔がわかりやすい。

 皇子たちには、ほぼお揃いの琥珀の短剣だ。僕の魔剣をモデルにして僕が作った。実用品ではないけどね。メインの宝石の色を変えて、間違いないようにしてある。

 皇女たちには、宝石付きの金のブレスレットだ。あらかじめ目の色を教えてもらって、それに合わせた宝石を嵌め込んだ。

 そして、女性たちには、美容ポーションのおまけつきだよ。容器は、森林地帯の鉱山で採取した水晶を使った特別品だ。


 献上の儀式が済むと、皇帝が僕に「竜と神獣と言っていたな。見せてはもらえぬか。」と尋ねる。待ってました。シナリオ通りだ。

「竜は、今は大森林地帯に帰していますので、神獣をご覧に入れましょう。」

 大森林地帯って、僕の空気ポケットの中にあるやつだけどね。

 神獣を連れて謁見の間に入ることは、皇帝の了解済みだ。僕は、後ろに控えていた神獣猫に声を掛ける。

「チェルニーとベリー、元の姿に!」と。

 神獣たちは、たちまち巨大化し、謁見の間は、驚愕の声に包まれた。護衛の騎士たちは、剣と槍を構える。

 いつもこうなんだから、いやになっちゃう。神獣を出すことは、謁見に際しての皇帝との約束事なんだよ。護衛には伝えていなかったのな。

 仕方なく、今回も「大丈夫です。可愛いものです。」と、僕は2匹を撫でた。


 一区切りついたところで、皇帝は問う。

「ところで、ヒノノボルクニとはどこにあるのか。文献には見当たらぬと聞いておるが。」

「はい、この国にはまだ知られていないかもしれません。なにしろ、大森林地帯のカラティア国よりも遠くにございます。」と僕。

 皇帝は、そば仕えの博士に「カラティア国を知っておるか。」と尋ねると、博士は、「はい。今から1200年ほど前に突然滅びた、遥か東方の国でございます。」と即答する。

 1200年前だったのか、1000年前だとばかり思っていたけど、確かに根拠はなかったね。大した誤差ではないとしておこう。


「そこから竜に乗って来たのか。」と皇帝。

「はい、さようでございます。」と僕。カラティアから乗ってきたんだよ。

「王族である証明は?」とさらに皇帝は尋ねる。

「神獣が私に使えていることが何よりの証明です。」と僕。これもカラティアだけどね。

 僕のストーリーを否定する材料を得るのは難しいよ。なにしろ、カラティアもヒノノボルクニも僕しか知らないんだからね。それも、実在はしているんだ。嘘は付いていないよ。

「まあ、この国に知られていない、これだけの宝物を献上できるというのは、確かに王族としか考えられんな。」と皇帝が一言漏らして、追及は終わった。


 僕は臨席している皇子たちを観察する。第三皇子は、エリザベートの婚約者だし、今度、学園で僕と同じクラスになるので、特によく観察した。素直そうな子だね。好印象だ。

 第一皇子は、次を狙っているだけあって、表に立ちたがるようなところがある。皇帝の質問のときに、「そうだそうだ。」という表情が出るなど、時折皇帝を真似た偉そうな素振りをする。皇帝になる練習をしているつもりかもしれない。

 第二皇子は、表情に覇気が感じられない。どうしたのかな。兄の下で屈折しているのかな。あとの子たちは、小さすぎて、まだよくわからない。追々、情報を集めよう。

 こうして、謁見は終わった。


 アキラたちが皇宮を出たあとも宮内は落ち着かない。

 献上品の鑑定を行わなければならないからだ。呪いのようなトラップが仕掛けられていたら大変だ。皇宮附属の鑑定機関から上級鑑定人たちが、鑑定を行うための部屋に呼ばれる。皇帝たちも早く鑑定意見を知りたいので立ち合う。

「これらが今日の献上品ですか。」と言って、まず主任が宝剣に気を通して呪いがないことを確かめ、そして手に取って、じっくり眺める。

「これは見事な宝剣です。人の技とは思えない出来です。これだけの素材も容易には手に入らないことでしょう。どこで造られたかは見当が付きません。この国の業物ではないものと考えられますが、どこかの王や同等の有力者の肝いりで造られたものか、または、ダンジョンの上級層で出現したものか、いずれかではないかと推測されます。」

 そして一息入れて、「呪いの気配はありません。この剣の気高さに相応しい持ち手であれば、持ち主に害を及ぼすどころか、繁栄をもたらすことでしょう。」と鑑定の結果を述べ終えた。


 その他の献上品にもおおむね同様の鑑定結果が述べられた。皇室とて、これだけの心躍る献上品は、これまで覚えがなかった。早く鑑定が終わり、皇室の記録簿に記帳され、自分たちの手元に届くのを、皆、心待ちにしている。

 美容ポーションについては、「身体には全く無毒です。美容効果のかなり高い溶液と見受けられますので、少しずつ効果を試されながらご使用されるのがよろしいでしょう。」との鑑定結果に、女性たちは、一斉に顔をほころばせた。エドモンド公領で流行っている美容ポーションの噂は、皇宮にも伝わっていたのだ。


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