2 入学手続き
そうこうしているうちに、公爵邸から「エルトパルト皇帝との謁見の日取りが決まりました。」との連絡がきた。10日後だ。
謁見まで日があるので、先に帝都学園に行って、入学手続きをすることにした。紹介者である公爵の令嬢ということで、エリザベートに付き添ってもらう。公爵家の馬車で学園に向かった。
ヒルデ・ベレンテルは、この帝都学園の女性校長だ。自分も貴族で、この学舎で学んだ。卒業後はこの学園で教師の職に就き、今では校長に上り詰めている。
『アキラ・フォン・ササキ。ヒノノボルクニの王族。竜使い。・・・一見して相当変わっている。この学園には、変わった子が幾多いましたが、こんなにわからない子は初めて。』と思う。
今日この子が入学手続きに来る。自分の知識にはなかったので、図書室で調べたが、ヒノノボルクニの存在は確認できなかった。『本当かしら。』と思わずため息をつく。
でも、エドモンド公爵の推薦があり、皇帝の承諾も得ているという。公爵令嬢も同学年だ。疑うのは止めよう。自分にも知らないことはたくさんある。
ヒルデは、しばらくの間、そんな思索にはまっていたが、ふと、約束の時間が間近であることに気が付いた。
僕たちは、学園に到着だ。御者が門番にあいさつをして、中に入る。敷地が広い。皇族や貴族は馬車で送り迎えだそうだ。馬車を降り、学園の入口から建物の中に入る。あらかじめ約束は入れてあるので、まず校長室に入る。ヒルデ・ベレンテルという名の女性校長が出迎える。さすがに知的で品がよい。
「始めまして。私は、アキラ・フォン・ササキです。この度は、入学を許可していただき、光栄でございます。このような立派な学舎で学べることを光栄と存じます。」と僕は型通りのあいさつをする。
ヒルデは、「これは、これは、ようこそ御出でくださいました。当校といたしましても、あなた様をお迎えすることができて光栄でございます。アキラ様。」とあいさつを返した。
ヒルデは、あいさつを終えると何だか気が楽になった。アキラが15歳の成人にしては随分幼く見えることが、その信頼性の証明にでもなったかのように、それまでの懸念を頭から追い払ったのだった。
事前の審査は済んでいるので、今日は、顔合わせと、入学金と半期の授業料として、合わせて大金貨2枚を納付し、カリキュラムの説明を受けることになっていた。ここで学ぶのは、1年に4~6月と9月~11月の2クール合計6か月だけだ。15歳で1年生に入学して、18歳の3年生で卒業する。でも、入学も退学も自由だ。3年の間に領地を継ぐ子もいれば、他家に嫁ぐ子もいる。それぞれの事情が優先する。
生徒は、皇族、貴族と大商人の子弟がほとんどだ。相当余裕がある家の子弟しか通えない。また、身元保証として、王族や高位貴族の紹介状も必要となる。したがって、身元のしっかりした裕福な家の子弟ともなれば、範囲は自ら限定される。
僕が編入されるクラスは、1年の上級クラス。第三皇子が在席している。上級なので、王族と上級貴族の子弟が占める。クラスの人数は15名程度とのこと。男女は別クラスなので、エリザベートは、女子の上級クラスだ。
教室を案内された。部屋は大きい。1人ずつ、2~3人は座れそうな円卓が机になっている。ちょっとしたお茶会でもできそうだ。椅子も高級だ。授業中、教室の後ろには、学生たちのお付きの者や護衛が立つことになる。まるで授業参観だ。あとで、父母に授業を受けている様子を伝えられちゃうな。
図書館にも案内された。多くの蔵書がある。もっと魔法のことを勉強したい僕としては、とてもありがたい。入学前だからまだ利用はできないが、入学したらしばらくは入り浸りそうだ。
校長室に戻ってきて、カリキュラムの説明を受けた。
「1年生のクラスは、座学で、領地経営、生産・流通、魔法理論、言語、歴史、地理、薬学、生物、ダンジョン、実技でと剣術、魔法実技があります。選択制で何をとってもかまいません。男女別クラスですが、学科によっては、教えられる先生が少なくて、一緒のクラスとなる場合もあります。」
ダンジョンなんてあるのか。確かに、経済的には大きな存在だし、攻略法も知って入れば、実入りも段違いかもしれない。ただ、この学園に入る学生がダンジョンなんかに行くのかな。
魔法は理論と実技か。実技ってどんなことをするのだろう。火球を飛ばしたり、水を出したりするのかな。受講する学生は、どの程度の攻撃力があるのだろう。聞いてみよう。
「魔法実技は、どのようなことをするのでしょうか。」
ヒルデは、「1年生はまだ、詠唱で火や水を出したり、風を起こすくらいです。上級生になると、土人形を作って動かしたり、火球で物を爆炎させたりできる学生もいます。」と答える。
まあ、そんなものか。でも、土人形って面白そうだな。土人形対戦なんて興行になりそうだ。でも、ほかに何に使うのかな、土人形なんて。
いろいろ案内されたり、カリキュラムを聞いたりするにつれ、カバーでなくても始業が楽しみになってきた。何しろ僕は、本当は大学生だからね。勉学に励まなければならない立場なのだよ。
僕は、選択するカリキュラムを登録した。事前に聞いていた第三皇子の選択とほぼ同一だ。登録が終わり、ベレンテル校長にお礼を言って、学園を後にした。
『アキラ様は、協調性は問題なさそうね。でも、本当に成人なのかしら。ここの学園の授業には付いていかれるのかしら。』と、アキラが去ったあとに、新たな心配をするヒルデであった。
入学は、ステータスの一つとなる。僕は、そのステータスを手に入れることになるのだ。
いよいよ4月からアンダーカバー入学だ。胸が躍る。