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3 ドラゴンが来た

 僕は出番が来たかと、本物のドラゴンを見たいという好奇心も手伝いながら、急いで広場に駆けつける。聞くと、出現場所は少し離れた牧場とのことなので、皆でそこまで走った。

 いた、いた、いた。全長15mもありそうな、ヨーロッパ中世の騎士物語に出てきそうな翼つきの竜だ。


 エルフといい、ドラゴンといい、元の世界のおとぎ話に登場する存在を現に見ることができるということは、この世界が、元の世界の人々の空想と何らかの関係性を有するとみるのが合理的だ。元の世界に戻るヒントになるかもしれない。この世界の破壊は極力避けよう。ドラゴンも倒すことまでは予定されていないのかもしれない。


 それにしても、目の前のドラゴンは、リアルにできている。火を噴くという話は聞いていないが、元の世界でも、人を感電させる電圧をもった発電器官を有する電気ウナギや電気ナマズがいるくらいなので、この世界に発火器官を有する生物がいたとしても、あながち不思議なことではないのかもしれない。


 ドラゴンは、空を舞いながら、1頭の子牛めがけて舞い降りてきた。僕は、試みに手を振りながら、ドラゴンの餌に予定されている薄幸の子牛の傍らまでやってきて、ドラゴンを見据えた。やっ、目が合った。爬虫類の目をしている。感情が見えない。それにしても、近くで見るとやはりでかい。大きさだけならティラノサウルス級だな。きっと。しかしこんなのが飛べるのか。


 疑問が脳裏をかすめながらも、僕はとっさに「ひれ伏せ!」と、大見えを切った。もちろん日本語だが、皆には何かの呪文に聞こえたかもしれない。なぜにこのような行動をとったのか、自分にもわからない。本能が赴くままの最適行動だと思う。

 ところが、なんとドラゴンは、そのまま僕の目の前に舞い降りて、「伏せ」をしたではないか。まるで、ペットの犬ででもあるかのように。


 そうか、僕のペットになることが予定されていたのか。あばたもえくぼとはよく言ったもので、そう思うと、ごつい頭にもたちまちに可愛さが宿り、僕はドラゴンに近づくと、背伸びをして、よしよしと頭をさすった。ドラゴンも爬虫類のようなその目を閉じて気持ちよさそうにしている・・・ような気がする。


 そこで、ドラゴンに言い渡す。『今後は、エルフの家畜をさらったり、エルフに危害を与えたりしてはならない。エルフの守護者となるように。』と。

 ドラゴンは、神妙に肯く。念話は、エルフたちにも聞こえたようで、一斉に歓声が上がる。

 面目躍如だ。仕事は終わった。


 ドラゴンは、僕の使役獣にすることにして、その辺で、自分の食い扶持は自分で確保することにしつつ、村の守護をさせることにした。そもそもこの辺は、野生動物が豊富なのだ。ちょっと贅沢をして、エルフの子牛を攫ったことは、本能の範囲内であろう。人間だって子牛料理は好きだ。気にしない。


 ドラゴンには、ファーフナ―という名を付けた。ファーフナ―は、大蛇に変身してニーベルングの指輪を守る巨人の名で、指輪の呪いにより、ジークフリートに倒されるのであるが、そんなことはどうでもよい。それより実は、僕はわくわくしているのだ。そう、こいつに乗って空を飛ぶことに。


 それからは、ファーフナ―の乗騎訓練と、村での日常生活だ。この世界のことや伝承をもっと知らなければならない。そして、ファーフナ―と一緒に、旅立たなければならないのだ。

 この村に降ったのは、おそらくドラゴンを手に入れるためだったのではないかと思う。本当の第一歩だ。


 ファーフナ―の身体は、固い鱗に覆われている。そのまま乗ると、滑るし尻が痛くなりそうだ。馬でも鞍を着けるのであるから、ドラゴンであればなおさらであろう。僕は、村の革職人に頼んで、適当な鞍とマズルを作ってもらった。本当は口輪のはずだが、体が大きいので、首輪にして手綱を付けたものだ。


 材料は、僕が森に入って忍び猟で仕留めてきた鹿の皮だ。豪勢に何頭分も使った。おかげで村では当面、鹿狩りが不要となり、満ち足りた肉食生活が続いた。飼い主としては当然、「お手」と「待て」を教えながら、ファーフナ―にもお裾分けをした。


 エルフたちは、長生きらしい。らしいというのは、大きな数の概念がなく、自分の年齢を数えていないからだ。それでも「長老」と呼ばれるエルフたちから、この世界の情報を得た。

 いったい何百年生きているのだろうか。この世界のことでも、他から隔絶しているにもかかわらず、多くの情報が得られた。どうしてそこまで知っているのか、と尋ねても『鳥が運んできた。』としか言わない。どこの世界でも秘密はある。詮索はしないのが身のためである。


 ここから遥か東(日の昇る方)に行ったところに、巨大な火口を有する山があり、その近くの山に、古代の遺跡があるという。山頂近くから山麓まで、大きな都市が栄えた跡がある。森は深く、獣は多く、遺跡は凶暴なヒヒが守っており、人族もエルフも誰も近づけない。長老たちの生まれるずっと前に栄え、そして亡んだ都市だという。


 そこはかつて、カラティアという国が栄え、遺跡には、王が集めた宝物と、さらにその価値を遥かに上回る書物が大量に残されているそうだ。書物の中身は誰も知らない。伝承では、敵に攻められたわけでもなく、一夜にして亡んだという。そして、そこに行けば、「世を変えることができる。」とされているそうだ。


 僕は、「世を変える」予定など入れようとは思わない。しかし問題は、それほどの価値があるとされる書物だ。大いなる興味が惹かれる。文字が解読できるかどうかは、行ってみないとわからない。相手が生物でなければ、観念での会話は成り立たないだろう。だが、そこがきっと次の目的地だ。十分な準備をして、出掛けるしかない。

 僕は、ドラゴンを得たのは、このためであったのかと、なんとなく合点がいった。


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