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15 公爵家訪問

 朝起きたら、輝く姉さんが出来上がっていた。大成功だよ。これで、献上品は喜ばれること間違いない。明日はいよいよ公爵家の訪問だ。今日は、準備をしなくちゃ。

「いってきます。」とアルスとジル。朝食を終えて、寺小屋に向かう。マリエラが送っていく。物の価格の話を聞いて、寺小屋で教えている内容に興味を持ったみたいだ。授業参観だね。

 午後は、アルスたちを連れて洋品店に行こう。彼らの従者服もできているはずだ。

 午前中は、すべきことを考えておこう。また、マリエラ姉さんには、訪問着に似合う新しいネックレスも作ってあげたいな。いないうちに、こっそり作業をしよう。サプライズのプレゼントだ。


 僕は部屋に籠り、マリエラにネックレスを作る。今度は、髪の色に合わせた金がいいかな。目の色の黄色の貴石だけど、前に黄色いサファイアのネックレスをプレゼントしたな。今度は黄色いダイヤがいいかな。公爵夫人には、ピンクダイヤを差し上げたので、一回り小さいネックレスなら出しゃばらないかな。と、ポケットから純金の延べ棒と手頃な大きさのイエローダイヤモンドを取り出し、きれいなネックレスを作った。やはり、防御の発動式は念じ込めておこう。強力だよ。これで姉さんの暗殺はかなわないからね。

 作業をしているうちに、玄関から「ただいま。」という声が聞こえた。


 昼を食べて、皆で洋品店に出掛ける。ヴィオレッタも、アルスとジルの仕立てを見たいということで付いてきた。洋品店に入る。いつものように、「いらっしゃいませ。」のあいさつだ。「できていますか。」と僕が聞くと、「はい。」と奥の試着室に案内される。僕のは、仮縫いのときに問題なかったからいいよ。マリエラ、アルス、ジルに試着を促す。


 マリエラは、出来上がった訪問着に着替えて、僕に見せる。「上品だね。よく似合うよ。」といって、ポケットからさっき作ったネックレスを取り出し、「これは似合うかな。」と、さりげなく首に掛ける。マリエラは、姿見にその姿を映すと、黄色い瞳にうっすらと涙を浮かべ、「とても似合うわ。ありがとう。」と感激して震えた。

 いいね。姉さんにプレゼントすると、こんなに喜んでもらえる。プレゼントのし甲斐があるというものだ。その上から毛皮のオーバーを羽織ったが、上流階級の貴婦人そのものだったね。


 アルスとジルの服もよくできている。公爵家に随行しても恥ずかしくない。服を包んでもらい、街で必要なものを買って皆で帰路に就いた。そして夕食後に、魔法陣を使って魔道具を1対作った。公爵家と僕らの拠点の連絡用に便利ではないかと思って。

 その夜は、明日の訪問を控え、風呂に入って早めに寝た。さすがに美容ポーションは、1週間に1回で十分なので控えたよ。


 翌日、いよいよ公爵家訪問だ。2度目だけどわくわくするね。マリエラは、訪問は初めてのようで緊張している。でも姿も衣装も堂々としたものだから、何の問題もないよ。献上品の確認をし、チェルニーとベリーを猫にしてお供として待機させる。

 迎えの馬車がやってきた。玄関の呼び鈴が鳴る。皆で外に出た。

「お早うございます。お迎えに上がりました。」と従者。

「ありがとうございます。お迎えご苦労様です。」と僕が答え、皆で馬車に乗り込む。

 さあ、出発だ。


 街中を通るので、公爵邸までは馬車でも30分くらいはかかる。

 大きな門に着いた。警備の人が門を開ける。そこから更に玄関までは、結構歩く距離だ。馬車でないと時間が掛かる。さあ着いた。馬車を降りる。

  そこには、出迎えの執事やメイドが並ぶ。そして一斉に「ようこそおいでになられました。」とあいさつをする。僕らは、「お招きいただき、ありがとうございました。」とあいさつを返す。


 応接室に通される。そこに、公爵、公爵夫人、令嬢、子息と一家全員が入ってきた。勢揃いだ。今日は、令嬢と、せいぜい夫人までだと思ったのに、びっくりした。

 公爵夫人の身体の調子は、すこぶる良いようだ。見るからに血色がよい。施術が効いてよかった。僕らは席を立って、お辞儀をした。アルスとジルは従者なので立ったままだ。

 公爵たちは、マリエラの美しさに見とれている。エリザベートは、「どこかで会ったかしら。」という表情もしている。

「マリエラ・スチュアルダさんです。冒険者のパーティーメンバーです。」と僕が紹介する。

「あらっ、やっぱりマリエラなの。」と令嬢。びっくりしている。

「護衛のときと、随分様子が変わりましたことね。」と令嬢。

 続けて、アルスとジルを従者として紹介する。最後は、チェルニーとベリーだ。

「神獣のチェルニーとベリーです。僕の従者です。」

 全員の紹介を終え、僕とマリエラは席に着いた。神獣の猫って内心驚いているだろうね。公爵家の皆さまは、何から口にすればよいか戸惑っているよ。


 まずは差しさわりのない話題を交わす。公爵夫人からは、改めて施術のお礼を言われた。もう乗馬もできるそうだ。完全回復だね。

 それから僕は、おもむろに、「本日は、公爵夫人と令嬢に献上品を持って参りました。」と告げ、美容ポーションを差し出す。

「あら、ありがとう。使い方を教えていただけますこと。」と公爵夫人。

 僕は、別に持参した1瓶を取り出し、「これは、美容ポーションです。こうやって塗ると、髪や肌がとても輝いてきれいになります。ちょっとした皮膚の傷も治ります。マリエラも付けて参りました。効果は、ご覧のとおりです。」と僕が説明する。そして、「1回で1週間は効果が持続します。」と付け加える。

 皆、改めてマリエラを見るが、きれいな髪と肌を見て納得だ。

「マリエラ、とてもきれいになりましたね。護衛のときは、傷だらけで髪も肌も荒れていたように見えました。いまは、豊かなブロンドの髪が輝いていますわ。服装も見違えました。貴族の令嬢のようですわ。ネックレスも眼の色に似あってきれい。」と令嬢が口を開く。

 マリエラは、「ありがとう存じます。そのようにおっしゃっていただいて、光栄でございます。」とニコニコしてお礼を言う。


 公爵は、「先日、冒険者ギルドから、ダンジョンの新規階層攻略の連絡があったのだが、そこに君たちの名前があってとても驚いた。いつから君たちは、パーティーを組んだのかね。」と尋ねる。

 2週間前くらいだったかなと思いながら、「つい最近です。ここをお暇して、冒険者ギルドに行ったところ、そこでマリエラさんと再会してパーティーを組むことにしました。僕は、この国のことを何も知らないので、いつでも助けてもらっています。」と答える。

「それにしても、ここから出て、まだ2週間くらいだ。それで、新規の10階層からもう12階層まで攻略したなんて、信じられなかったよ。」と話を続ける。


 そのあと尋ねられて、ひとしきり新階層の攻略について話をした。令息のアルフレッドは、男の子だけあって冒険談が好きらしい。顔を輝かせて聞き入っている。

「新階層で活躍してくれたのが、ここにいるチェルニーとベリーなのです。」と僕は改めて、チェルニーたちを話題にする。彼らは、ギルドマスターも知っているし、いろいろ目に付くこともあると思い紹介するために連れてきたのだ。

「まあ、かわいい。」と令嬢。でも次の瞬間、固まったよ。

「元の大きさに戻っていいよ。」と僕が言うと、彼らが、たちまち巨大化したからだ。

 皆、声も出ない。

 僕は、やり過ぎたかなと思い。「大丈夫です。大人しいですよ。」と言って、席を立って彼らの頭を撫で撫でする。

「どうですか。エリザベート様も。」と促すと、決意を目に灯し、席を立って、同じように、撫で撫でした。

「きれいな毛ですわね。」と、ホッと一言口にした。そのあと、皆で代わる代わる撫で撫でしたよ。

 そして、僕が「チェルニーたちがいなければ、新規攻略はできませんでしたよ。」と言ったら、皆さま納得顔をされた。


 エドモンド公爵が言う。「私が臨席したのは、実は君たちにお願いがあってのことだ。」

 そこで、席を立ち、僕とマリエラは、談話室に、アルスたちは従者の控室に案内された。

 公爵一家も、談話室に移動する。そこで公爵は、口火を切る。

「エリザベートが狙われた事件は、王にも報告してあるが、犯人の目星はついていない。そこで、帝都の学園に戻る途上の警護はもとより、帝都の学園内で警護をしてほしいのだ。できれば、犯人の尻尾もつかんでほしい。」と。


「学園は、王族や上級貴族の子弟も通うので、警備は厳重だが、各自の警護は自前で行ってよいことになっている。」

「その方法は2つある。貴族の学生に成りすまして学級に潜り込むことと、護衛用の服装をして教室の後ろで警護をすることだ。」

「アキラ君には、成りすましをお願いしたい。マリエラ君には、エリザベートの護衛として警護をしてほしい。」

「アキラ君の潜り込む教室は1年生の上級で、第三王子がいる。もちろんこのことは、王と第三王子も了承済みだ。実際は、第三王子の護衛も兼ねることになる。」


 僕は、腕輪の念話で、マリエラに『どうする?』と聞いたら、『公爵様には恩があるので、ぜひ引き受けます。』との力強い答えが返ってきた。アンダーカバーか、いいね。僕らは、揃って「お請けします。」と答えた。


 そうすると、これから打ち合わせもいろいろありそうだ。丁度いい。と、公爵に昨夜作った魔術具を渡す。魔牛の角の先端部分を利用して握りやすくできている。底の断面に魔法陣が転写されている。

「これは、連絡の魔術具、テレパフォンです。2台で1対になっていて、公爵邸と僕らの拠点に1台ずつ置きます。そして、公爵様が僕らに連絡をしたいときは、魔道具に装着してある魔石の部位を握れば、僕らの拠点にある魔術具がピンポンと鳴ります。そうしたら、僕らが、鳴っている魔道具の魔石の部位を握りますので、それでお互いに念話で会話できます。声を出さないので、秘密の会話もできます。なお、誰も出ないときは、留守ですので、おかけ直しください。夕方以降は、だいたい家にいます。」と説明する。

 公爵は、「これはありがたい。今後大いに役に立ちそうだ。」と喜んで受け取った。


 そのあと、僕は、「どなたか信用できる商人をご紹介いただけませんか。公爵夫人とご令嬢に気に入っていただければ、美容ポーションを販売することも考えておりますので。」と公爵にお願いをした。

 公爵は、「わかった。今後大きな取引になるかもしれないからトーマス商会のトーマスが適任かな。君たちに連絡を入れさせる。」と言ってくれた。


 こうして、僕らは公爵家を後にした。アルスたちは、控室でお菓子をふるまわれたそうだ。連れてきてよかったね。

 そして、前回の活躍もあり、「不思議の国の少年」は、メイドたちに盛大に見送られた。僕の身体を丁寧に洗ってくれた子たちもいる。だが姉さんには内緒だよ。なにせ今は姉さんの独占だからね。



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