13 寺小屋
今朝は、ヴィオレッタと、アルスとジルを寺小屋に通わせることを話した。ヴィオレッタは、嬉しそうだったが、謝金が心配そうな様子だ。隣で様子を伺っているアルスたちは、勉強より僕らとの冒険の方が楽しいとブツブツ不満顔だ。
衣食住が足りると、人は贅沢になる。与えられた機会が、何ものにも代えがたいものだと理解できるのは、随分後になったからだ。その時には後悔しかない。今の楽しみよりも、人生の幅を広げることにより生まれ出る幸せを選択することが、真に賢い生き方だ。人の代わりにドロップアイテムを拾って何になるのだ。人生の選択肢を増やし、自分にしかできないことを探すのがよかろう。
ということで、「謝金は心配ないよ。この子たちのお陰で随分稼げたからお礼だよ。」と言って、気分が乗らない2人を連れて、街に出た。
ところで、どこで探すのだ。街に出たのはよいが、考えていなかった。そうだ、冒険者ギルドなら、街の情報をいろいろ持っているだろう。とギルドにやってきた。ギルドの受付では、「今度は何だ」という気を引き締めた顔で応対された。
僕が、「この子たちが寺小屋に通いたいので、いくつか紹介してもらえますか。」と聞くと、受付嬢は、親切にもほかの職員に聞いて回ってくれて、寺子屋をいくつか紹介してくれた。
お礼をいってギルドを出て、紹介された寺小屋を順番に参観して回った。教育方針と学習内容を見るためである。2人には、学習の喜びに目覚めてほしい。だから、先生を選ばなくては。
いくつか回り、「ここは」とピンとくる寺小屋があった。名称は、「寺小屋エミール」だ。エルフのエミルを思い出す。どうしているかな。この寺小屋は、比較的裕福そうな商家、騎士、官吏の子弟が50人ほど1つの教室で学んでいる。8歳から成人前の14歳くらいの子らか。少し生徒が多いかなと思ったが、先生1人に補助が2人ついている。補助の人も教室を回って、わからない様子の子らに個別のフォローをしている。教える内容は、具体的な実学だ。先生がわかりやすく説明し、質疑も活発だ。生徒の人数が多いのは人気があるからかもしれない。
いい雰囲気だ。ここに決めよう。そこで早速、その場で入学の手続きをした。入学金と3か月分の謝金そして教材の代金を払い、受け取った教材を2人に手渡し、教室の空いている机に座らせた。
アルスとジルは、右も左もわからない環境の中、知らない子どもたちに囲まれて、いきなり授業を受けさせられたのだから、たまったものではない。先生の話している内容が皆目見当がつかない。でも、仕方なく聞いているうちに、耳にしたことがある内容も出てきて、いつの間にか先生の話に集中していた。生徒の質問も面白い。
世の中には、何て知らないことが多いことか。「へえ、モノの値段はそんな風に決まるのか。」昼前に授業は終了したので、今日はもらった教材を持って下校だ。そして、明日は、朝から登校だ。
こうして、アルスとジルの新しい冒険、そう、知的冒険が始まった。
僕とマリエラは、アルスたちを寺小屋に置いて、洋品店に向かう。訪問着の仮縫いができているはずだ。「いらっしゃいませ。」と、僕たちが店に入ると愛想よく店主が迎える。
「訪問着の仮縫いはできていますか。」と聞くと、奥に通された。試着室だ。
マリエラ姉さんの訪問着は、よくできていたよ。どこのお貴族様という雰囲気だ。素材はウールにシルクを混ぜて光沢が出ている。「よくお似合いです。」と店主が言う。僕も賛成だ。
僕のも問題なかったので、2日後に取りに来ることにした。
拠点に帰り、ヴィオレッタに、アルスとジルが「寺子屋エミール」に入学して入学金3か月分の謝金と教材代金を支払済みであること伝えた。授業は午前中なので、お昼には帰ってくると言っているうちに、「ただいま!」と元気に彼らは帰ってきた。
皆でお昼を食べながら、アルスとジルは、口々に、今日習ったことを話したがる。
知的好奇心が刺激されているな。いい兆候だ。そこで僕は聞いてみる。
「ものの値段は、どうやって決まるの?」
アルスは、「それはね。生産者と販売者がいるんだ。販売者が生産者から買い取って、人々に販売するんだ。だから、生産者と販売者がそれぞれ値段を決めるんだよ。」と得意げに言う。しっかり勉強してきたね。そこで更に尋ねる。
「それじゃ、生産者はどうやって販売者に売る値段を決めるの?」
「う~ん。どうやって決めるのかな。今日は習ってないよ。明日聞いてくる。」とアルス。
明日の授業が楽しみになったね。
僕とマリエラは、そのあと拠点を出て冒険者ギルドの図書室に行った。
図書館で僕は、魔法陣の転写の続き。マリエラは、ポーションの勉強だ。
夕方までせっせと作業に身が入る。今日は、中速コピー機だ。慣れると早くなるね。何ごともそうだけど、努力は人を裏切らない。
これは電話みたいな機能か、これは発酵促進か、これは土壌改良、栽培促進、これは濾過、蒸留か。重量を軽くする機能もあるぞ。いろいろあるな。僕の頭の中速コピー機が次第に高速コピー機と化して、目が回りながら、「魔法陣 巻の3」の転写を終えた。うっ、めまいがする。
そのあと、昨日の買取品の評価を聞きに行くと、斧特大6丁と角特大6本で大金貨17枚にもなった。相当珍しい品なので、高く買い取ってもらえるとのことだ。角特大は、根本は直径50cmはあるからね。長さは2mか。大ホールでも飾れるよ。
姉さんに支えてもらいながら、拠点に戻った。その日は夕食を終えて早めに休んだよ。