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12 第12階層の攻略

 朝早く歩いてダンジョンに着く。もう大勢の冒険者たちが集まっている。でも12階層に行くのは、もちろん僕らだけだ。待つ人のいない魔法陣の前に立つ。

 うん、この魔方陣も転写できるのかな。大規模で複雑そうなので、時間が掛かりそうだし、転写しても意味なさそうだね。いや、転写できれば家から直接その階層に通える?

 どうだろう。でもそうやって入場料をごまかすのは良心が咎める。真面目が大切だね。やめておこう。

 こうして僕たちは、たちまち12階層に着いた。


 武具を整え、ピューマのチェルニーとベリー、マンモスのスローそれから斥候として灰色オオカミのヴォルクと大鷲のオペルを呼び出した。そういえば、前回は、チェルニーとベリーは、巨大化していたな。猫みたいに小さくもなれるのだろうか。ちょっと聞いてみようか。

「小さくもなれるのかい?」

 すると、チェルニーたちは、たちまちのうちに、猫のように小型化した。

「わー、かわいい!」女性陣から思わず声が漏れる。

 これなら、シークレットのボディーガードで連れて歩けるな。エリザベートにも紹介しておこう。

 僕が「戻っていいよ。それから、この間みたいに大きくなっていて。」と言うと、今度はいきなり巨大化した。すごいね。近くにいるのに、知らないことが多いよ。

 そして、「ヴォルクとオペル、行ってきて。頼んだよ。」と斥候を送り出した。


 この階層も10階層と同じように岩山だ。ただ、規模は大きい。

「イーグルアイ!」見える、見える。道の両側の岩陰に頭が2つある大ミノタウロスが、ばらばらと待ち構えている。一体ずつ片付けようか。ミノの隠れている少し手前から、武器を構えながらゆっくり進む。


「でたっ!」

 この階層のミノタウロスは、両手で諸刃の斧を振り回す。スピードが速くて威力がある。僕が右首の喉目掛けて切りかかると、右手の斧で防いで、左手の斧で打ちかかってくる。左右の頭が、それぞれ情報処理をしているのだな。これは手ごわい。

 グオン。僕の盾が左の斧を防いだ。その途端、全長50cmもあるミスリル手裏剣が、ここぞとばかりにミノを襲った。ミノは、必死でそれらを両手の斧で撃ち落とす。

 今だ!と、僕は、隙を見せたミノの右首を切り裂き、返す刀で左首を切り落とした、ドドゥ、と音を立ててミノは倒れる。

 マリエラも同じように一体倒していたよ。一体で、斧2丁、角2対、魔石大がドロップした。この角は立派だ。全部持って帰ろう。

 こうして30体ほど倒し、ボス部屋についた。やっぱり3時間くらいかかっている。


 皆でボス部屋に入った。10体ほどの従者。これまでのものより一回りは大きい。ボスは、何と頭が3つで、腕が6本の巨大なミノタウロスであった。もちろん、暇をしている手は1本もなかったよ。僕らが入ると、従者は、一斉に掛かってきた。


 ミノは、僕らの盾をバシバシするが、そのあとは、手裏剣の反撃を受けてパニックになっている。そこを一体一体、2つの首を切り裂くか心臓を突きさす。胸板が厚いし、骨も固いので、心臓を突くのも簡単なことではないが。


 あっ、マリエラ姉さんが撃ち飛ばされた。文字どおり吹っ飛んだな。でも強力な防御が効いているので、何ともないけどね。一回体勢を整える必要はあるけど、すぐに戦線に復帰だ。2人で何とか10体倒したよ。次はいよいよボスだ。


 さすがボスは大きい。身長は10mはあるだろうか。僕の6倍以上だよ。籠手初めに、一斉に手裏剣を放つ。カキン、カキンと、6本の斧で、全て叩き落す。「逮捕!」と拘束を発動したが、一番下の手の動きが鈍っただけだ。やっぱりボスは違うね。


 前と後ろから同時に掛かるか。後ろは首の付け根が弱点だな、牛だからね。きっと。僕は前から腹を狙おう。僕が前からボスの気を引いている間に、マリエラが後ろに回る。

「位置について、よーい・・・逮捕!」と、少しでも手の動きを鈍らせようと、あまり効果の期待できない拘束をかけながら、僕とマリエラは、同時にボスに襲い掛かった。


 ボスは、いくつもの斧で僕を叩く。それを、盾で受け止める。

 僕は小さいんだよ。大きなボスは、僕を撃とうとすると、屈まなければならない。それは隙だ。反撃の手裏剣がいくつも身体に刺さる。ボスは焦る。その間隙を縫って、マリエラが跳躍して後ろから首筋にミスリルソードを突き立てた。ボスは振り向く。そこを僕がアキレス腱を切り裂く。ドゥドゥドゥとボスは倒れ、そこに僕たちは2人がかりで首筋を切り裂く。

 こうしてボスは絶命した。


 いやいや凄かったね。従者からは、斧大きめ20丁、角大きめ20対、魔石特大10個がドロップした。ボスからは、斧特大6丁、角特大6本、魔石特特大1個出たよ。

 さて、宝石箱だ。何が出るかな。

「わぁ、これは見事だ。」

 そこには、ミスリルの諸刃斧があった。美しい造形の柄に宝石が鏤められていて、その輝きは見る者を魅了する。国宝級だね。これまでのお宝から、ランクアップだ。買取に出さないで、取っておこう。


 いつものように、ここから1往復して、再度ボスを倒した。この間に簡単な昼食をとった。

 2度目のボスは、初回に比べて効率よく倒せた。経験値が上がっているんだね。

「今度のお宝は何かな?」とボス部屋の宝箱を開けると、「うん、またマジックバッグか。アルスたちに持たせておくと重宝するね。」

 マジックバッグはいくらあってもいいからね。よかったよ。

 それから僕らは13階層に出て、魔法陣で出発点に戻った。ダミーのリュックを背負っているだけなので、まったく目立たない。


 ギルドに寄る。受付に、「12階完了です。」と短く伝えると、奥の別室に通された。

 レオンとアランがやってくる。「半日足らずでまたか・・・」とレオンは呟く。

 僕らは、いつもの通り、12階層の様子を詳しく伝える。レオンたちは、もうこの頃には、僕が特殊な能力を持っていることをお見通しだ。使役獣や魔剣だけではなくてね。

 そして、ボスのドロップアイテムを出してみせる。2回倒したことは、今度は秘密だ。

「ボスは頭が3つ、手が6本でしたから、これだけ出ました。実に効率的です。」

 と僕は嬉しそうに言う。

 そして、「斧特大6丁と角特大6本は、買取をお願いします。」と付け加えた。


 レオンは、「宝箱から何かでなかったのかね?」と聞く。

 僕は、「出ましたけど、僕たちが使うので、お売りしません。マジックバッグですよ。」とマジックバッグを出して見せた。こうしてあらためて見ると、先日のものより容量がありそうだ。「大」かな。先日のでもマリエラは不自由をしていなかったようだけれど。


 国宝の斧は内緒だ。国宝級が出たとなると、いろいろ影響が大きいと、僕は思う。狙われると、寝起きが悪くなる。どうせ返り討ちだから、悪い気を起こさせることが罪なのだ。


 ところで、先日の戦利品の鑑定を聞き損ねていたので、ここで聞く。マスターは、職員を呼びにやった。やってきた職員は、「額の角普通350本、大100本、特大2本、黄金の牛全体と黄金の牛頭でしたね。これが明細です。」と明細書を示し「大金貨48枚となります。」と言った。

 僕らが頷くと、職員は「こちらに持って参りますので、しばらくお待ちください。」とお金を取りに行き、大金貨を持ってきて僕らに渡した。こんなになったんだ。今回は凄かったね。その場で半分に分けて、僕らはギルドを後にした。


 その日はそのまま拠点に帰った。まだ夕食には時間がある。その間にアルスたちを風呂に入れる。僕らは食後にゆっくり入ることにする。

 夕食時は、子どもたちが賑やかだ。今日の出来事を、いくらしゃべっても、しゃべり足りない。

「お姉さんがね、大きなミノタウロスに吹っ飛ばされたんだよ。だけどね、もっとおっきなボスのミノタウロスの背中に飛び乗って、首に剣を突き立てて倒したんだ。」みたいな冒険談だ。

 家族みたいだな。会話の内容は別として、平和な夕餉だ。こんな時間を大切にしたい。これからアルスたちをどうしようかな。あとで、マリエラとも相談しよう。


 風呂の洗い場で、マリエラの背を流しながら、僕は聞く。

「姉さん、今日は、ミノに飛ばされて痛くなかった。」

「全然、アキラのくれた防御で痛くなかったわ。」とマリエラ。

「怪我はないよね。」と僕は姉さんの身体を念入りに調べる。

 よかった、傷一つない。美容ポーションの効果も消えていない。全身輝いているように見える。もしかして、美容ポーションを使うと、肌の勢いがよくなるので、少しの傷くらい治ってしまうのかもしれない。いろいろ効能をうたえば、商品になるかな。この世界にも薬の販売に規制があるのかな。


「それにしても、ボスの止めは凄かったね。一突きだったよ。姉さん。」と僕。

「みんな、アキラのおかげね。」と、マリエラは、笑って僕を抱きしめた。

 そのあと、湯船にマリエラと向かい合って浸かりながら、アルスたちの話をする。

「アルスとジルのことだけど、しばらくダンジョンはお休みにして、寺子屋で勉強してもらおうかと思うんだ。読み書きや数え方も知らないと、これから先、生きていくのは大変だからね。」と言う。

 マリエラは、「それはいいわね。ダンジョンも階層が危なくなってきたし、少し心配だったの。」と答える。

「じゃあ、そうしよう。ところで、今度は、12階層を繰り返してみたいんだ。前みたいにチェルニーたちに乗って、ボスだけを倒すことに専念したい。何日か置きに、新規攻略っていかにも変だし。」と更に言う。

「賛成だわ。最近、マスターと話をしているとき、何か居心地がわるかったの。悪いことしているわけじゃないのに、何か隠し事しているみたいで。」と答える。

 よし、明日の休みは、アルスとジルを寺小屋に連れて行こう。

 僕たちは、そのまま寝所に入った。今日もいい夢を見よう。


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