8 魔道具とポーション
今日は休みだ。ギルドで、魔道具とポーションのことを知りたい。図書室があるようなので、そこで調べてみよう。アランさんに時間があれば、前回のときより、詳しく教えてもらいたい。マリエラも行きたいというので、朝食後、一緒にギルドに行く。
建物に入ると、ある張り紙のところに人が大勢集まっている。何だろうと、僕たちも後ろから覗いてみる。えっ、何これ。それは何と、ダンジョン第10階層攻略のお知らせであった。
「何があったんだ。」「10階層が攻略されたんだって。」「Aランクの冒険者が2人でやったらしいぞ。」と、興奮した冒険者たちが、口々に叫ぶ。
『えっ、Aランク?』本当だ。
張り紙を見ると、攻略者として「アキラ・フォン・ササキ Aランク」「マリエラ・スチュアルダ Aランク」とある。マリエラは、「スチュアルダ」っていう姓だったんだ。知らなかったよ。「アキラっていうのは、貴族か。」などと言っている冒険者もいる。誰もこの僕だって知らないよね。騙したみたいで申し訳ないね。
そうこうしているうちに、職員が僕たちを見付け、奥の部屋に連れて行かれた。
待っていると、ギルドマスターが入ってきた。「やあ、早速君たちが話題になっているね。」
「話題にしたのは、ギルドでしょうが。」と、僕は憎まれ口をたたく。
「ところで、何でAランクなんですか。」と疑問を口にする。
レオンは、「新階層を攻略したんだから、その時点でAランクだ。BとかCのままにしたら、勘違いして10階層に挑む愚か者が出かねない。特例措置だ。公爵様とも相談のうえだ。」と言う。確かにそうだね。それに、公爵を引き合いに出されたら仕方ないね。
淡々と「そうですか。」と答えておく。ランクアップ手数料はあとで払おう。
マスターは続けて、「表彰式をするので、いつが都合がよいかな。」と聞く。公爵も臨席するそうだ。大ごとだね。マリエラの方を見ると、彼女は首を縦に振ったので、僕はマスターを見て「いつでもいいですよ。」と答えた。
ということで、表彰式は1か月後と決まった。1か月後なら、13か14階層までは終えているだろうから、その新規攻略の表彰式も兼ねられて無駄もない。気張って一着拵えようかな。貴族と間違えている人もいるし、誤解は解かないのが親切なこともある。
そういえば、昨日の戦利品の評価は出ているのかな。聞いてみる。臨席していた担当の職員がすぐに答える。「はい、このとおり、大金貨40枚相当となります。よろしいでしょうか。」と明細を見せる。僕は、マリエラと顔を見合わせ、2人で頷いた。稼ぎのいい階層だね。お金は明日以降の受け取りだ。それから、図書室に寄った。
図書館は入場料を取る。本は貴重品だからね。中銀貨2枚を払い、2人で中に入る。
「僕の目的は、魔道具とポーションの作り方だよ。」と告げる。ところでマリエラは、字が読めるのだろうか。冒険者なんかしていて勉強する機会はあったのだろうか。正面から聞くのは失礼だから様子を観察しよう。
「この棚が魔道具か。」僕はつぶやきながら本を物色する。本は植物の繊維から作られた紙や羊皮紙で出来ているようだ。薄い木の皮を使っているようなものもある。高価なんだろうな。証明書なんか板切れを使っているからね。
一冊手に取ると、パラパラとめくる・・・という感じじゃないね。ゴワゴワとページを開くっていう感じか。生活用具か。これは火付け装置か。魔法とか超能力を使わなくていいみたいだ。魔法陣に魔石を設置して、その魔石に着火物を載せるだけか。魔石を使ったランプもあるな。これは井戸から水を吸い上げる装置か。魔石大を使わないと時間がかかりそうだな。お湯を沸かす魔道具もあるな。そういえば、これらは拠点の家にもあったな。物を腐らないで保存しておく魔法陣か。これは便利そうだが、家にあったかな。時間を計る魔道具もあるな。時間を表示する決められた場所が光るのか。いっそのこと魔法陣の勉強をしたいな。
別の一冊を手にして開く。書いたものを転写する装置か。いいね。これがあれば、紙を買って、魔法陣を転写すればいい。でも魔石大が必要か。あるけどね。それより、もしかして空中ポケットに入れてある遺跡文庫の中に、魔法陣を記憶なり転写する術式のものはないのだろうか。まだ目を通せていない本も多いからね。
武器魔道具の本はないのか。それはそうか。あっても国家秘密だろうな。そうだ、街に行って実際の魔道具屋を覗いてみよう。
あれ、マリエラはどこだろう。あたりを探すと、ポーションのところで本を見ている。読めるんだね。近くに行って覗いてみる。「面白そうなものはあった?」と聞くと、「うん。」と言って、読んでいた本を見せる。「これはね。美容ポーションの作り方なの。実は実家でも少し作っていたんだけど、こうやって作るんだなって、発見だった。」と言う。
マリエラの実家?まあ、それはあるよね。全然意識しなかったけど。知らないことばかりだと思ったら、一緒に暮らしてまだ1週間しか経ってなかったよ。よし、一緒に美容ポーションを作ってみよう。姉さんを磨くんだ。
ギルドから出て、街に出る。魔道具とポーションの実物を見るためだ。
魔道具店は結構あるんだね。街の電気屋さんていう感じだろうか。大きい店に入ってみる。
魔法陣が装置の本体で、魔石が電池か。なるほど家電みたいだな。ただ、魔法陣は、板、皮、石などに刻むのだが、簡単に真似できないように、刻んだ後、上に何かを張り付けるようだ。うん、これは電話?聞いてみると、家の中くらいでしか使えないので、貴族や商家などで使われているとのこと。確かに高いし、魔石の維持費もかかりそうだ。魔石の小売価格は、ギルドの買取価格の2倍くらいか。そんなものだろう。拠点に戻って、家にある魔道具を調べて、不足や買い替えがあったらまた来よう。次は、ポーション店だ。
マリエラに聞くと、傷を治したり、痛みを消したり、体力を回復させたり、冒険者は皆何らかのポーションを使っているという。そういえば、アランは上級ポーションには、欠損した器官の回復さえできるものもあると言っていた。元の世界では考えられないが、どんな原理なのだろう。魔素が再生力を生むのだろうか。僕のリカバリーでも同じことができるのだろうか。不思議ではあるが、事実を見てみよう。ポーション店も数多い。品揃えの豊富そうな大きい店に入る。
繁盛している。特に冒険者風の客が多い。大金貨1枚のポーションがあった。どれどれ。効能書を読むと、欠損した器官の再生が見込まれるとある。ただ、1か月くらい飲み続ける必要がありそうだ。そうなると、ちょっとした家1軒くらい買えそうだね。まあ、それだけの価値はあるか。お金を持っていればの話だけど。
中銀貨から小金貨くらいのものが売れ筋のようだ。中銀貨1枚だと、栄養ドリンクっていう感じかな。そういえば、遺跡文庫に薬の作り方が書いてあったが、液体のものは、ポーションのことか。それなら作れそうだ。自分では使う必要がないので、それっきりになってしまっているが。
現物を見ると、色々参考になる。思考も刺激されて、新たな発想につながる。リサイクルのコルクの蓋付きガラス容器だけ20本ほど購入して、マリエラと一緒に店を出た。1本100ccくらい入るかな。この世界には普通にガラスがあるんだね。
もうお昼時だ。拠点に帰り、昼食にしてから、ヴィオレッタにも聞きながら、家にある魔道具を調べた。
僕は、「まあまあのものがそろっているな。でも、台所や風呂の温水器は、もっと高性能の瞬間湯沸かし器タイプにしよう。」と、魔道具店に飛んで帰り、魔石中を使う性能のよい装置を2つ買ってきた。そのうち1つを風呂場にセットする。近くに水を汲んでおけば、魔道具がそれを取り込んで、瞬間的にお湯にして湯船を満たすことになる。水も井戸から引いてくる魔道具がある。これでお風呂は入り放題だね。このあとは、ポーション作りだ。