5 ヴィオレッタ一家の引っ越し
今日は、アルスたちが引っ越してくる。お昼頃かな。そのあと皆で外に出て、食事と必要な買い物をしよう。ヴィオレッタには、料理をしてもらうことになるので、道具や食材も必要だね。ただ、病み上がりだから当面無理しないように言っておこう。
僕らの休日の朝は、近くのカフェだ。焼き立てのパンと野菜スープ、そしてお茶は、定番になりそうだね。朝の散歩ついでに、アルスたちの家まで行ってみる。引っ越しの準備って結構かかるからね。手伝ってこようか。
「おや、何だろう。」何だか騒がしい。アルスたちの家の前だ。
「だから、たまった家賃が、小金貨9枚じゃ足りないんだよ。」と主張する男がいる。
「それしかないので、あとで必ず支払いに来ますから、今日は勘弁してください。」ヴィオレッタの声だ。随分ためていたね。
昨日アルスたちに小金貨10枚の日当を渡したので、1枚は使って残り全部か。アルスとジルが不安そうな顔をして固まっている。でも大家さんだって気の毒なのはわかるので、僕は割って入る。
「すみません。僕がヴィオレッタさんたちの今度の雇い主です。僕が支払います。」と僕が言うと、「子どもが・・・」と、大家さんは一瞬険しい表情をしたが、隣のマリエラを見て言葉を飲み込み、急いで「丸1年で、小金貨12枚です。」と答えた。そこで僕は、お金を取り出し、大家さんに支払った。
「これでいいね。」というと、大家さんは、ほっとした表情を浮かべ、ヴィオレッタに木彫りの領収書を渡した。そして、その後しばらく引っ越しの様子を見ながら、明渡しが済んだことを確認し、「達者でな。」と言って帰っていった。
1年も待ってあげていたんだ。助け合いの精神だね。わずかな持ち物は、マジックバックに入れ、皆で、そのまま一緒に拠点まで行った。それにしても、小さい身体は不便だね。マリエラ姉さんがいて助かることが多いよ。
ヴィオレッタが、滞った家賃を僕に支払ってもらったことに恐縮していたので、僕は「契約金代わりだよ。気にしないで。」と言ってあげた。
さて、拠点についた。ヴィオレッタも歩けるくらいに回復している。よかったよ。一家団欒で生活ができるように、大きな部屋を使わせてあげることにした。予定通り、そのあと外に出て、ちょっとした食事と必要なものを買い揃えた。鍋も包丁も食器も全部新しくした。洋品店を回り、当家に相応しい衣服を調達して支給したよ。
ヴィオレッタには、元の世界のレシピも教えて料理のレパートリーを広げてもらおう。夕食は歓迎会を兼ねて皆で「炭焼亭」で食事だ。
今日は、僕たちは風呂なし日だったので、僕が沸かし、ヴィオレッタ一家に入ってもらった。明日から新しい日が始まるね。