4 第9階層の復習
今日は、早朝からダンジョンだ。待ち合わせの場所、時間にアルスとジルは来ていた。防具を身に着けさせ、ペンダントを貸し与えた。秘宝なので、あげてもよい人の範囲は限られる。奪われるようなこともあると困る。ドロップアイテム回用の麻袋も何枚も用意した。準備は万端だ。
僕は、「早速、出発だ!」と気勢を上げ、早速ダンジョンに向かった。こうして、4人で魔法陣に入り、9階層に転移することになった。
9階層に着くと、すぐにチェルニーたちを呼び出し、アルスとジルの護衛役とした。アルスとジルは、引き攣った顔をしている。無理もないか。「大丈夫だよ、チェルニーたちは小さい子にはやさしいよ。」と言っておく。2人は、おそるおそる頭を撫ででみて、一安心だ。適用力があってよかったよ。
僕は、「出発するぞ!」と掛け声を掛けた。そして皆で進み始める。一昨日と同じではあるが、早速トロールがいた。さすがに、アルスとジルは、怯えている。「いくぞ」という合図とともに、僕とマリエラは、数体ずつ切り捨てた。ドロップアイテムの棍棒はいらないので、アルスたちには、魔石をせっせと拾ってもらった。助かるね。
ボス部屋への道すがら、現れたトロールたちを2人で次々と葬り、回収用麻袋もたちまち一杯になる。一般になったら、空気ポケットに格納し、新しい布袋を使う。これの繰り返しだ。そろそろ急ごうと、途中から2人ずつチェルニーとベリーに跨り、出発から3時間程度で、ボス部屋に着く。よし入ろう。皆とは打ち合せ済みだ。事前の準備が重要だからね。
50体の各種トロールが目に入る。アルスたちは、チェルニーたちにしっかりガードしてもらい、僕らは、トロールたちの前に立つ。僕は、今日は練習をしてきたんだよ。メンタルでシミュレーションだけどね。行くよ。僕は、トロールたちに向かって、勢いよく無数のミスリル製棒手裏剣を放った。狙いは、一か所。すべて喉笛だ。
わーすごい。すべての手裏剣がトロールたちの喉笛に突き刺さる。逃れることができた個体は皆無だろう。50体が立ちどころに全滅だ。エアーの機関銃では、まだこれだけのコントロールと威力は出ない。イメージのし易さの問題であろうか。大勝利だ。僕は、放った手裏剣を一斉に引き上げる。
前と同じように、戦闘を見ていたボスがおもむろに立ち上がる。今度は、すぐに身体拘束だよ。「逮捕!」と叫んで、その動きを止め、僕とマリエラで切り倒した。ボスの方が楽だね。身体拘束は、あまり広範囲に効かせるのは難しそうだからな。
ドロップアイテムは、魔石大とは別に、鋼の斧と棍棒だった。宝箱を開くと、袋のような物が出てきた。「何だろう。」と呟くと、マリエラは、興奮して「これは・・・、マジックバッグ!!」と叫んだ。
聞けば、僕の空気ポケットみたいに、空簡に物を入れておける魔法の袋なのだそうだ。そして、人が作れるものではないので、ダンジョンでしか手に入らない希少アイテムとのこと。
便利なものが手に入ったね。これは、マリエラが持っているといいよ。早速、ニコニコ顔のマリエラに持たせて、今日の獲物をそこに収納した。
今日は、この階層をあと1往復くらいしようか。僕らは。ここから1往復してボスを追加で1回倒し、10階層に出て、魔法陣でダンジョンを出た。
ダンジョンの受付に、9階層のドロップアイテムの買取を申し込んだところ、また別室に通された。出すのを人に見られたくないからね。また、一昨日の代金も頂かなければいけないけれど、窓口で受け渡すには大金だからね。
また、ギルドマスターが出てきたよ。「また、9階かい?」と聞くので、「はい、今日は、復習です。2回ボスを倒してきました。」と答えて、魔石大と鋼の斧と棍棒を2セット出す。
「あっ、それから宝箱は、マジックバッグと黄金の棍棒です。魔石大とマジックバッグ以外は、買取希望です。魔石中も数えきれないくらいあります。今度は、10階に行きますよ。」と言って、マリエラのマジックバッグから、黄金の棍棒と麻袋一杯の魔石中を3袋出してっもらった。
そして僕は、そこにちょこんと座っているアルスとジルを紹介して、「この子たちが集めてくれたんですよ。」と成果を褒めてあげた。
マスターは、「そうか。奮闘したな。数えるのに時間がかかりそうなので、査定の結果は明日でいいかな。それにしても、半日でこれだけの成果か。」とあきれ顔で言ったあと、「それから、2人のランクを上げておかないとな。公爵家から指名依頼がきたときに対応できないと困るからな。」と続けた。
「ランクアップですか。」僕とマリエラは、同時に反応した。
「そうだ。本日をもって、マリエラ君はBランク、アキラ君はCランクに格上げする。」と、マスターは職員を呼んで手続きを取らせた。そうか、ランクアップは手数料がかかるんだな。
それから、一昨日の代金の受け渡しだ。「大金貨20枚なんだが、使うのに便利なように、中金貨200枚にしておいたよ。いいかな。」僕らの目の前に中金貨が積まれたので、一緒に数える。そして、領収書に2人でサインをした。
「お金は、マリエラのものだよ。」と、僕は、アエリアにそのまま渡そうとする。
ところが、マリエラは、怖い顔をして、「最初は、私がランクも年も上だし、経験もあるから、私の取り分が多くなったんだけど、アキラの方がずっと活躍しているんだから、全部はもらえないわ。」と拒絶する。そして、「私、理由がないのに同情されるのは嫌いなんです。」と、主義を唱える。主義か。自尊心は人の根源だからな。ここは、僕が折れないと、彼女を傷つけそうだ。
僕は、「わかった、半分ずつにしよう。」と、中金貨の山を2つに分けた。「でも、経費は僕が持つからね。」と、男の沽券を宣言しておいた。アルスとジルには、魔石をたくさん拾ってくれたので、奮発して日当に小金貨を5枚ずつ渡した。これだけの日当の仕事は、探してもまずないだろうね。
2人とは、明日の引っ越しを約束して、ここで別れた。ネックレスはいったん回収したよ。悪者に目を付けられてもいけないしね。
お腹がすいたね。お昼がまだだったよ。拠点に帰って着替えて、少し豪華な昼食と洒落込むことにした。野菜スープ、川魚のムニエル、チーズをたっぷり使ったオムレツ、子牛のステーキ木の実のソースと昼から盛りだくさんだ。ワインも口にする。この世界で初めてのお酒だ。僕の身体は毒素のアセトアルデヒドは生成しないが、アルコールが血管に吸収されるとやっぱり気持ちがよくなるよ。
この世界には、飲酒の年齢制限はないらしい。元の世界だと、ヨーロッパでは16歳からワイン可だったかな。昔は、きれいな水が手に入りにくい地方では、ビールやワインを水がわりに飲んでいたというから、水の豊富な日本とは歴史が違うね。何せロシアでは、割と最近まで、ビールは清涼飲料水扱いだったそうじゃないか。
楽しい時間を過ごし、僕が小金貨2枚を払い食堂を出た。僕のおごりだ。遅いお昼にたっぷり時間をかけてたくさん食べたので、夕食用には、屋台に寄って串焼きを買って帰った。
今日はダンジョンに入ったので、風呂を沸かして2人で入り、そのまま仲良く眠りについた。