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2 第9階層からの帰還

 10階層に降りた。安全地帯で昼食だ。ポケットから携帯食を取り出す。ほかにだれも人はいない。此処までは来れないよな。と思っていると、マリエラが、怖いものを見るような目で僕を見る。「アキラ、何をしたの。」と聞く。何のことだろうと、首を傾げる。

「雨を降らしたり、バリバリとか、魔物を動かなくしたりとか。あっ、それからさっきのドドドドドとか。」とマリエラは言うが脈絡がない、いやあるのか。混乱していることだけはよくわかる。

「それが、竜使いの力なんだよ。」と、答えにならない答えを返した。「竜使い」か、便利な言葉だ。

 マリエラは、「魔物よりも、何よりも、あなたが一番怖かったわ。」と消え入りそうな声を出した。少し声が震えている。姉には、かわいそうなことをした。帰ってからフォローしよう。

 10階層まで来たので、今度来るときは、この階層から出発できる。反省点も見つかったので、いったん戻ろう。マリエラ姉さんも動揺しているし。いい弟にならなくちゃ。


 チェルニーたちをしまい、リュックを背負って、魔法陣でダンジョンの入り口に戻る。魔法陣はどうやって設置したのかな。ボスを退治しながら設置するのは無理だと思う。最初からあったのかな。獲物の人間を呼び込むインセンティブか。ダンジョンも罪なことをする。まあ、勝てば宝物をもらえるんだから、持ちつ持たれつで仕方ないね。


 10階層まで来たことの証明を発行してもらう必要があるので、受付で、9階層の様子を申告し、ボスのドロップアイテムを提示する。すると、受付嬢は、「当ギルドも常時階層の状況を把握しておく必要がありますので、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。」と僕たちを別室に通した。

 しばらくすると、壮年の男性が入ってきた。「ギルドマスターのレオン・ストリーニです。」と自己紹介をされた。僕らも一応自己紹介するが、当然先方は、われわれが何者なのか既に把握済みだ。


「竜使いの少年と公爵令嬢の護衛の方ですね。」とマスターは言う。ほら、やっぱり知っていた。公爵家と情報を共有しているのは、当然のことだろう。

「そうです。」と僕は答える。

「ここ数年、9階層のボスを倒した記録がないのだが。一体全体どうやれば、こんなことができるのだ。教えてもらえないかね。」

 問い詰めるような口調だ。

 やばい、どう答えようか。でも、数年前に、ボスを倒した人がいるのか。僕にとっては、それが驚きだ。


「はい、大きなトロール1体と、従者のような普通のトロールが50体ほどいて、従者が一斉にかかってきたので、僕はこの翡翠の短剣で、マリエラさんはミスリルソードでバッタバッタと切り倒したのです。」と、堂々と答える。

 フィクションでも堂々と答えることが重要だ。閣僚や上級官僚みたいだけどね。押し通すしかない。


 マスターは、「翡翠の短剣やミスリルソードなんかよく手に入れたな・・・」と言いながら、「1日で、7階層から9階層まで制覇するとは考えられないのだが。普通は、階層1つに2~3泊はかかる。今朝、7階層から出発したんだろう。こんな時間に9階層を終えて帰ってくるのは、ほとんど不可能だ。一体どうやって攻略したのかね。」と聞いてきた。

 うっ、痛いところを突いてくる。「竜使い」だけでは、説明がつかないな。どんな能力かを説明しなければならない。


「僕は、竜使いなので足が速いのです。マリエラさんを負ぶって走ったのです。」だんだん、説明がぎこちなくなっていることに、自分でも気が付いている。

「7階層と8階層で、獣に騎乗した少年と女性が、駆け抜けていったとの目撃情報が上がってきている。君たちのことではないのかい。」

 しまった。確かに、目撃されていたよ。「どうせ誰だかわからないだろう。」と思っていたが、甘かったね。ギルドであれば、情報を総合できるので、ばれちゃうよ。降参だ。


 ということで、使役獣を空気ポケットに入れて、一緒に戦ったことを白状したよ。でも、どんな超能力を使ったかは、誰も見てないので、内緒だ。使役獣が強かったのだ。

 そして、マスターが使役獣を見たがったので、特別に見せてあげた。

「チェルニーとベリーです。」と紹介する。

 彼らはマスターに丁寧にお辞儀をしたよ。しつけがいいね。


 一通り説明が終わったので、僕は、さっきから気になっていることを聞いた。

「ところで、過去に9階層を攻略した人がいるのですか。」

「あぁ、5、6年前だったか、A、Bランク、50人の合同パーティーで攻略したのだが、成功はしたものの、3分の1以上は生還しなかった。それほどの階層なんだ。」と、その当時を思い出すように、悲しげに答えた。

 そして、「2人で攻略は、どう見ても異常だ。」と独りごちた。


 マスターの独り言を無視し、空気ポケットを外に知られたくないので、僕はこの場で、売りたい中小の魔石、ドロップアイテムと、黄金の鎌と斧を取り出した。魔石大と毛皮を何枚かは留保した。魔石大は用途を調べてみたいし、毛皮は必需品だ。マスターは、事務員に命じて査定をさせ、合計大金貨20枚(2千万円くらい。端数は除く)になった。

 何せダンジョンで出た黄金の鎌と斧だからね。貴族のお金持ちなら欲しがりそうだ。1日の収穫としては破格だね。


 代金は、明後日になるので、僕らは、9階層の攻略証明を発行してもらい、冒険者ギルドを後にした。マリエラは、終始無言だったよ。胸中複雑な思いだったろうね。僕は、あえて快活に言った。「じゃあ、約束通り、マリエラ姉さんが3分の2、僕が3分の1でいいね。でも、魔石大と毛皮は、僕がほしいから、僕の分け前で買い取るよ。」と。


 マリエラ姉さんは、僕に顔を向けると、プッと吹き出して相好を崩し、僕をしっかり抱きしめた。やっぱり、姉弟は、これじゃなくちゃね。そのあと、「炭焼亭」に行き、腹いっぱい食べて拠点に帰った。今日はダンジョン帰りなので、僕が風呂を沸かそう。


 その日は風呂に入った後、姉弟で一緒になって寝た。マリエラ姉さんの身体の傷が可哀そうだったので、ベッドに寝かせて、リカバリーをしたのだ。ひとつひとつの傷に手を当てて、光を通した。直接手を当てた方がよく効く。背中もお腹も、腕も脚も、至る所にある傷を一か所ずつこの手でいとおしく撫でた。その度に、傷跡は、古きも新しきもぼおっと光って、癒えていった。マリエラ姉さんは、笑いながらくすぐったいと身を捩っていたが、そんなことお構いなしだ。

 最後の傷が癒えたとき、僕は、そのまま姉さんに抱かれて眠りについた。長かったこの日は、こうして終わった。


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