第6章 ダンジョン 1 初攻略
翌日は、ダンジョン攻略だ。早朝に起きて、昨日買っておいた堅パンと焼き肉で朝食にする。ここで、僕は、マリエラ姉さんに昨日作った武具を渡す。素材や効能を説明すると、またまた唖然とした表情をした。そうだよね、やはり昨日渡さなくてよかった。寝られなくなっていたよ、きっと。
自分のことは追々話すよ、と言いながら僕は、「早く、身に着けてみて。マリエラ姉さん。」と言ってみる。姉さんと言ってみたかったんだ。
マリエラは、声を詰まらせながら「ありがとう。アキラ。」と言って、それらを身に着ける。「わっ、私を守ってくれるって聞こえた!」と言うので、僕は、「空耳じゃないと思うよ。」と返事をして、二人で笑った。
実は、マリエラからは当初、2人で7階層を攻略するのは、気違沙汰だと随分お説教をされた。でも僕は、竜使いだ。そのことは、マリエラも知っている。
僕は、「ほかにも頼りになる仲間がいるんだよ。でも危険があれば、すぐに帰ってこよう。」と、マリエラを説得した。
それから、マリエラは、「ダンジョンは、戦いながらなのでなかなか進めないのよ。余裕をみて、最低3泊はできるような装備が必要よ。アキラは、何にも知らないんだから。」と言う。
でも僕が、「大丈夫だよ。日帰りができるところまでしか進まないから。最初は、様子を見るだけだよ。僕は、姉さんを絶対に危険な目には遭わせないよ。」と言うと、「何言ってんのよ。私のことは大丈夫なんだから。」と、しぶしぶ頷いた。
ということで、初のダンジョン攻略の日が来た。徒歩でダンジョンに向かう。ダミーのリュックを背負って、拠点を出る。ダンジョンは、別空間に存在している生物に近い物体ではないかと考えられているそうだ。ダンジョンマスターを倒すと、そのダンジョンは跡形もなく消え去り、全く別の場所にあらたなダンジョンが生まれると言われている。別空間か。僕が元の世界に帰る方法の参考になるかもしれない。よく観察してこよう。
入場料を払い、冒険者登録証を提示して入場登録をし、さあ、いよいよダンジョンだ。マリエラが攻略証明書を提示し第7階層に行くための魔法陣に入る。
一瞬、光に包まれたあと、第7階層の魔法陣に着地する。ここは、獣系で、魔獣のグリズリーやジャイアントウルフがいるそうだ。さっさと済ませて、次層に移ろう。30階層もあるのなら、こんなところでぐずぐずしていても何も得られない。ただ、小手調べは必要なので、何匹か倒していこう。
と、階層のボス部屋に向かう途中に出会った熊さん、狼さんを片っ端から切り倒していった。魔石や毛皮がドロップするのを目の当たりにして、聞いてはいたが、不思議であった。
倒した獲物のドロップアイテムは回収する。空気ポケットにないないだよ。2人のリュックも一緒にしまった。マリエラは、「何で?」「何これ?」と勝手の違った進み具合に、最初は驚いていたが。次第にハイになってきた。ノリがいいね。
ここは、早く通り抜けよう。と、僕は、ポケットからチェルニーたちを呼び出した。
「チェルニーとベリーだ。神獣だけど、僕の使い獣だよ。昨日言っていた仲間だ。」と、僕はマリエラに紹介した。
「ここからは、これに乗っていこう。」と、さすがに引いているマリエラを半ば強引にベリーに乗せ、僕はチェルニーに乗る。走りながら近寄って来た熊さんたちを切り刻みながら、一気にボス部屋までひた駆ける。
2泊分を吹っ飛ばし、かまわず先に進む。途中、何組かのパーティーを追い越したが知らない振りだ。普通のドロップアイテムも放置する。時は金也だ。
ようやくボス部屋に着いた。一組ずつしか入れない。どこかのパーティーが先に入っている。順番待ちだ。ここでは、倒すか、倒されるかの二者択一なので冒険者にとってはつらい場面なのだ。
マリエラにじゃんけんや綾取りを教えながら待っていると、案外早く順番が回ってきた。部屋に入る。前のパーティーはうまく切り抜けたみたいだ。部屋には倒れてはいない。他人事ながらよかったよ。
ボスは、巨大なグリズリーか。周りに5体の普通に大きいグリズリーが控えている。体高2.5mはある。胴回りも太く、僕から見ると、相当の巨体だ。そして、僕らを見付けると、それが5体一度に襲いかかってくる。「わぁ!」って、一瞬驚いちゃうよね。
でも、マリエラが剣を一閃させると、簡単に2体が切り倒された。姉さんは強いね。半端ないよ。マリエラは、「よく切れるね、この剣。」と剣に目をやる。
僕も頑張らなくちゃ。マリエラに危険な目に遭わせないって誓ったじゃないか。
そこで、僕は翡翠の短剣を振りぬく。短剣は相当長くなるからね。グリズリーは、それに気が付かなかったんだろうな。あっという間にどっと倒れる。3体は楽勝だったね。
この調子で、ボスも倒そう。僕が「姉さん、やっちゃおう!」と叫ぶと、2人で一緒に剣と短剣を振るう。と、たちまちボスの首と胴が切断された。
獣は、正面から来るだけだから楽だね。武器で勝負が決まるよ。大きめの毛皮とやや大きい魔石か。毛皮はカーペットにいいね。暖かそうだ。マリエラはこの頃には、すっかり僕のペースにはまっている。
僕らは、落ちたドロップアイテムを拾って、第8階層に移動する。
冒険者ギルドで求めたダンジョンの地図で予習をしてきたが、第8階層は、巨大昆虫が大量に襲ってくるそうだ。昆虫ね。バッタやカマキリならいいんだけど、青虫とか、ゴキブリは嫌いだよ。ここは、早く通り抜けよう。
そこで僕らは、ここでは最初からチェルニーとベリー乗っていく。マリエラも昆虫は嫌いなので、否応もない。僕はチェルニーに乗って、周りに寄ってきた魔虫たちを切り刻みながら、一気にボス部屋までひた駆ける。でも何で女の子は虫が嫌いなんだろうね。男は、虫を集めるのが趣味という子が珍しくないというのに。
ここでも途中、何組かのパーティーを超スピードで追い越し、ボス部屋に着いた。ほかのパーティーはいない。僕らは、部屋の入り口を開ける。
想像していた通り、超大型のカマキリだな。何十という大カマキリを従えている。僕らを見付けると、大カマキリは一斉に襲ってくる。これだけの大群だと、さすがにちょっと引くね。
でも、カマキリなんてお腹の部分は柔らかいのだから、そこに機関銃を打ち込めば、一辺に倒せるんじゃないかと考え、エアーで機関銃をかまえた。そして、「ドドドドド」と口で掃射したよ。物理的効果が生じた。仲良く腹を射抜かれ、たちまち全滅だ。ボスも同じか。
とそのとき、マリエラが、「私にやらせて。」とボスに切りかかっていった。自分で退治した方が、経験値があがるらしい。僕は、ボスを彼女に任せて、ドロップアイテムを拾った。支援の必要もないと思い、魔石と鎌をせっせと拾う。知らないうちに、マリエラは、ボスをミスリルソードで倒していた。
「お疲れさん。」お互いに声を掛け合って、一緒に残りの魔石を拾った。ボスの魔石はさすがに大きい。そして、ここでは、宝箱が出たよ。さすがに8階層からは宝が出るか。
期待しながら宝箱を開ける。黄金の鎌か、実用品ではないな。でも高く売れそうだ。喜んでもらっておく。さあ、第9階層に進もう。
人間型の巨大な生き物がいる。これが、トロールか。人間に近いと倒すのに躊躇しちゃうね。でも、トロールは、ダンジョンが生み出した魔物に過ぎないので、あまり深く考えることはやめよう。どんどん、倒せばよいのだ。
まず3体の集団が見えたので、近寄って、「もしもし。」と呼びかけたところ、いきなり襲ってきた。それはないよ。僕は、尋常に勝負と言おうとしたのに。でも、そうこられると、手加減はいらない。翡翠の短剣を振りぬき、えいやあと切り裂く。腕を落としたくらいでは、再生するらしいから、首か胴の切断がいいね。マリエラに1体譲ったよ。
ドロップアイテムの魔石と棍棒、鉄斧を拾って、あとは、チェルニーたちに乗って、一気にボス部屋だ。ボス部屋に入る。おお、大きい。従えているトロールも頭が2つ、3つあるやつもいる。50体はいるか。
それらが、一斉に襲ってくる。うむ、トロールは再生力があるのだな。やみくもに切っても生き返るか。そこで一計を案じポケットから大量の水を取り出し、トロールたちの上から降らせる。そこに、電気ウナギの発電器で高圧電力を流した。すると、バリバリバリバリと激しい音がして、トロールたちは、バタバタと地面に倒れた。
これで全滅したのかな。と思っていると、倒れていたトロールたちの身体がかすかに動き始めた。あっ、だめだ。気絶しただけだ。2人で急いで1体ずつ、仕留めていった。何とか復活しないように間に合ったよ。
最後は、ボスだね。巨大な体に、両手に棍棒と斧を持っている。悠然と戦いを見ていたが、おもむろに椅子から立ち上がり、僕らめがけて、棍棒と斧を振り下ろしてくる。すごいスピードと威力だ。風圧だけで吹っ飛びそうになる。
おっ、翡翠の短剣が受け止められた。マリエラもミスリルソードが躱される。攻撃が急所に届かない。棍棒が襲ってきたので、とっさに避ける。当たっても防御が発動するとは思うが、万が一ということも考える。さすがにあせる。
とっさの時に、どの力を発動させれば効果的かは、実地で覚えるしかないな。相手の動きを止めるといいか。そんな術が本に載っていたな。この身にインストールしたはずだ。
「動きよ、止まれ!」と、そのままの言葉で、身体拘束を発動した。
あっ、止まった。拘束から離脱する前に片付けないと。僕とマリエラは、目を見合わせ、同時にボスに襲い掛かる。ヤァ、ドゥ。切りと突きで何とかボスは倒した。
でも、結構焦ったよ。
出てきた宝箱の中は、黄金の斧だ。危ないけれど、これだからやめられないね、ダンジョンは。さて、ドロップアイテムを集めて、10階層まで行って、昼食にしよう。
この世界で、こんな魔物を倒すパーティーがほかにあるのだろうか。どんな方法で倒すのか、見てみたいな。でも強い人間には注意しないと。本当にこわいのは人間だ。