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迷宮日誌④ 〜エルフの少女とバケツの兜〜  作者: ケット・C・ニャンガード
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思い出の席で乾杯を

そういえば手紙もチャンスが持っていってしまった。


これではどちらにしても、一度酒場で落ち合わなければ王城で引き換えることができない。


皆のおかげで手に入れることのできた手紙だし、確かに仲間達に報告する義務があるとも思う。


パストアも結局「今日は神にお伝えすべき事が山程ある1日となりそうですので。」と行動を共にすることにしたようだ。


元々何か予定のある日でもなかったし、まずは酒場へ向かうことにした。



















日も高く昇り、住民や冒険者で賑わう大通りを歩き、馴染み深い”翼馬の酒場”へと辿り着く。


何度この扉をくぐったことか。


カランカランという音に続き、店内の喧騒が聞こえてくる。


夜ほどではないにしても、昼間から酒を煽る者、昼食を摂る者、面談や会議をする者達などで賑わっている。


そういえば、仲間が増えてからは奥のカウンター席に座ることは少なくなった。



「思い出の席で乾杯を。とも思いましたが、すでにお着きのようですな。」


パストアが騒がしい店内を見渡しながら、にっこり微笑んだ。


窓際のテーブル席にシルバとスゥが着席していた。


「やぁケットくん!パスタさん!こっちだよこっち!」


スゥが元気良く手を振っている。


服は茶系のワンピース姿だが、頭にはいつもの羽根付きサレットをかぶっているので、ウエイターや冒険者が行き交う店内でも見つけやすい。


何度かその不思議な格好を目撃した事があったので、理由を訊ねてみたことがあるが、どうやら身嗜みを整える時間がなかったとのことで、つまり寝癖を強引に押さえつける目的のようだ。帽子やスカーフなどの方がよっぽど頭と首が楽だと思うのだが。


スゥの横ではシルバが腕組みをして着席している。銀の毛並みの狼の澄ました表情は、スゥが隣で大声をあげた為に少し機嫌が悪くなったようにも見えた。


『早かったね。』


「チビ助が急げ急げと喚くのでな。いまアレクシアを呼びに行っている頃だ。窃盗犯かなにかと勘違いされる走りだったぞ。」


「あれだろう!ケットくん!ドワーフ達のつけてた青い腕章だ!おめでとう!チャンスくん達はまだだけど何も頼まないのも悪いし、お姉さん、ビール4つ!」


「3つだ。ミルクを1つ。」


シルバはあまりアルコール飲料は好きではないらしい。全く飲めないわけでもないようだが、彼女にとっては酪農品のほうが魅力的なようだった。


すぐになみなみと注がれた木製マグが並び、ガッチリとマグをうちつけてから、それぞれ喉を潤した。


「お祝い事で飲むお酒はやっぱり最高だね!あ、そういえば私も手紙を受け取ったんだ!ケットくんのと内容は違うけどこれも凄いよ!」

























スゥにも手紙が…?


王宮からだろうか?


同じようなタイミングで?































スゥが「じゃーん!」と折りたたんでいたA4サイズほどの鮮やかに彩られた紙をひろげてみせた。


薄茶色の下地の紙だが、見出しや強調したい文に赤や緑、金色の砂といった華やかな色が用いられ、凝った作りの手紙だ。




















『え〜…スイートルームにお泊りのお客様、おめでとうございます。今回はこのお知らせを御覧になっている方だけの特別価格、あの”まっぷたつの剣”が金貨80枚での御提供です。先着順。お見逃しなく。』


「やっぱり私ってついてるんだよ、うふふ。」


スゥが自慢気に微笑むと、「見せてみろ。」とシルバがスゥから紙を奪う。


俺の読み上げた内容と一致していることを確認すると、縦にビリッと引き裂いた。


「あぁ!!まっ!?んえ!まっぷたつ!!姐さん!!なんてことを…!!」


スゥの表情が絶望に変わる。


「お前ほんとに頭に乗っけてるその兜の方がよっぽど中身が詰まってるんじゃないか?恐らくこんな紙なんぞなくてもその店はその剣を売るし、確か似たような剣が別の店では半額くらいで取引されていたはずだぞ。」


シルバはあまり武具店や道具店を見て回る方ではないのだが、これについてはシルバの言うとおりだった。良い武器には違いないが、あまりにも値段が足元を見ている。


「え!…なんだぁ。良かったぁ。私はほんとに朝から運がいいなぁ。」


彼女にとっては死なない限りは何が起こっても幸運ということになりそうである。


「身分不相応な生活を送っているからたぶらかされるのだ。お前には鶏舎なんかが丁度良かろう。」


シルバはスゥの羽根付きサレットに視線を向けながら引き裂いた紙をくしゃりと丸めて机に置いた。


「う〜。でもいつ倒れるかわからないじゃないか。せっかくの旅行だから贅沢しておきたいんだよう。」


いや、少なくとも俺にとってこれは決して旅行ではない。


基本的に報酬や戦利品を売却した分は山分けだ。


それを何に使うかは各自の自由としている。


だとしても、スイートルームは確かにやりすぎのような気もするが…彼女の強さの秘訣というか、モチベーションの源なのかもしれないし、借金だとかまでに発展しなければ咎めるつもりもない。


しばしの間、談笑をしていると、後ろでカラランと勢い良く扉が開く音が聞こえた。


振り返るとチャンスとアレクシアが俊敏に店内を見渡しており、すぐにそれと視線があった。


若き功労者達の御到着だ。


テーブルまで案内しようと席を立った。




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