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迷宮日誌④ 〜エルフの少女とバケツの兜〜  作者: ケット・C・ニャンガード
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王宮からの手紙

皆が息を呑み、しんと静まり返る食堂。


封蝋をビリッと剥がし、折りたたまれたA5サイズほどの小さな紙をゆっくり広げていく。


































ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


おめでとう!ケット!


あなたは選ばれた。


あなたは幾度となく迷宮に挑み、幾度となく仲間と共に生還した。


その資質と王国への功績を讃え、ブルーリボンを授けよう。


この手紙を持ち、王城へ参上されたし。


”我ら迷宮に挑む者達に光あれ”


受付時間 9:00AM〜5:00PM


           王宮魔術師アグブ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

























ブルーリボンって、あのブルーリボンのことだろうか。



迷宮内の昇降機の利用許可証の役割を果たす、あの?



昇降機を利用することで迷宮の探索は更に効率的になる。それは中級から上級の冒険者として認められた証でもあり、さらなる冒険の過酷さを啓示する代物でもある。



老魔術師からは、その昔は王国の精兵達との殺し合いの試練を乗り越えた者達にしか与えられなかったと聞いていたが…異世界から無理矢理冒険者を集めるくらいだからやはり深刻な人手不足か?




だとしてもこんな手紙一通を寄越して告知するか?



文章だって短い。そもそも最後に書いてある名は国王の名ではなく誰だか知らぬ魔術師ではないか。



悪戯か?



もしかして暗号化されており、解読したら実は何かの試練が待ち受けている…?





























気持ちの整理のつかないまま、手紙を今度は裏返しにしてみようとすると店主が堪えきれないといった様子で可笑しそうに静寂を破る。


「いや、大丈夫。本物だよそいつは。もちろん書いてある内容も。何度か渡したことがあるからな。」



『はぁ。しかし…。』


「ケット、なんだって!僕にも見せて!」


チャンスが寄越せ寄越せと背伸びをする。




多くの冒険者の面倒を見てきた宿屋の店主が言うのだからまぁ間違いはないのだろう。


しかし、あっさりし過ぎている。


こんな突然に降ってくるようにして手に入るものなのか、ブルーリボンとは。


リーダーとして仲間を導き、冒険者として一流になる。こんな世界に来たからには、より深部へ到達できる強いチームとなってやる。


最初はとりあえず必死に毎日生き延びていこうくらいの気持ちだったものが、仲間を集めていくうちに迷宮に潜る意味や目的が段々と俺だけのものではなくなっていき、野心のようなものも芽生えてきていた。


故に、このブルーリボンの獲得という通過点には実は固執していたのだ。手に入れられないまま、そのうち死ぬんだろうと何度思ったことか。


いつになったら手に入るのだろう。どうやったら手に入るのだろう。それさえあれば、もっと深くへ、もっと確実に、仲間と共にまだ見ぬ層へと足を踏み入れることができるのにと。


だがそうか、いよいよ手に入るのか。


俺は、いや俺達はここまで来たのか。


入手の仕方など些細なことではないか。



震えながら縄梯子に足をかけていた最初の頃とはもう違う。



蒼い腕章を結びつけ、胸の高鳴りを抑えつけながら昇降機に乗り込み深くへと落ちていくのだ。それはもちろん更に死との距離が縮まる空間なわけだが、同時に決して多くの人が辿り着けるような域ではない。


誰からも声のかからない貧弱だった俺は、自分とその仲間達とで昇降機を使えるまでになったのだ。ざまあみろ!


やばい。


状況を理解するのに時間がかかったが、めちゃくちゃ興奮してきた。

































チャンスが俺から手紙を奪い取り、ぷるぷると震えながら、きらきらした瞳で文字を追っていく。












































「う、うおわあああああああああああああああああああああ!!!」



両手を上げ、チャンスの小さな身体が大きく高く跳びあがる。



「な、なんと書いてあるのです?」


パストアはおろおろと困惑しており、俺の複雑な表情と、チャンスの叫びにより、状況が飲めない様子だ。


「ブルーリボンだよ!パストアさん!ケットはお城でブルーリボンをもらえるんだ!僕たちいよいよ一流冒険者の仲間入りだ!」



「おお…なんとめでたい…!」


四人しかいない静かな食堂だったはずなのだが、空間はパストアとチャンスの歓喜に満ち溢れ、店主を巻き込んで抱擁を交わし合い、二人の無邪気に喜ぶ姿を見て、なぜか俺と店主の瞳にも涙が溜っているのだった。



「こうしちゃいられないや!皆に伝えて来る!翼馬の酒場でいいよね!いま、えっといま10時?11時に翼馬の酒場だっ!」


そう言い終えるか終えないかの間に、チャンスは勢い良く外へと駆け出していった。

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