大きな夢か寝心地か
「そろそろ稼がないと。馬小屋はなるべくごめんだからね。」
スゥもグイッとビールを飲み干して勢いよくマグを机に置いた。
「お前は眠るのに金をかけすぎだ。貯めて武具や道具を買うという考えはないのか?」
シルバが目を細め、スゥに冷たい視線を送る。
「貯めるってのは苦手だなぁ。一日一日を快適に過ごしてさ、ドカンとお金が入った時にドカンと買い物をするのさ!」
スゥはまるでそういう格言でもあるかのように言い切った。
迷宮中層くらいを行き来するようになり依頼の報酬や得られる戦利品が幾分か良くなってきた。しかし6人で割れば大金には程遠い。名匠の打った剣や、魔法のかかった武具などは料金帯が一気に跳ね上がり、金を出し合ってもなかなか手の届かないような高額な物ばかりだ。
特に俺は水薬は探索前に必ず買い足すようにしているし、武器や防具のメンテナンスも重要視している。皆の取り分はさらに減ることになる。
スゥだけが贅沢をしているとなると空気が悪くなりそうなものだが、水薬や武具の修理費といったパーティーの運営費用は天引きさせてもらっている。
だから渡した分の使い道は自由だ。ちなみにスゥはこの国の宿施設と寝具が大層気に入ったようで色々な宿屋の”スイートルーム”を試して回っているようだが、もちろん財源がそう続くわけもなく、それなりに馬小屋のような所も転々としているようだった。
俺やパストア、チャンスのようにどこか手頃な宿を定宿にすれば少なくとも馬小屋で寝泊まりするリスクはなくなる気もするんだが。
「貯金と言えば、チャンスあんた結構貯めてなかったっけ?」
アレクシアが思い出したように問いかけると、チャンスは恥ずかしそうに言葉をつまらせる。
「お、チャンスくんもスイートルー厶目当て?あの良さは泊まってみないとわかんないからねぇ。何事も勉強だ。このあたりの宿の事なら何でも聞いてくれたまえ。うんうん。」
スゥが同志を見出したというように嬉しそうに頷く。
「いや…。僕、孤児だっただろ。ケット達と出会って冒険者になって、店で働いて、勉強できて、なんか今、やっと毎日胸を張って生きれてるんだ。」
真面目な口調の回答に一同目を丸くする。
「まだこの国には僕みたいなのはいっぱいいるからさ、皆が勉強できて働けるように何かできないかなと思って…それでとりあえず貯めてるんだ。」
「ふぐぅっ…!」
突然パストアが変な声を出しながら目頭をおさえた。だいぶ酔いも回っているところに感極まったようだ。
性根の良さそうな少年だとは思っていたが、まさかここまで純真無垢に成長するとは…。
シルバがチャンスの言葉を聞くなり、より一層冷ややかな眼差しをスゥへと向け、何も言わず彼女を数度小突いた。
スゥはバツが悪そうな表情で視線を落とす。
「チャンスくん…。」
スゥは俯いたまま、落ち着いた様子で口を開く。
「少ないかもしれないけど、ぜひ君の役に立ててくれ。」
そう言うとガチョウの丸焼きを手際よく取り分けて彼へと差し出した。




