1章 3話 軽トラ
「おぉー玲美ちゃんどうしだ?」
優しい顔をクシャッと笑いながら、玲美の方にゆっくり近づく勝幸。
玲美は勝幸の問いかけに対しバツの悪そうに、目を逸らしながら、ぽつりぽつりと呟くように答える。それもそのはずだ、父親が暴れて、裸足で工場まで惨めな思いして、痛い思いをしてまで来たのだ。娘ながらこんな親父のやらかした事で来るのは、さも答えずらく、居心地も悪いだろう
「いや、実はパパがまた暴れてね……それで家に居たくないから工場に来たんだ」
「ちぇっ、あのクソ親父が、ほんとろくでもねえ野郎だな!」
そうボソボソ答えるに玲美に対して、勝幸顔を顰め、口の中に溜まってる異物を吐き出すかのように、雑に呟く。
ふと、勝幸は玲美の足元の方に目を向けると、「んん?」とぐぐもった声を出し、再びクシャッとした笑顔を作り玲美の顔を見て問いかける。
「玲美ちゃん、靴はどうしたんだよ?」
「あぁー靴……はは……靴履かないまま、警察呼んでそのままこっちに来ちゃったんだ。」
勝幸の問いかけに、少し困ったように、目を細め、なんだよーと言いながら笑った。玲美はつくづく嫌になった。ここに来るまでの最中、色んな人とすれ違い、すれ違う度にまるでゴミでも見るかのような目で見られた。すれ違った子供は、そんな靴を履いていない玲美を見て母に問いかけ、母の返答が『見たらダメ』
玲美は乾いた笑いをこぼし、玲美は心の中で静かに蔑む。こんなやり取りってほんとにあるんだな、漫画だけだと思ってたよ、私を見たらダメなのかな――と。
「しょうがねぇな、玲美これ履いてみろ」
そう言い、勝幸はホコリに汚れ茶色く薄汚れた ビーチサンダルを右手に掲げ、玲美の足元に汚れたビーチサンダルを落とした。
「まぁ汚ねえから、そこの水道で洗ってからはけや」と言い、玲美は勝幸に短く礼を言い、薄汚れたビーチサンダルを洗った。
「どうだ?履けるだろ?」
「うん大丈夫そう、ありがとおじいちゃん」
そうか、よかった――
勝幸は、ニコリと笑い静かに呟く。続けて玲美問いかける。
「玲美お前どうすんだ?こんなとこに居てもしょうがねえから帰るだろ?」
問いかけに対し、玲美少し俯き考える。今帰ったらあのクソ親父にグツグツ言われるのではないか、下手したら、殴れるのでないかと考えた。だが、玲美にはもうひとつの考えが浮かんでいた。まぁ別になんかあったら、また警察に駆け込んで今度こそ、親父を捕まえて貰えば、御の字か――と。そう浅はかな答えとは考えついた玲美自信思う訳もなく、勝幸に対する問いかけに同意し、勝幸の所有している軽トラに2人は乗り込んだ。
三└(┐卍^o^)卍三└(┐卍^o^)卍三└(┐卍^o^)卍三
車内の軽トラは、勝幸がいつも汗かいた作業着で乗り込んでるからか、車独特の匂い、汗の匂い、ホコリの匂いが混じりなんとも言えない匂いが車内には漂う。そして、2人が腰を下ろしているシートの上と背もたれには、何年も深緑のバスタオルが敷いてある。恐らく勝幸はこれを洗濯してないのも、この独特の匂いが発するひとつの原因でもあろう。そんないい匂いとは言えない匂いを堪能しながら、助手席のドアガラスに頭を預け、対向車線を走る車のすれ違う音を聞いていた。
そんな様子の玲美を運転している勝幸は横目で玲美に笑いかけながら、
「なんだ、おめえ眠いのか?」
「いやー、眠くは無いんだけどなんか少し疲れたよ」
「まぁそうだろうな、裸足でここまで、歩いて来りゃ疲れるわな、そうだ玲美ちゃん。どっかでマックでも食ってくか?」
勝幸は満面の笑みで玲美に問掛ける。第三者からしてみたら、実の父親が暴れて、ここまで逃げてきた玲美を労わるやさしい気持ちでハンバーガーショップに誘ってる光景だ。誰もが同じような感想を抱くだろう。
ただ、玲美は知っている。こう優しく誘ってくれるのは、労わってくれてるのもある。たが本当の目的は、ただただ自分がポテト食べたいのだと知っている。
勝幸は玲美を誘ってポテトを食べに行くのはもちろん、仕事を終え現場から自宅に帰る寄り道で、ポテトを食べてるのを知っている。
そして昔カレーの具になっているジャガイモを全部一人で食べたという、伝説も存在している。だがその伝説を作った代償に祖母貞子が頭に角を生やし、勝幸がグツグツ2時間問い詰められたという話を昔美千代から聞いた。
玲美はそんな満面な笑顔の勝幸に申し訳なさを感じながら、ポテトの誘いを断った。玲美は祖父に本当に申し訳ないと思いつつ、今は家の中や、母親の安否の心配で食欲が全く湧かないでいる。恐らく祖父はこの後一人でポテト食べに行くだろう、一人寂しくポテトを食べさせるのは、心痛むが、玲美はその誘いを断り、勝幸は誘いを断られ、少し肩を落とすも、横目で玲美の方に視線を向け、優しいを顔をニコリ――とは言わず、ニヤりと笑い、玲美にゆっくりとした口調で話しかける。
「まぁ、なんだ玲美ちゃん。今は嫌なことあったりするんかも知んないけどよ、じいちゃんがいるから大丈夫だ、なんかあったらじいちゃんに言え、出来ることならしてやっからよ、おじいちゃんはな、玲美ちゃんが素直で優しくて一番大好きだよ」
勝幸の愛と優しさに溢れた言葉は、玲美の心にじんわりと馴染んでくかのように広がっていく。玲美は小さい頃から祖父に可愛がってもらい無償の愛を注がれたいた。いつも玲美ちゃん玲美ちゃんとあの、優しいクシャッとした顔で笑いかけ、微笑んでくれてた。そんな愛に溢れた優しさに満ちた勝幸が、玲美も大好きだ。
「ありがとう、じいちゃん。私もじいちゃん大好きだよ、今度は一緒にポテト食べに行こうね」
玲美は自身のつり目を細めて、口を開き八重歯を出して、ほっぺにエクボちょこんと、片頬づつ作りながらにこりと笑顔を作った。
「よし、着いたぞ。玲美ちゃんと話してたらあっという間だな」
勝幸は笑いながら言うと、玲美はドア窓から周囲を見渡すし、玲美が暮す都営住宅の下の道路に車を停めいるのだと確認した。
「おじいちゃんごめんね、わざわざ家まで送って貰って」
「いや、いいんだよ、そんなことより玲美。お前小遣い持ってんのか?ないならいくらかいるか?」
「うんうん大丈夫だよ、それよりじいちゃん今日何時ぐらいに帰ってくる?」
勝幸は頭を搔きながら、そうだなぁーと呟く。
「多分七時ぐらいには帰ってくると思うよ。」
「そっか、わかったありがと。そしたら私そろそろ行くね」
玲美は笑顔を勝幸に向け、別れを告げ、車を降り、深く呼吸をし、肺の中の空気を新鮮な空気に入れ替える。そして、八月のギラギラとした日差しが降り注ぎ、玲美は肌がジリジリと肌が焼ける感覚を感じながら、エレベーターがあるエレベーターホールに続くコンクリートの階段を数段昇る。玲美の心臓の鼓動は速度を増してゆく。階段を上りエレベーターが来るのを待つ。
その間何気なく自分の家の郵便受けのポストに、なにか届いてるか確認するが、なにもない。ただ鉄の冷たいひんやりとした感覚が指に残る。
――どくっどくっどくっ
エレベーターが到着し、玲美は自分の住んでる階の六階にボタンを押す。エレベーターが上昇して行くと共に、玲美の心臓の鼓動は体内で音を立てながら素早く波打っている。
「六階でございます」
エレベーターは目的地である、六階に着いたことを無機質な声で知らせる。
――どくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっ
玲美はエレベーターを降り自分の住む六〇六号室に足取り重く向かう。風が弱く吹き、おでこに滲む汗を拭ってくれてるみたいだ。玲美は自宅前の玄関に到着し、ドアノブに手を掛けた。
――どくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっどくっ
玲美は生唾を飲み込みドアノブに手をかけると、ギィと開く音がした。玄関に入るともう嗅ぎ慣れたタバコのヤニの匂いがする。そして異様に静かだ。音が何一つしない、普段なら謙治が音をでかくし、オンラインゲームをしてるはずなのに、音がしない。玲美は異変に気づきながらも、爆発にしそうな心臓の鼓動を抑える為に、リビングに行き、冷蔵庫に入って冷えてる二リットルのコーラをラッパ飲みし、自室に戻った。
すいません、長らくお待たせしました。。。
え?待ってねえって?
そんな冷たいこと言わないでくださいよ。
僕これでも豆腐メンタルなんです←
はてさて冗談さておき、おじいちゃんの優しさにはほんとに、頭が上がりません……
ちなみにおじいちゃん、ホールのショートケーキの生クリームを一人で全部食べた事があるらしい……笑