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奈落の底  作者: GEN
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1章 2話 コンクリートとバニラ

玲美は実家の西国分寺を後にし、祖父勝幸が経営してる小平の高木鉄工所に向かった。


目つきの悪いつり目、肩まで伸ばした黒髪、白のパーカに青のホットパンツ、そして裸足。


十四そこらの歳の女が裸足で虚ろな顔して歩いてる光景は、すれ違う人間からしたらとてつもなく異様な光景だ。



住宅街を歩き小平の工場を目指す玲美には、すれ違う人達のやり取りが勝手に耳に入ってくる。


「なんであの子裸足なの――」


「可哀想にあの歳して――」


「お母さん、あの人……」


「良いから行くよ!」


玲美はすれ違う通行人のぼやきをただ、右から左へと流してはいるが、その表情には悲壮な表情が浮かび、裸足のまま八つ当たりの如く、玲美の足元の横に転がっている、小さな石を思い切り蹴り飛ばす。


「くそ!痛いなぁ……痛いよぉ……なんでよ私がこんな風にクスクス笑われなきゃいけないの?はぁ……さっさと工場に行こう、やだやだ、ほんとやだ!」


玲美は心の中にある苛立ちを石にぶつけ、言葉に変えてぶちまける、悲壮な表情は相変わらず変わらないが、口を結び直し、工場を目指し歩く速度を早め、下を向きながら足の裏に伝わる小石や、小枝等のチクリとする感触を、不本意ながらも味わいながら足を前に動かした。


「この辺懐かしいなぁー。自分が小学校低学年ぐらいの頃兄貴と一緒に工場を目指したんだっけな。」


そう独り言を呟く玲美の前に広がる何も変哲もない、右にも左にも畑があるだけの、長い一直線の道路だ。


「確か、あの時なんでか分からないけどヨーカドーから、おじいちゃんがいる工場に行かなきゃならなかったんだよなぁ、けど兄貴はその時自転車あったんだけど、私は自転車なくて――てか自転車あってもまだ私まだチャリンコ乗れなかっんだよな」


玲美は小さな声で呟き、一人で苦い顔しながら笑う、当時のことを脳の片隅に置いて放置してあった記憶の欠片達をふつふつと思い出して呟く。


「そうだよ、それでチャリンコ乗るどころか、ニケツも出来なく……私どんだけトロイんだよ……確か後ろに乗せてもバランス崩す私に、我慢できなくなって『お前は走れ』とか言って確かひーひー言いながら走ったんだよな、キツかったなぁー」


そう呟きクスクスと笑ってはいるが、その顔には笑ってるという行動とは裏腹に、表情は暗く、その虚ろの瞳には遠い昔、兄翔平と遊んだ昔の楽しい記憶の映像が映し出されている。


「翔ちゃん会いたいな……」


そして、言葉と昔の思い出をここの道路に置き、玲美はまた下を向き工場を目指す足取りを早めた。


暫く歩き住宅街を抜けると小平市にある鷹の台駅の商店街の近くに抜け、人の数は少ないながらも、活気に溢れ、街の人々は商店で買い物したり、ここの地元人らしきと思える中年の女性達が世間話に話を咲かしている。


そのまま商店街を抜け、鷹の台と書いてある標識の信号を左に曲がると、何年ぶりに通ったか分からないぐらい道が目の前に広がっており、目的地の工場まで僅か距離を頭の中で確認すると、安堵のため息がこぼれる。


また暫く歩き、右に曲がると再び住宅街に入る。そのまま真っ直ぐに歩くと、玲美の視界には、長方形の約縦四m、横七mの赤色の鉄の壁があり、その鉄壁の中央には、高木鉄工所と白のスプレーらしきもので書いており、更にその下に工場の中に出入りする為の鉄の扉が備え付けてあるが、鍵はかかっておらず、中には人がいる様子がない。


「じいちゃーん。いるー?」


そう玲美が呼び掛けながら入るが中には誰もおらず、アスファルトの地面の上には五百立米ぐらいの空間があり、鉄の扉から入った右には、H鋼が大量に積み重ねており、棚には電動工具や、取り替え等に使う工具が綺麗に整頓されて棚に収まっている。そしてさっきまでそのH鋼を加工していたと思われる痕跡が残っている。


「おじいちゃん出掛けてるのかな……?」


玲美はそう呟き扉から入って左にあるソファーの上に腰掛ける、ソファーの前には背の低いテーブルがあり、そしてさらに向こうにソファーがあり、恐らく勝幸が仕事の人間や、勝幸の顧客とかとの商談で使う場所だろう。

テーブルの上には湯のみに入った覚めたお茶、勝幸の好物の煎餅、灰皿があり、その灰皿には勝幸が愛喫してるキャスターの吸殻が捨てある。


玲美はその灰皿の中に埋もれている長めのシケモクを選び、フィルターにくっ付いてる灰を中指で軽く拭き取り、慣れた手つきでテーブルの上に転がっているライターで唇で挟んであるシケモクに火をつけ、思い切りバニラの匂いがする主流煙を吸い込み、口と鼻から同時に副流煙を吐き出す。


「キャスター軽いなぁ……ほんとは赤マル吸いたいんだけど、なきゃしょうがないよね、ま、キャスターもいい匂いだし嫌いじゃないけどね」


玲美は再び思い切りキャスターを吸い込み、また鼻と口から同時に吐き出した。

唇からシケモクを取り出し、灰皿の中に丁寧に吸殻を捨て、ふぅとため息を吐き、玲美が入ってきた扉の方に視線を向ける。


「じいちゃんどこ行ったんたろ、鍵空いてたから、そんな遅くならずに帰ってくると思うんだけど――」


そう玲美が呟くと同時に、外で車が駐車する音が聞こえた。

玲美の視線の先には、深緑の帽子を被り、所々茶色に汚れたニッカポッカ、青色のビニールのジャンバー着羽織った小太りの老人が、鉄の扉からひょこっと入って、玲美の存在に気づくと、丸くてとても優しい顔つきの顔を、老人は目を見開かせ、呆然とした表情で、


「おろっ玲美ちゃんどうしたんだい」


「おじいちゃん!」


玲美は安堵した表情でそう叫び、祖父高木勝幸に駆け寄った。

玲美ちゃんコンクリートの上を裸足で歩いて怪我しないのはすごい……笑

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