1章 1話 理不尽、怠惰、適当
玲美は一心不乱に走り五分ほどで西国分寺駅前交番に到着した。
裸足で走ってきた足は痛むが、玲美は気にせず、中で茶を飲みながら談笑してる警察官三人に声を掛けようと思い、ガラス張りになってる扉を開けると、向こうが気づき、警察官が少し驚いた顔をし玲美をつま先からてっぺんまで舐めるように観察し、一人の警察官が口を開いた。
「なんで裸足なの?なんかあったの?何か用?」
玲美は警察官の態度と第一声に心底ムカついたが、それどころではない。玲美は荒れた呼吸を整えながら足早に答えた。
「 お母さんが父親に殺されそうなんです、早く助けて下さい、このままじゃ死んじゃうよ」
玲美は震える声でそう警察官達に伝えると、その場に緊張感が走った。
一人の警察官が「それはやばい」と呟き、各々が暴れる父に対する武装の準備や、交番を閉める為の準備をしているのを黙って見つめる玲美は、あまりの悠長さに苛立ちを覚える。
人の命が掛かってるというのに、鍵持ったかの確認、トランシーバーらしきものでやり取りをし、現場に向かう許可を降りる為の待機。
玲美は「死んじゃうから早くして下さい」と言っても警察官が困ったように笑いながら
「うーん。許可降りなきゃ俺たちも出られないからねぇー。それより靴はどうしたの?」
玲美は警察官の他人事のような対応に呆れてその質問に無視をした。暫くするとトランシーバから無線が入り、横で警察官のトランシーバでのやり取りを隣りで眺め、暫くとすると警察官がとこちらの方を振り向き、「お待たせ行こう。」と私に促した。
そして警察官三人と私は現場となっている私の自宅に向かった。
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「ここです」
そう玲美は静かに警察官達に伝える。現場となっている606号室は何事もなかったかように、静かで、玄関の扉が少し空いている。若い警察官が少し空いてる玄関の扉から声を掛けた。
「ごめんください。警察です高木さーん警察です」
すると、父と母が生活してる、玄関を上がって右側の部屋の襖が少し空いた音がし、母の整った顔だけがこちらに出している。
母の筋の通った綺麗な鼻、怜美が似たつり目の目に小さな口。茶髪で肩まである髪の毛はボサボサになっており、色白い顔にいくつものドス黒い痣が見られる。
若い警察官が美千代だというのを確認すると、美千代の顔を見ながら口を開いた。
「えーと今娘さんが交番に来ましてね、お母さんがお父さんに暴力されてるって聞いて来たのですが·····」
美千代は警察官からの問いかけに丁寧に、そして無機質に答える。
「あ、大丈夫ですので、はい。ちょっとしたトラブルなので。」
「そうなんですね、お父様はいらっしゃいますか?」
「旦那はタバコ買いに行きまして、今はいません。」
「あーそうですかー。それじゃあ我々は失礼させて頂きます。お子さんもまだ若いのであまり、喧嘩しないて下さいね」
·····我々は帰る·····?玲美は言葉を発せなかった、これだけで帰るの?家の中何も見ないで帰るの?事情聴取しないで帰るの?嘘かほんとか分からない、父が外出してるのを鵜呑みにするの?確認しないの?玲美はもう何も言えなかった、警察官のあまりの適当の対応に心底驚愕し絶望した。
玲美はいそいそとエレベーターに乗り込む警察官を呆然と見ていると、中年の警察が玲美に声を掛けた。
「まぁあんまり気にすんな、どうすんの?この後交番にでも行くか?」
玲美はため息一つ吐き小さく交番に行く誘いを断り、警察官達はそのまま帰っていった。
玲美はそのまま玄関に上がらず裸足のまま、小平にある祖父が経営してる工場に行こうと呆然に思い、そのまま家を後にし、小平の工場を目指した。