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第8話 道場生活

「俺も少しは門弟が板についてきたか?」


 異世界にきて一週間が経った。

 周りの助けもあり、ここでの生活にもようやく慣れてきている。


 ……と、いうわけで。


 この『魔体流』での新生活について、整理ついでに説明させてもらおう。


 まず第一に触れるべきは……俺の格好か。

 今まで道着は着ていても、最底辺の『帯なし』ゆえに腹を出しっぱなしだったところ、


 真っ白で汚れのない“新品の帯”。

 それを腰に締めて、やっときちんとした門弟の様相になっている。


 つまりは『白帯』への昇格だ。


 つい昨日、異世界道場六日目にして。

 マルコ師範に認められて、稽古終わりに皆の前で渡されていた。


 ちなみに、その時に一緒にもらったヤツが一人。

 俺の愛しきモフモフ要員こと、熊人族のルディだ。


 ベルには負けないべ! との決意は想像以上にリアルガチだったらしい。


 いつの間にか【手刀(ギロチン)】も覚えて基本技の二つを習得。

 まったくの同時に『白帯』昇格を果たしていた。


「よし、行くか」

「おう行ってこい! 俺達もすぐに追いついてやるからな!」

「兄貴の言う通り! 首を洗って待ってろよ!」

「おう待ってるよ。……でもお前らテンションおかしいだろ。今日は別に稽古じゃないっての」


 そんな同部屋のボブとディラン兄弟の暑苦しい声を背中に受けて。

 俺は寮の部屋、『帯なし』達が住まう『たまご荘』の三○四号室を出る。


 ――次は一日の流れについて触れておこう。


 朝の六時半に寮長が鳴らして回る『魔道具』の鐘で起床。

 顔を洗って準備を整え、十分以内に自分の階級クラスの道場に集合する。


 朝稽古を八時まで行い、それから食堂にて朝食の時間だ。

『白帯』も『帯なし』も関係なく一斉に取って、その後はまた稽古を開始。


 そうして昼休憩を挟んでから午後の稽古となり、五時に一日の稽古が終了となる。


 夕食は六時からなので、多くの門弟が汗を流すべく大浴場へ。

 夕食後は寮のトイレや洗面台、廊下などの“掃除当番”がなければ、自由気ままに過ごすだけ。


 自主稽古に励む者もいれば、仲間と遅くまで喋る者。

 夜の森を散歩する者もいれば、すぐに布団に入って休む者と様々だ。


 ……一日の流れはこんな感じだな。

 朝もそこまで早くないし、何より職場(道場)まで満員電車に詰め込まれる必要もなし。


 地味にお金の心配がないのもありがたい。

『白帯』ではまだ給料的なものが出ない反面、入門したら生活費はいらず、稽古のお月謝も必要もない。


 たしかに不便な面はある。娯楽だって少ない。


 ただ正直、元の世界での自分と比べたら、だいぶストレスフリーな生活をしているぞ。


「そして今日は……初めての“休日”だ!」


 俺はつい嬉しくて大きな声を出してしまう。


 十日に一度の “完全オフの日”。まさかあるとは思わなかったぞ。


 たった一日、されど一日。

 ついこの間まで休日出勤の嵐だったことを考えれば、かなりホワイトな状況だ。


「……というか、そもそもとして、だ」


 もし休みがなくても、今は非常に“健康的な生活”を送っているからな。


【軟弱防御】と【風圧拳】。

 いまだ謎だらけの、なぜか使える『オリジナル技』の存在もあって、


 ただ強さを求める道場生活に、疲労はあってもストレスは感じていない。


 格闘技は好きでテレビでもよく見ていたからか?

 やった経験はなくとも、俺の趣味趣向に合っている気がするぞ。


 そりゃ欲を言えば、全てを“ワンパン”で終わらすチート攻撃。

 これがあれば一番楽なのだろうが……。


 結局、攻守どちらも優秀な技を一つ使えるのは、素人の俺にとっては最善だろう。


「さてと。とりあえず森を散歩でもしますか」


 朝食はすでにいつものメンバー(イケメン兄弟とルディ)と食べている。


 食堂については基本、肉だ。もちろん牛とか豚の家畜ではない。

 猪とか鹿とか野鳥とか、あとはさすがは異世界で、魔物の肉もよく出るぞ。


 それらがスープにブチ込まれ、何個もの大鍋にドン! と用意されて、

 相撲部屋のちゃんこ鍋みたいに、各々がお椀によそって食べる感じだ。


「まあ、美味けりゃ何でもオーケーだ。温かいし味付けもいいし、毎日コンビニ弁当よりいいぞ」


 少しギシギシと軋む階段を下りて、俺は『たまご荘』を出る。


 背の高い木々を見上げて、澄んだ空気を吸いながら『始まりの森』を歩く。


 ここから西へ行けば食堂があり、もう少し進むと『白帯』の『ひよこ荘』が。

 東へ行けば大浴場と門弟以外の関係者の寮があり、南には『森の道場』と『野道場』の広場が存在する。


 各施設は近くに密集し、全てが二百メートル圏内に位置している感じだ。

 他にも森の奥に入れば、『魔体流』の大きな農場まであるらしい。


「で、今日は初めての“北”へ! っと」


 剣のように聳え立つ異世界マッターホルン(?)。


 一つ上の階級クラスがいる、険しい山エリア方面に向かってみよう。



 ◇



「……お?」


 心地いい森林浴をしながら森を進んでいたら。


 今日は『白帯』も『帯なし』も、森エリア全体が休日だというのに。

 ワッショイワッショイ! と、自主稽古をしている門弟達の姿が。


 ……しかも一人二人の話ではない。


 パッと見てもいくつかの集団が、突きや蹴りを放ったり、高い木の上から落ちて受け身を取ったりしていたのだ。


「よ、よくやるな……。これぞリアルガチってか。でも休みは休みだから、俺は休ませてもらうぞ!?」


 元の世界では休みがほぼなかったからな。

 誰が何と言おうと、今度こそしっかり体を休ませてもらおう。


 そんなこんなで、一人勝手に精神を揺さぶられつつも。

 温かな木漏れ日を浴びながら、山が聳える北に足を伸ばしていくと――。


「――あ、ルディ!」

「――あ、ベルだべ!」


 一際大きな木の下、そこに転がっていた栗……どころでは済まない直径二メートルの大岩の前に。


 さらに大きな二メートル半のモフモフ巨体を誇る、熊人族の十八歳、ルディ=クゥがいた。


「何だルディ、お前も稽古か」

「もちろんだべ。というか朝ゴハンの時に誘ったべよベル!」

「あれ? そうだっけ。……まあアレだ、休みに何をするか考えてたから完全スル―だったな」


 腰に両手を当ててプンプンするルディ。

 そんなルディの機嫌を直すべく、俺は大きな腹を軽くモフってやる。


「むむふぅー」


 ……困ったことに本気でモフると嫌がるからな。

 ただ“軽めのモフり”ならば、逆に気持ち良さそうにされるがまま状態になるのだ。


 これも一週間で得た、生活する上で重要な知識の一つである!


「と、とにかくだべ! 明日から『白帯』に上がるけど、そこでは一番の下っ端になるんだべよ。だから稽古は大切なんだべな!」

「そりゃそうだけどさ……。今日くらい休んでいいと思うけどなあ」

「ダメだべよベル。休むのはもっと上にいってからでも遅くないべ!」


 やる気に満ちたルディにそう言われるも……ううむ、やはり今日は休みたいぞ。


 もうルディをモフってスイッチはオフに。完全リラックス状態になっちゃったしな。


「ほら、一緒にやるべよ! オラをモフるのも終わりだべ!」

「ええー、もう終わりかよ。あと一分くらいモフって……あ、そうだ」


 ルディの大きな熊の手に掴まれて、モフり止めを喰らったところで。


 銀髪短髪な俺の頭に、ある一つの名案が浮かぶ。


 ならば“アレ”を餌に釣ってみるか。

 ここの門弟連中は皆、俺の“アレ”に夢中だからな。


「んじゃこれはどうだ? 俺はこれから散歩するけど、記憶喪失で道が分からん。道案内として一緒にきてくれたら――明日からの実戦稽古では常にルディを指名するぞ!」

「何っ!? 本当だべか!」

「もちろんだ、男に二言はない。あの誰にも真似できない、【軟弱防御】と【風圧拳】を受けられる権利だぞ!」


 モノや金で釣るのではなく、“技”で釣る。


 これぞ力こそ全て、ただ何よりも強さを求める門弟に対するご褒美だ。


 ……自分で言うのもアレだが、それくらい『魔体流ここ』では俺の『オリジナル技』の価値が高いのだ。


 この提案をしたところ、案の定、ルディは道案内を快諾してくれる。

 鼻息荒く「約束だべよ!」と言い、自主稽古を中止してズンズンと森を歩き始めた。


 ――よしよし、上手くいったな。

 ここからは二人行動となり、門弟としては先輩のルディに色々と教えてもらう。


 甘い果実が生っている場所とか、陽が差して昼寝にちょうどいい場所とか。

 あとはあの木から先は魔物が出るから危ないべ――などなど。


 また、明日から行く『森の道場』や、その先に待つ『山の道場』についても教えてもらった。


 やはり上のステージに行けば行くほど、“自由”が増えて環境も良くなるようだ。


「ん? おいルディ、あれってまさか……」

「えっ? まだ森エリアなのに……何でいるんだべか?」


 と、ここで。

 噂をすれば何とやら、北へ北へと進んで麓まできた俺達の視界に――ある存在が見えてきた。


 魔物ではない。同じ白い道着を着ているので、門弟なのは間違いない……のだが。


『魔体流』の“力の象徴”とも言えるものに、俺達とその人では違いがあった。


「おっ、こりゃちょうどいいぜ。『白帯』の方からきやがったな!」


 ぶっきら棒な口調のその男、と思いきや“女”。


 金髪エキゾチックな顔立ちに、異世界こっちにきて最も細身の、まるでモデルのような体型をしている。

 屈強な野郎共を見すぎたからか、余計に弱そうどころか病弱な感じさえしてしまうが……。


 なぜここに?

 生活エリアが違うから、入ってくることはないと聞いていたはずなのに。


 目の前に現れた女性は、昇格した俺達よりも“格上”。


 腰に『灰帯』を緩めに締めた、一つ上の階級クラスの門弟だった。

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