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プロローグ 目覚めたら

「おーい! いい加減に起きろって!」

「ほら、そろそろ起きないと遅れるぞ!」


 温かい布団の中でまどろむ中、俺の耳にそんな声が聞こえてきた。


 ……ったく、うるさいな。もうちょい寝かせろっての。

 こちとら昨日……いや毎日か。朝(始発)から晩(終電)まで働かされて、心も体も疲れているってのに――……って、ちょっと待て。


「(え?)」


 俺は目を閉じたまま、自分の温もりが籠った布団の中で固まってしまう。


 なぜか? そりゃ聞き覚えのない声、しかも“二人の男の声”がすぐそばから聞こえてきたからだ。


 どこの世界に一人暮らしの男の部屋ワンルームに、朝っぱらから見知らぬ男がいるというのか。


 ……ヤバイ、これはアレだ。泥棒の野郎だ。

 最悪、金を取られたあげくに包丁で刺されて、無残に殺されてしまうパターンのやつだ。


「…………、」


 さっきまであった心地良いまどろみはどこへやら。

 あるのは恐怖と不安、それも特大級でリアルガチなやつだ。


 このまま再び眠りに落ちて、実は夢だったというのがベストな展開で――。


「おい、だから! いい加減に起きろってベル!」

「――あ痛ッ!?」


 と思っていたのに、現実は非常に厳しく。

 おそらく背中をバチン! と叩かれた俺は、その痛みで跳び起きてしまう。


「え? ……えぇ??」


 そして見た。

“見知らぬ天井”に“見知らぬ床”、“見知らぬ布団”に――“見知らぬ男二人”を。


「? 何をキョロキョロしてんだよ! 早く稽古にいくぞ!」

「ったくベル、本当に遅れちまうぞ。さっさと準備しろっての!」


“全て”が謎の景色を前にして、絶賛困惑中の俺に向けて。


 見知らぬ二人の男、改め“金髪イケメンの外国人”二人が。

 似たような顔(兄弟?)で目を吊り上げて、いまだ布団の上に座っている俺を見下ろしながら強い口調で言ってきた。


「……いや何この状況? ここはどこでアンタ達は誰だ? というかさっきから“ベル”って誰!?」


 対して、俺の頭は隅から隅まで疑問尽くしだ。


 とりあえずここが自分の家ではないのは分かった。何せ俺の私物が“一つもない”からな。

 さっきの背中の痛みといい、今現在も頬をつねっている痛みからも、夢ではないとも判断できる。


 ……じゃあ、尚更ここはどこだよ?


 天井も床も壁も、年季の入った板が張られた十畳もない殺風景な部屋。

 そこには俺も含めて金髪イケメンな外国人二人組がいて、なぜか空手とか柔道? みたいな“道着”らしきものを着ている。


「は? 起きたと思ったら急に何を言ってんだよ。寝すぎて頭ボケてんのかベル!」

「昨日の稽古で頭でも打ったか? ほらとにかく、急いで道着に着替えちゃえって!」

「え、あ……!」


 そう言葉を返されて、イケメンとはいえ野郎二人に、着ていた寝巻き(灰色の貫頭衣)を剥がされる俺。


 さらに枕元に畳んで置いてあった道着を指差されて、

 俺は流れのまま、仕方なくその道着(麻っぽくて薄手の白いやつ)に着替えることに。


「(いや本当、起きたけど何これ? まさか一般人が対象の新手のドッキリか!?)」


 そうして、混乱したまま何とか着替え終えた後。


 謎は一つも解決されずに、二人に「さあ、いくぞ!」と言われて。

 ドアの前に置いてあった草履を履き、言われるがまま部屋を出る。


 結局、きちんと自己紹介すらしないまま。

 どこかの寮か何かだろうか? 他にも同じようなドアがいくつもある板張りの廊下を、俺は二人について真っすぐ歩いていき――。


「ほらベル、顔くらいは洗っとけって。思いっきり目ヤニがついてるぞ」

「今日も稽古を頑張るんだからな。ちゃんと目も覚まさないとケガするぞ!」

「け、稽古? そういやさっきから何度も……。やっぱりこの道着って空手か何かの――……は?」


 廊下の途中にあった、学校の洗面台みたいな場所の前で。


 俺の頭の中は、今度こそリアルガチに“フリーズ”した。


 ここまで起きてから、謎の登場人物に意味不明の展開の連続。

 だからこの短時間でも、多少なりとも耐性はできたと思ったのだが……。


 ……って、そういや自己紹介が遅れたな。


 俺の名前は鈴木一男すずきかずお。二十三歳。

 去年の春に平凡な大学を平凡な成績で卒業、どこにでもいるブラック企業勤めのサラリーマンだ。


「――の、はずなんだ、けども?」


 古びてはいても、キレイに磨かれた洗面台の鏡に映っていたのは。


 いつも見慣れたくたびれた表情の、モブキャラみたいな自分の顔……ではなくて。


 後ろで待つイケメン二人組ほどではないにしろ、彫りが深くてカッコイイ顔。

 どこか育ちの良さも感じさせ、短い銀髪もサマになっている外国人。


 そいつが目を見開き口は半開きにして――ハッキリと俺を映すはずの鏡に映っていた。

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