東京世界 裏②
百合から貰った肉まんは寒さに身が染みた。
もし仕事後覚えていたら何かお礼しないとなと片隅程度に一樹は考えていた。
バイクで千代田区方面へと颯爽とアクセルを吹かす。
一樹は身に着けるもの全てにこだわりを持っている、何かと対策をしていて損になったことは今まで無い為である。
バイクは全身ガンメタリックカラーで塗装してある、夜間だとカモフラージュしやすいためである。
対向車にとっては何が走り去ったのかは分からないように細工をしてあり、パッと一瞬見ただけでは絶対わからないように細工をしてある。
当然エンジン・ラジエーター・マフラーといった内部部分はしっかりと改造してあり、輸入車のため時速も最速を超える程度の馬力を持ったモンスターマシンとなっている。
外観は塗装以外は目立ちたくはないので至ってシンプルなレーサータイプのバイクである。
メーター・ハンドルもいざという時のためにいくつか仕掛けが備えられている、今まで何度か使っているため、使用度に合わせ改良を重ねてある。
フルフェイスを被り靖国通りへとバイクを流していく。
先ほど聞こえていた喧騒に自分も同ように加わり新宿の音と光へと成り代わる。
並走しているタクシー、時には暴走して赤信号すら突っ走るタクシー、道路工事を行う音、クラクションを鳴らし横から入ってくる車、車を気にするわけでもなくイヤホンを着けている走っているロードバイク、BGMを流しながら蛇走する改造車、それを取り締まろうとするパトカー……。
表の人の時間は終わり今からは裏の時間が始まる。
始まってから終わるまで誰もきっと知ることは無いだろう。
表の時間では目に見えて分かる結果も裏では何もかもが煙のように消えていく。
自分が消えたとしても誰も気づかないであろう。
しかし、違いを感じる度に一樹は悲観になるどころか興奮を感じている。
そうでなければ勤まらない仕事。
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靖国通りを抜けるとオフィス街へと繰り出す。
九段坂付近は警察の取り締まりが強いが、それを気にするわけでもなく黒に溶けたバイクは疾走する。
時間は19時30分、余裕過ぎる時間である。
オフィス街となっているので先ほどに比べると落ち着いてはいる。
金木なぎさは秋葉原駅付近の岩本町についているらしい。
仕事前にはいつも対面することは無い。
パートナーとなって3年経っているが会った回数も2回程だ。
今日はどうしても会って欲しいということなので早めに百合が待っている場所へと向かった。
「一つ気になる点がある、装備は抜かりなく。」
金木なぎさはそう言った。