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俺は恨んでないんだが  作者: 白川 蓮
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第2話 クライアントをお迎えしてみた

「いいですか、樫村さん。初めてのお客様をお迎えするんですから、気を引き締めて下さいね。」

俺の部屋のパソコンデスク、のさらに上、パソコンデスクと一体になっているプリンター設置用の台に鎮座する、俺の大事な高級プリンター。

の上で、踏ん反り返るジャンガリアン。

対して、何故か正座で話を聞く俺。


なぜ俺は、死後こんな仕打ちを受けているんだろうか。

大していい事もしてないが、人様に迷惑かけるような事もしてなかったはずなんだかな。


名刺を差し出した後、俺はハムスターから、幽霊の仕事と制度について、つらつらと説明を受けた。

(わたくし)は、幽霊補助者として、樫村さんの補助、言わばアシスタントですかね、を務めさせていただきます竜ヶ崎と申します。これから末長いお付き合いとなりますので、どうぞよろしくお願いします」

名を名乗る時、妙にドヤ顔に感じるのは置いとくとして、

「え、長い付き合いになるのっ?」

不服が声になって出てしまう、素直な性格の俺。

「当たり前じゃないですか樫村さん。ここ死後の世界なんですよ?もう寿命も何も関係ないんですから」

「はあ?寿命を超えて労働?」

「だから、名誉なことなんですよ?もう、樫村さん、少し黙って話聞いて頂けます?」

怒られてしまった…

ハムスターに…


ハムスターこと、竜ヶ崎は、またどこから出したのか、ハムスターサイズのホワイトボードに何やら書き始めた。

本当、喋らなければ最高に可愛いんだが…

ちなみに小さなホワイトボードに記されたのは、丸が二つ、それぞれにこの世、あの世と書かれただけの、至極単純な図だった。

これなら書くまでもないようなと思ったが、口を挟むとまた怒られそうで、黙って見ておくことにした。

「いいですか、樫村さん」

振り返った竜ヶ崎は、バンバンとボードを叩き、話を続ける。

「貴方が今までいたのがここ」

と「この世」の方を指示棒で示す。

あのアイテム達はどこから出てくるんだろう。

「で、お客様が向かわれるのがこちら」

指示棒が「あの世」に移動する。

「そして、今私達がいるのがここ」

そう言って2つの丸の間をコツコツと棒で叩いた。

うん、まあ、だいだい分かってた。

「ここはどちらにも属さない、またどちらにも属す世界です。」

少し説明的になってきたな。

「お客様が移動する刹那、心残りをここで吐露し、気持ちよく旅立っていただく。そうすることで、あの世で新たな生を迎える準備を行うことが出来るわけです。」

はあ

「輪廻転生の摂理を支える、非常に重要な仕事であり、その大役を仰せつかるというのは大変な名誉ですよ」

結局そこか。

「で、早速お客様です。お迎えする準備を」

「ここに来るの?」

この、何もない空間に?

はあ〜

俺の思うところの、アメリカ人が「oh.no〜」って感じのジェスチャー。

ハムスターって、結構いろんなポーズ出来るんだなと感心する。

「言ったでしょう?ここはこの世に属さない、そしてこの世に属す世界。」

「すまん、よく分からないんだが」

「この世ではないのだから、物質などない、形に左右されない世界です。そしてこの世に属す世界でもあるのですから、形作ることも可能なのです。要は、イメージ次第でどうとでもなると、先程からそう申し上げている訳です」

申し上げられた覚えはなかったが、まあ理解した。

なら、この無な空間も、俺がイメージすれば変わる訳か…。

と、意識する間もなく、舞台は俺の部屋へと変わる。

「おわっっ⁈」

多分俺の仕業なんだろうに、あまりに瞬間的過ぎて思わずビビってしまう。

「おや、作り替えましたか?」

竜ヶ崎はトコトコと走り、それから俺の膝にピョンと飛びのろうとした、で、届かなくてジタバタ。

なんだかかわいそうになって手を差し出すと、大人しく手の平に移動してきた。

そしてそのままキョロキョロ見渡していた。

「樫村さん、貴方のご自宅で?」

「ああ、まあ、そうかな」

「まあ、お客様をお迎えする部屋という雰囲気ではないですが、樫村さんの生活の場としては最適でしょうね。ですが、もう生命活動、即ち食事などは不要なのですからキッチンまで再現する必要はないのでは?」

「しょうがないだろ、元々1Kなんだから」

無言で俺を見上げるハムスター。

可哀想な目で見るなよ。20代の一人暮らしなんてこんなもんだし、不自由はねーよ?

「ふむ、まあいいでしょう」

そしてコホンと咳払いするような仕草を見せて、改めて俺を見上げ言う。

「では、お客様様をお迎えする準備をお願いします。」

え、いや準備と言われても…

「!」

戸惑う俺の頭に、一人の女性の姿が入ってくる。

「篠崎美優さんと仰います。享年32歳」

美人、というほどでもないけど、まあ好みだっていう人もいるだろうなって感じの容姿。

それだけいうと、竜ヶ崎はトコトコとパソコンデスクに向かって走る。

なんだか登りたそうにジャンプしてるので、手ですくってデスクの上に乗せてやる。

するとまだ上を目指したいのか、デスクと一体化しているプリンター台につながるスチールをカリカリする。

何がしたいんだか。

とりあえず俺は、再び竜ヶ崎を手にすくい、今度はプリンターの上に乗せてやる。

結構奮発して買った高性能のプリンターなんだがなぁ。

部屋で一番高い場所に立ち、満足したように竜ヶ崎が踏ん反り返る。そして高らかな声で、

「幽霊補助者 竜ヶ崎霧彦の名の下に、幽霊 樫村直樹殿と(わたくし)竜ヶ崎霧彦のコンビ結成をここに宣言する。」

と、宣った。

あ、そこコンビなんだ。

ツッコミたい箇所も多々あるのだか、どこから突っ込むのが的確なのか、言葉に紡ぎあぐねてしまう。

「いいですか、樫村さん。初めてのお客様をお迎えするんですから、気を引き締めて下さいね。」

で、冒頭のシーンにつながる訳。

え、もう来るの?

俺の心の準備は全く出来ていないんだが、仕事の方は待ってくれないらしい。

その辺のシビアさは現世とえらく変わらないな。

今度は降りたいのか、竜ヶ崎が降りあぐねてジタバタしている。

世話の焼ける…

降ろしてやると、トコトコと玄関に向かった。

登れないし、降りることも出来ないなら登りたがらないでほしい。

そうこうしてる間に、ギイっと建てつけの悪い音を立ててドアが開いた。

そこに、さっき頭に浮かんだイメージのままの女性がいた。

「ようこそ篠崎さん。さ、どうぞ。」

竜ヶ崎が女性、篠崎さんを招き入れる。

俺の部屋なんだがなぁと思ったが、ふと疑問が浮かぶ。

「お世話になります」

篠崎さんはハムスターの竜ヶ崎に全く動じることなく、部屋に上がって来る。

そして竜ヶ崎に促され、俺の部屋のコタツの前に正座して座った。

なんとなく俺も正座で向かいに座る。

「担当させていただきます、(わたくし)竜ヶ崎と申します。こちらは同じく担当させていただく樫村です。どうぞよろしく。」

コタツテーブルの上で篠崎さんに丁重に挨拶するハムスター。

「こちらこそ、私事でお手数をおかけして申し訳ございません」

ハムスターに丁重に応える三十路の女性。

そして場所は独身男の俺の部屋。

シュールだなぁ。

「ではさっそく、お話を伺えますか?」

「はい…。」

いつの間に用意されたのか、篠崎さんの前にはコーヒーだか紅茶だかの入ったカップがある。

「恨みを、恨みを晴らしていただきたいのは、篠崎英夫。私を殺した、私の夫です」

大人しそうな女性から、絞り出されるように発せられる怨み言…

話は長くなりそうだ…

正座で座ったことを後悔しつつ、俺は否が応もなく、仕事に取り掛かることとなった。

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