★第40食
「ね、ねぇ、セツコさん見て、見てよ、あれ」
傍らに倒れているセツコさんを揺さぶる。
特に反応はない。
「ねぇ、セツコさんったら。ねぇってば」
先ほどよりも強く揺さぶってみる。
それでも、特に反応はない。
…………おかしいわ。
わたしは何気なくセツコさんの首筋に手を置いてみる。
……………ウ、ウソ、ウソでしょ
セツコさんは冷たかった。
その冷たさは天井のグロ丸たちと同じような冷たさで心なしか胸も上下してなくてそれって息をしてないって事なんじゃないかって思ってわたしはとにかくセツコさんを激しく揺さぶる。
「起きてっ!! セツコさんっ!! 死んじゃダメよっ!! あと少しだから、あと少しで助かるんだからっ!! ぜったいに死んじゃダメだってっ!! セツコさんったら!!!」
「……………………」
「セツコさん起きてっ!!! こんなところで死んじゃダメよっ!! ぜったいにダメっ!!! がんばったんだからっ!! アナタが死んじゃったら何にもならないじゃないっ!! し、死なせたりしないわよっっっ!!」
バシバシバシバシバシ!!
ピンピンピンピン!!!
激しく殴……揺さぶってみる。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぁ」
良かったっ!! まだ生きているっ!!
セツコさんから反応が返ってきたことにわたしはホッと胸をなでおろす。
ズキンッ
「あっ」
その時、また胸の奥が痛んだ。
そして痛んだ瞬間に分かった。
これ
ダメなやつだ
バタッ
身体がいう事を聞かない。
指一本すら満足に動かせない。
……なんで、なんでなの?
あと少しで、ほんの少しだっていうのに。
なんでわたしはこんな中途半端なところで倒れてしまうの?
いつもいつも肝心なところで
せっかく神威を手に入れて、それを使って自分だけの力で―――
それなのにこんなところで終わってしまうの?
なんで結果が……
このまま本当に終わっちゃうの?
こんな、こんな最後だなんて……余りにも
プッツン
「……いいかげんにしてよ……」
わたしをもてあそんだ全てに、いうなれば運命にというヤツに対して、わたしはぶち切れていた。
こんなところで終われるわけがない。
わたしは決めたんだ。ぜったいにこの人を助けるって。
なんでもいい。なんでもいいから。
どんな方法でもいいから
この穴底から、わたしは這いあがってみせるっ!!
「うっうわぁ―――――――――――――――!!!!!!」
わたしは天に向かって全力で叫ぶ。
わたしをもてあそんだ運命を糾弾するかのように。
全身全霊、魂を込めて、叫び声を上げる。
わたしを、死村メイを
なめないでよねっ!!!
「うわぁ―――――――――――――――――!!!!!」
物心ついた時からずっと違和感を感じていた。
けど、それが何なのかずっとずっと分からなくて、もやもやしていた。
でもヨーコちゃんとケンカして、セツコさんと和解して、あの作品に出会って、何となくだけど、このモヤモヤの正体が最近になって分かった。
わたしはきっと―――
世界が優しすぎることに違和感を感じていたんだ。
それはすなわち、わたしの周囲がわたしに甘かったってこと。
でも、わたしはそんなこと、心から望んでいなかった。
だから今したいこと、
それは、優しくしてくれた世界に対しての恩返し。
与えてもらった分だけ、与えたい。
だからみんなの役に立つギシンになりたかったんだ。
無意識の内に、それをずっとずっと思い描いていたんだ。
けど、今ではギシンじゃなくて別の目標が出来て―――
「うわぁ―――――――――――――――――!!!!!」
だからこんな程度の苦境で、根を上げてるヒマなんて、ない。
こんな天井くらいっ!!!
そして全てを消し去るあの力をイメージしながら、わたしは天を指差す。
「うわぁ―――――――――――――――――!!!!!」
バシュウゥゥゥゥゥゥ
「あ」
青空。
わたしの頭上に、雲一つない、どこまでもどこまでも澄み渡る青空が広がる。
あぁ……
こんな事って、あるのね。
その時、わたしの胸に去来していたのは、
この暗い穴底から生還出来た安堵じゃなくて、
もっともっと特別な感動。
だって、今、わたし―――
叫んだ時、頭の中に思い浮かべていたのは―――
わたしたちの上に重苦しくのしかかっていた天井が一瞬にして消し去ったのは、
こ の 力 は―――
―――全てを消し去る消滅の魔法≪ふぁぼ♥ふぁぼ♥イレイザ―!!≫ だったのだから。
……こんな事って、あるのね。
ねぇ、ヨーコちゃん、すごくない?
わたし諦めなかったから、なれたんだよ。
最後の最後に
なれたんだ。
ずっとずっと憧れていた存在、
みんなの役に立つギシン、じゃない。
あこがれの――――魔法少女になれたんだよ。
こんなことって、ないよね。
それだけでわたしの人生、全てが報われて――――――――
ああ、でも、できることならヨーコちゃんにもわたしの魔法を見てもらいたかったな。
それでまたあの時みたいに頭を撫でて、褒めて欲しかった。
それだけがちょっぴり心のこり。
でも、いいの。
自分の力でセツコさんを助けることが出来たんだから、それだけで満足。
あまり多くを望んだら、きっと罰が当たるわ。
ああ、それにしても、とってもいい気分。
生まれて初めての気分。
わたしはゆっくりと目を閉じる。
闇が広がるけど、ちっとも怖くはなかった。
もう、闇なんて、なんともない。
心がそれ以上に、輝いているのだから。
うふふ。
本当に、
最高の気分だわ。
ふぁさっ
そのとき、不意に誰かに頭を撫でられた。
だれ? もしかしてセツコさん??
もう元気になったんだ。
よかった。全然動かなくて心配してたんだから。
一生懸命がんばったかいがあったわ。
わたしはそっと目を開けて元気になったセツコさんの顔を見ようとして
最高の奇跡に出会う。
『『よく頑張ったねメイちゃん!! おめでとう!! ふぁぼ♥』』
あ、
あぁぁぁぁ、そうだったのね。
ずっとずっと聞こえていた声。
わたしを応援して元気づけてくれていた声、あなたたちだったのね。
大好きなあなたたちがずっと一緒にいてくれたのね
なんて、
なんてすばらしいのかしら。
こ ん なにステキなことが起きるなんて、なんて、なんて……
二人とも、ありがとう。 大好きよ!! ふぁぼ♥
けど、二人の姿が急速に遠ざかっていって……
わたしはもう一度、ちゃんとお礼が言いたくて、声を振り絞って…………
ふぁ……
ふぁ………ぼ………
…………ぼ……………
…………………ふぁ…………………
…………………
………………
………………
……………
…………
………
……
…
バタッ
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜 完




