第36食
『……ちゃん……きて……ちゃん……』
『……ちゃん……がんば……って……』
誰?
誰かがわたしを呼んでいる。
誰なの?
いったい誰がわたしを?
声のする方へと手を伸ばす。
そして触れようとした瞬間、
ガンッ!!
「っっつぅ――――――!!」
固いナニカに頭をぶつけてしまう。
イタイ、ものすごくイタイ。星が飛んだ。
「な、なんなのよいったい――――」
文句を言おうとしたところでハタと気づく。
何か重いモノにのしかかられている。
そして視界全域に広がるのは
闇。
わたしの周囲は闇に包まれていた。
電気が消えてるとかカーテンがしまってるとか、そういうレベルじゃない、全く先が見通せない本物の闇。
そんな状況にわたしは恐怖して、叫び声を上げようとして、
「ぅ、ぅぅ」
誰かいるのに気づく。
それは小さいけれど間違いなく現実の音。さっきとは違って本物の声。聞き覚えのある声。
これは
「も、もしかして、セ、セツコさんなの?」
返事はない。
だけど声はわたしのお腹のあたりから聞こえてきた。
そこでわたしは、セツコさんがわたしのお腹に覆いかぶさっているということに気づく。
「だ、だいじょうぶ? どしたの? もしかして……具合が悪いとか?」
セツコさんの方へと手を伸ばそうとして
「え?」
腕が全く動かないことに気づく。
右腕が、微動だにしない。
いや、それどころか、まともに身体を動かすことができない。
動かせるのは首とその周辺だけ。
何か、何か重いモノがわたしとセツコさんの上に覆いかぶさっている。
「こ、これって、まさか―――」
記憶を辿り、そしておぼろげながら直前の事を思い出していく。
何か大きな音がして、それから天井が落ちてきて
『あっ』
『メイさまっ!!!』
…………
これって………もしかして……そういう事なの?
わたしたち、崩落にあって、そして
閉じ込められちゃったの……?
…………………
…………
……
「ぅぅ」
「セツコさん!! 大丈夫っ!!?」
「………」
こんな弱弱しいセツコさんの声は初めて聞いた。
どうしよう、どこかケガをしているのかもしれない。
もしかしたらわたしを庇って――――
で、でもどうしたらいいの!?
身体が動かせないし、助けも呼べない。
闇が濃すぎて、今がどういう状況なのかも全く分からない。
ただ今、はっきりしている事は、どうにもならないという事だけ。
どうにも―――
あっ
その時、
本当に不意に、わたしの頭にある考えがひらめいた。
もしかしたら――――
だけど――――
あまりの発想にもちろん躊躇する。
けど、けど、セツコさんが、セツコさんが――――
『―――あなたの命令を聞く道理は、私にはございません』
最初は冷たいだけの人だと思っていて
『―――メイ様、失礼を承知で申し上げますが、少しお考えが甘いと思います』
感情の無いロボットなんじゃないかって思った時もあって
『あなたは死にません』
でも、わたしを元気づけてくれて
『とうとう私は手に入れたのです! ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのスペシャルエディションDVDをっ!!』
わたしが愛した作品を同じように愛していた、血の通った人で、
『手、つないでもいい?』
『……どうぞご随意に』
暖かい温もりを持った優しい人だって事を、今は知っている。
そんなセツコさんの、今、体に伝わる体温は、驚くほど冷たかった。
トクトクトク
でも、お腹には、まだ鼓動の音が伝わってきている。
その音はとても小さくて、弱弱しくて……
やるしか―――ないのね。
わたしは、覚悟を決めて首を持ち上げる。
そして、先ほど頭をぶつけたナニカに―――かじりついてみる。
ガリッ
ものすごく固かった。ちょっと歯が欠けた気がする。
それに
お、おぇぇ、
湿ったカビとホコリのような味が口中に広がって、えづいてしまう。
でも、
かじりついた箇所が消失したのだけは、暗闇の中でもはっきりと分かった。
――――これなら、やれる。
その確証に不快さは吹き飛んで、胸が高鳴っていく。
ドクン、ドクン、ドクン
地道でも、少しづつでもいいから前に進むしかない。
わたしの神威、何の役にもたたない、どうしようもない力
そう思っていたけど
そんなことなかった。
きっとわたしは……………
ねぇ、ヨーコちゃん、わたしやってみるね。
がんばってみるね。
生まれて初めて自分の力で、
自分だけの力で何かを為す。
わたしをずっとお世話してくれて、陰ながら支えてくれていたセツコさんを
わたしの神威で―――助けるんだ。




