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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
73/81

第33食


 どうすれば、いったいどうすればいいの?




 ………………



「―――い――ーコッ!!」




………………



「―――しろっ!! ヨーコッ!!」



…………………




「しっかりしやがれっつってんだろうがよぉ!! ヨーコォォォォ!!!」




 ゴンッ




 なにかがぶつかったのか、VRメットが揺れて一瞬、画像が乱れる。


「っ――イってぇぇぇぇ!!!」


「はぁ、黙って見てればいったい何をやってるの?」


「ぅ、うっせぇ、昔っから気の抜けたヤツには拳固がイチバン効くっつーだろうが!?」


「まったく……アナタの影響を受けたバックボーン(ヤンキー漫画)が透けて見えるようだわ。こんな固いものを殴ったらどうなるか、考えなくても分かるでしょうに」


「うるっせぇ!! お前にオレの美学は分からねぇよ! それに女を直接ぶん殴るワケにはいかねぇだろうがよ!」


「……難儀な美学だこと」


 

 兄貴とトキノの口喧嘩がメット越しに聞こえてくる。



 だがその声は無意味な音として私の中を素通りしていくだけだった。



 スッ



 するといきなりメットが外された。



 目の前には兄貴とトキノの心配げな顔があった。



「オイ、ヨーコ。テメェなにブルってやがんだよ!? さっきの覚悟はどこ行きやがった?」


「姉さん、やっぱり具合が悪いんじゃない? 顔が真っ青よ?」


「ちがう……ちがうんだ……うぅ」


 

 その時、私はせっかく覚悟を決めたのに、命をふりしぼって神威を使おうと決意したのに、何もできない自分が情けなくてしかたなかった。



 こんな結末、こんな運命が私の最期だなんて、本当にひどすぎる。



「こんなことって、こんなことって、うぅぅ」


 

 二人の視線に見守られているうちに、だんだんと目頭が熱くなってくる。



 ダメだ、抑えきれそうにない。



 もう、どうしようもない。



「ダメなんだ。私の神威じゃどうにもできない。もう、終わりだ、街も、メイとの思い出も、何も守れずに私は、私は、うぅ、ううぅ」




 瞳から涙があふれてきて、視界がぼやけてくる。


 決壊寸前だった。


 私は眉間の力を抜いて、たまっていた涙をそのまま押し出そうとする。






 その時――――







 パシーーーンッ









「イタっ!」





 

 いきなり頬を思いっきりはたかれた。




 そして私の頬をはたいたのは、あろうことか





「…………」




 トキノだった。



「な、なんでトキノが」



「このエセフェミニストは女を殴れないらしいから仕方ないでしょう? 目が覚めたかしら姉さん?」



 いつの間にかトキノは冷たい、氷のようなまなざしを私に向けていた。


 そしてその口元には、小ばかにするような嘲りの笑みまで浮かんでいた。


 そんな姿を見て私は




「目が覚めたって、な、なにがよ」



 腹が立っていた。



「体調が悪いのは仕方がない。弱音を吐くのも百歩ゆずっていいでしょう。でもね、泣くのは許さない。それだけは絶対にダメ。姉さんはまだ戦っているのよ? 世界の命運を背負って戦っている最中なのよ? それなのにその態度はなに? もしかしてこの戦いを弓道部の部活動かなにかと勘違いしてるのかしら?」


「ぶ、部活動? ば、バカにしないでよ。私は真剣に戦ってるよ!!」


「どうかしら?」


「何もしらないくせにっ!! それにいきなり年長者を叩くなんて、ひどいんじゃない!?」


「どうして?」


 トキノは本当に意味が分からないとばかりに首をひねる。


 こ、この子常識っていうものがないのっ!?


「どうしてって……そ、それに貴女もさっき心配してたじゃない。私の体調が悪そうだって。そうよ! 本当に悪いんだよ! もう死にそうなくらいグッタリなのよ!! それなのにそんな人をよく叩けたわね!? 悪いとは思わなかったの?」


 トキノは呆れたようにため息を一つつく。





「別に私は姉さんの体のことを思っていたわけじゃない。ただ、姉さんが頑張らなきゃ世界が滅ぶから気にしてあげてただけよ。それなのに勘違いして、本当におめでたいわね。それともなに? 大変だねって、よく頑張ってるねって、褒めてあげればよかったのかしら? そうすればもうちょっと真剣に戦ってくれるのかしら? それで世界を救ってくれるならいくらでも褒めてあげるわよ。スゴいわ姉さん! 何の結果もまだ出してないけどとってもカッコいいわ!! ……さぁ、こんなものでいいかしら? じゃあとっとと≪終末獣≫をやっつけてちょうだい」




「ト、トキノォォ!!」


 



 思い出していた。





 私はこの子のことが苦手だったんじゃない。




 キライだったんだ。




 超然として、斜に構えて、常に人をどこか見下したような態度のこの子が。







 昔っから大っ嫌いだった!!

 メイみたいな素直な子とは全然違う。絶対に相いれないタイプの人間だ。


 

 


 怒りにまかせて私はトキノにつかみかかろうとする。





 だが









 シュンッ






「うわっ」










 すんでのところで避けられてしまう。



「無様ね。こんな人に守られるくらいなら、いっその事滅んでしまった方がまだマシかもしれないわ」


「トキノ、テメーそこらへんにしておけ。次にヨーコを侮辱したらテメーだけ攻守壁から放っぽりだすからな」



 見かねたのか兄貴が仲裁に入ってくる。



「……フン」



「ヨーコ、大丈夫か? ほら、肩貸してやるから立て。それでどういうこった? お前の神威じゃ倒せないってのはよ?」



 兄貴の言葉は優しくて、私は、私は―――




「わ、私だって、なんとかしたいよ。で、でも、どうにもならないんだ。私の消滅弓の射程範囲は9,000キロ、でも≪終末獣≫がいるのは、南極は、ここから14,000キロもあるんだ。……どう頑張っても私の消滅弓で射貫くことは、出来ないんだ……」




 

 どうにもならない絶望的な真実を告げてしまう。





 ………………





 それっきり兄貴もトキノも押し黙ってしまう。


 














 

「…………そりゃヨーコ、やっぱりお前が何とかするしかねぇわ」








 数分、もしかしたら数秒だったかもしれない。



 重苦しい沈黙を破った兄貴の結論は、結局何の解決にもなっていなかった。





「何とかって……だから、どうにもならないんだって…………」




 私は首をふって兄貴の言葉を否定する。



 だけど、兄貴も首をふって私の嘆きを否定する。








「何とかなる」




 


 そして自信満々な笑みを浮かべる。


 そのあまりにも強気な態度に、なんだかよく分からないけどどうにかなるんじゃないかって、錯覚すら抱きそうになる。




「どうして、そんな」




「お前はまだ神威のさわりの部分しか触れてねぇ。それで、そんだけの神威を放てるんだから多分、イケるはずだ。お前が奥意にさえ目覚めればな」




「お、おくい?」




 何のこと?




「ああ、そうだ。これはまだオレしか気づいてねぇコトだが、神威には次のステップがある。それが奥意だ。パワーアップするんだよ、この力は」




「パワーアップ? 神威が? そ、そんなの初耳なんだけど?」




 兄貴はそこで困ったように自分の頭を掻く。




「だから、オレしか気づいてねぇんだって。スゲー感覚的な話しかできねぇんだけどよ。ある瞬間、気づくんだ。自分の神威が一体どういうモンなのかって。その瞬間から神威は奥意になる」



「自分の神威に気づく……? 奥意になる……? そ、それって具体的にどうやるの!?」



「それは…………オレがどうこう言えることじゃねぇ。お前自身が掴みとらねぇといけねぇんだ。だけどヒントは与えてやれる。見方を変えろ。自分がこれだと思い込んでいる神威をいったんリセットするんだ。そうすれば自ずと答えは見えてくる」




「リセットって……そんな簡単に……」




「ただの弓道部員の姉さんじゃ難しいかもね」




「トキノッ!!」



 トキノが茶化してきた。

 この期に及んでこの子は……




「私は弓道部じゃないって言ってるでしょ!! 現にちゃんとした作法だって私は………知らない……し…………」






 






 









 ちょっとまって。






 なんか今、とんでもないことを口走った気がする。










 今、なんて……






 弓道部じゃない、そもそもちゃんとした作法だって知らない……

















 そうだ。そういえば、そうだった。





 なんで、こんな当たり前のことを忘れてたんだ…………


 




 




 

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