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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第27食

どこか見覚えのある少女…………もしかして彼女は……。


 ジッと目を凝らす。



「お、お久しぶり。姉さん」



 やっぱりそうだ。 


 若干頬を引きつらせて、視線を泳がせながら片手を上げたその少女は、私のよく知っている人物だった。



 死村トキノ。数年ぶりに会う私のもう一人の妹だ。



「トキノじゃない! 元気してた!?」


「う、うん、げ、元気よ。ね、姉さんもお元気そうでよかったわ」


 よかった、という割に、トキノは一向に私と視線を合わせようとはしなかった。


 な、なんだか気まずい再会になってしまったみたい。


「で、でもどうしてトキノがここに?」


 空気を変えたくて私は違う話題をふってみる。


「どうしてって……はぁ」


 するとトキノは大きくため息を一つついて、トツトツと事情を語り始めた。


「……そこのチンピラに脅されたのよ。私、今日は完全オフだったのに……せっかく仁に一日中付きまとえるチャンスだったのに……出かけようとしたら、いきなり緊急通信が入ってきて『オレを今すぐ横浜に連れていかなきゃ仁のズッキューン(文字にできない部位)をバキーン!!(文字にできない激しい動作)してバキュンバキュンバキュン(文字にできない荒まじい内容)してやっからな!! イヤなら今すぐ来い!!』なんて脅してきたのよ? 信じられて!?」


「う、うん、それはヒドイね」


 もしそれが本当の事だとしたらたしかにヒドイ。


 でも、トキノ。アナタも相当ヒドいよ。女の子なんだから、もうちょっとオブラートに包んでさ……。


 だけど、トキノは止まらない。


「そうよねっ!? ヒドイわよね!? だって仁の×××(R18)は私だけのモノなのよっ!? それをピ―――(非常に聞き苦しい表現)できるのだって私だけに与えられた特権だというのにっ!! それなのにあのチンピラはあまつさえそれをドリドリドリドリ(ドリルで地面をホるような激しい音)するっていうのよ本当に許せないわ!! そんなこと言われて万が一仁のパオーン(ゾウさんの鳴き声)に何かあったらコトじゃない!!? だから仕方なく私はここまであのチンピラを神威で運んであげたのよ!! 不本意ながらねっ!!」



 耳を塞ぎたくなるような放送禁止用語のオンパレードだった。



 そうだ。すっかり忘れていたけど、私、この娘の事が苦手だったんだ。


 どこで聞きかじったのか、昔からこんな感じだったし。


 それにしても、この娘にさっきは引かれていたのかと思うと、もはや苦笑するしかなかった。



 でも、



「……ムリさせちゃってゴメン。でも、ありがとう。トキノのおかげで助かったよ」



 何だかんだ言って、彼女がいなければ兄貴も間に合わなかった。



 それに対しては素直にお礼を言おう。



「お礼は後でいいわよ」



 トキノはそこでようやく私と目を合わせてくれる。

 

 でも、その瞳はなぜか冷ややかだった。



「だって」


「?」


「まだ、助かってないもの」


 


 バシュゥゥン!!!



 トキノのセリフが言い終わるや否や、再び視界が閃光に包まれる。



 そうだった。



 頼りになる援軍にすっかり気を抜いてしまっていたけど、戦いはまだ終わってなんかいない。


 それに、事態だって好転しているとはいいがたい。


「なぁヨーコ。一応聞いとくが、≪終末獣≫は今、どっから攻撃してきてんだ?」


「敵は……動いていなければ、まだグランドキャニオンにいるはず」


 兄貴はヒューと口笛を吹きならす。


「メチャ遠いじゃねぇか。まぁ、お前の担当だからそうだろうとは思ったけどよ。わりぃがオレの神威じゃ鼻先すらかすめらんねぇ距離だ。オイ、トキノ」


「なによ?」


「テメェ、今からオレをグランドキャニオンまで連れていけ」


 その発言を聞いてトキノが肩をすくめて首をふる。

 それはバカにしているのを隠そうともしていない態度だった。


「ム・リに決まってるでしょう? アナタ、他人の神威の特徴も知らないのね。私の神威は地続きの場所にしか移動できないの。太平洋を挟んだ向こう側なんていけるワケないじゃない」


 鼻で笑うトキノを横目で見ながら、兄貴はぼそりとつぶやく。


「……そりゃ、今のテメェの神威の話じゃねえか。もうちょっと見方を変えてよぉ……あーっ、もういい。分かったよ。メンドくせぇ。ならヨーコ、やっぱりここはテメェが何とかするしかねぇ。ビシッと気合い見せろや!!」



 気合いを見せろ、ね。


 兄貴のその期待には応えてやりたかったけど、でも、そんな根性論じゃどうにもならないことだってある。


 一日に二度も消滅弓を放ったことなんてない。


 消滅弓は一射放っただけでも、足腰が立たなくなるほど疲労感に襲われる。

 冗談抜きで、一射ごとに寿命が数か月縮んでいる気がする。


 体力が回復する前に連続で放ったら、自分の身に何が起きるかなんて、想像すらしたくなかった。



 それに何より、私はもう、戦う理由を失ってしまっているんだ。

 

 さっきだって、そのせいで消滅弓を外してしまった。


 あの時のイメージが脳裏から離れない。


 例えもう一射しても、狙い通りに放てるとは到底思えなかった。




 メイがもうすぐ、いなくなってしまう世界。



 それは私にとって、何の価値もない世界だった。

 そんな世界を守るために戦うなんて、私には、私には……



「オイ、さっさとしろヨーコ」



 ……分かったよ。


 出来るとは思えないけど、とりあえずフリだけはしておこう。


 いざとなったら()()にご登場願うだけだ。


 そしてゆっくりと地面に転がしていたVRメットを拾い上げようとする。


『………ちゃん……』



 その時、VRメットから漏れている音声に気が付いた。

 セツコさんかな? 何気なく私はメットを装着する。


 


 そして、意外な人物の声を聞くことになる。




『ヨーコちゃん!! 戦って!!』





 メイだった。

 



 それは病床にふせっているはずのメイの声。

 だけどその声は、今まで聞いたことがないほど、力強い叫び響きを持っていた。



「メイ?」



『がんばってヨーコちゃん!! そしていつもみたいに悪い≪終末獣≫をカッコよくやっつけてよ!!』



 何だろう。


 それがなんなのかは分からない。


 が、メイの必死な声を聞いている内に、胸に熱い衝動が広がっていくのを、私は実感していた。


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