第21食
「そうだ。もし良かったらキミの名前も教えてよ。わたし、あだ名をつけることに関しては定評があるからね♪ カッコいいあだ名つけてあげる♪」
「名前……」
僕の名前ねぇ……どうすっかな……
「…………リル」
「えっ?」
「……フェンリルだよ。それが名前さ」
「フェ、フェンリル!? が、外国人!? っていうかあだ名必要ないくらいすでにカッコいいじゃん!?」
「いや、もちろん本名じゃないけど。なんつーかコードネームみたいなモン」
「コードネームなんてあるの!? ますます気になっちゃうよ。キミって一体何者なの??」
あーあーメンドくせー。もうホントのこと言っちまおうかな。
「僕は―――」
ガラッ
「あんれぇ、まだいたんけ。もう暗くなるよ。懐中電灯もってくかい」
「あ、おばちゃん。大丈夫、自転車で来てるから。ありがとね」
「そうかい。まぁでも気を付けて帰んなさい。夜道を女の子が一人ってのはやっぱり危ないからねぇ」
「ううん。大丈夫だよ。だって今日は頼もしいナイトが―――ってあれ?」
いつの間にかわたしの目の前から男の子―――フェンリルくんの姿が消えていた。来たときみたいにまたマジックを使った……のかな?
「……っていうか女の子を置いて黙っていなくなっちゃうなんてちょっと減点だよ。よぉーし」
わたしはお腹に力を込めて、ありったけの大声で叫ぶ。唐突に現れて、そしてまた唐突に消えてしまった不思議な男の子に届くように。
「今度会った時はフェンリルくんのおごりだからねぇ~~~~~!!!」
わたしの声が届いたかどうかは分からないけど、心配はしていなかった。
だって彼とはまたどこかで会えそうな予感がしていたから。
わたしの予感は結構あたる。……三割くらいだけど。
「ふっ、青春やねぇ」
背後でおばちゃんのニヒルな声が聞こえた。
「あはは、それちょっと違うかも。……多分ね」
タジタジになって一応否定しておく。
もう手遅れかもしれない……この人うわさ好きで有名なんだよなぁ。
……お父さんの耳に入ったらちょっと面倒かも。
そんな事を考えながらわたしは一人、ため息を漏らすのであった。
……でも、そういえば、フェンリルくんの話で一つだけ気になるコトがあったな。
なんか最初は魔法のお話をしていたような気がしたんだけど、途中から神威のお話しに変わっていって、それでフェンリルくんが神威で消されても大丈夫って最後言ってたから……
つまりは……
神威って…………転送魔法と、イコールってことで、いいのかなぁ???
……今度会ったらちゃんと聞いてみよっ♪
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
コンコン
ドアがノックされる。
そして数秒後に「失礼します」と断りをいれてからセツコさんが入室してくる。
わたしの返答がない事を分かっているのに、律儀に待ってから入ってくるのが本当にセツコさんらしい。
ここ数日で、わたしのセツコさんに対する評価は大分変わってきた。
とっても信頼できる、頼りになる大人。
だからこそ彼女に――――
「…………ねぇ、セツコさん…………」
ガタッ
いきなり声をかけたからか、お布団をかけ直してくれていたセツコさんが驚いて一瞬飛び上がる。
「起きてらっしゃったのですか。どうかなされましたか?」
だけどすぐに元のクールな表情を取り戻す。やっぱりこの人しか頼める人はいない。確信する。
「お願いがあるの」
わたしの小さな声を聞き洩らさまいと、セツコさんは身を乗り出してわたしの口元に耳を寄せる。
わたしはその耳元にそっとささやく。
ここ数日、ずっとずっと考えていた事を。
今のわたしの、心の底からの、本当の願いを。
「お願いだから……わたしを殺してちょうだい」
もうこれ以上生き続ける理由はどこにも無い。
たくさんのチューブにつながれたわたしは、もう全てを、あきらめていた。




