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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第19食

「……というわけで、今、この町は4月から来るっていう神さまの話題で持ち切りなの」


「あぁ、そ、そうなんだぁ」


 僕は、図らずもあんずバーによってパンパンに膨れ上がった腹部をさすりながら、適当に相槌を打つ。


 き、気持ちわりぃ……

 なんでこんな事態に陥ってしまったんだ?


 込みあげてくる何かと戦いながら、僕は数十分前に自ら下した愚かな決断を、ただただ呪うばかりなのであった。




~数十分前~



「えっ? あんずバー苦手なの? わたし超好きなんだけど? 食わず嫌いなんじゃない? ほら、一本食べてみたら? 好きになるかもしれないよ? ぜったい美味しいからさ。ほらほら、食べてみなって」


 あんずバーはぜったいに食べないZE! と告げた途端、外モブはあんずバー普及委員会(?)の本性を表し、熱心に僕にこの『駄』菓子を勧め始めた。


 もちろんそんな勧誘に引っ掛かる僕ではない。

 こんな○○いモン例えひと欠片たりとも体内に取り入れたくはない。

 あのネチョっとした食感に、子供を糖尿予備軍にさせる目的としか思えない甘み天元突破のシロップ、考えるだけでも鳥肌モンだ。

 先が見えないこの世の中、僕は好きなモノだけ食べて暮らしたいんだ。


 だが……急に外モブはしなをつくり始めると、目元を潤ませる。

 そして最強の禁じ手を使ってきた。





「絶対おいしいのになぁ……ホラ、口開けて。あ~ん」


「あ~~~~ん♪」



 次の瞬間、僕は給餌を待つひな鳥のごとく、本能のまま口を開け放つっっ!


 ……だって妙齢の女子に「あ~ん」などとやられて、果たして抗える者が存在しえるだろうか? 



 いや、いなァァァ~~~いッ!!(ドイツ軍人風)



 それにこれ、バーといいつつ棒じゃないから!! どうやって食べさせてくれるのか非常に気になるところだ。まさか一欠片ごと掴んで口まで運んでくれるっていうのかい?? シロップがついたその指はオヤツに含まれますのかい??


 めくるめくプレイ内容に思いを馳せながら、僕は期待を込めた眼差しで外モブの細くしなやかな指を見つめる。




 そして

 


 ビリッ




「はい、どうぞ♪」



 なんかドス茶色いカチンコチンコな棒が目の前に差し出される。


 ……まぁ……なんとなく予想はしていたさ……だって凍らせるのはメーカー推奨の食し方だしね……


 


 シャリッ


 

 うっ



 久しぶりに食したあんずバーはたとえ凍らせてあったとしても、やっぱり僕の舌には合わなくて、そして、ちょっぴり涙が混じったのか、ほのかに塩辛かったりもした…………ちゃんちゃん。




















 ……っていうかやっぱりゲロまじぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!


 そのあまりのオリエンタルな風味に思わず涙目になった僕を、感極まったと勘違いしてくれた外モブは、善意のあんずボーを間断なく口中に突っ込み続け、最終的に僕の腹はあんずペーストで隙間なく充填されることになったのであった。


 

 しかし、な、何本買って来たんだろうなコイツは?……と、とりあえず、素数でも数えて落ち着こう…………1,3,5,7………




~~~~~~~



「……でねでね。みんなすごい心配してるんだ。危険じゃないのか、とか、神さまの神威っていうので消滅させられたりしないのか、とかさ。ご近所さんも慌てて引っ越ししちゃってわたしん家の周り、みんないなくなっちゃたんだ。あははちょっと大げさだよね~」

 

 僕の中では、女は例外なくおしゃべり好きな生き物と相場が決まっている。


 そして外モブもその例にもれず、僕の話を聞きたいとか言ってたわりに自分の話ばかりしていた。


 ……まぁ、今、話できるような状態じゃないし、語るようなことも無いからそっちの方が助かるけどね。


 

 そして外モブの話を聞いている内に、この片田舎にどうやら新しいギシンが配属されてくるらしいことが分かった。



 ……ん? でもこんな田舎町にギシン? 守るような重要施設があるとも思えないけど? おかし…………いや、待てよ、そうか、ここって……アソコのコトなのか?



 こっちの世界に舞い戻ってからすぐにやったことは、財団本部から終劇の予言書をパクる事だった。


 僕単体の力じゃ≪アイツ等≫を転送できないので、どうしても正式な転送に相乗りする必要があったのだ。


 そのため≪アイツ等≫の出現があらかじめ記載されている予言書はマストアイテムだった。


 先日の島国での出現。アレを観測できたから、いま手元にあるパクりたての予言書は正確であると言えた。シリアルナンバーはふってないけど偽書ではなく数冊ある複本の一つだと思われる。



 そして―――僕の持っているこの予言書は、あるページを境にずっと白紙が続いていた。



 そこから先は書く必要がなかったってことだ。その意味するところは一つだけ。



 ……誰がココに配属されるかは分からないけど、どうやらソイツは最後の貧乏くじを引かされる残念な役割なわけだ。お気の毒に。



 なんせここは予言書に書かれた最後のページ、最後の≪終末獣≫の出現場所、人類終焉の地になるのだろうから……



 その瞬間、瞳に映る牧歌的な田舎の風景が、一転違った色を帯び始める。



「ねぇ、キミはどう思うかな? やっぱり神さまっておっかない存在だと思う?」


 一応自分が4月から来るギシンではない、という事だけは外モブには伝達済みだったので、そう尋ねられる。


 そろそろ腹もこなれてきたし、いいかな。気になるコトもあるし。


「う~ん、僕の口からはなんとも。それより気になるコトがあるんだけど」


「なに?」


「なんでさっきからギシンを神さまって呼んでんの?」


 当然の疑問だった。


 こちとらまがい物扱いされて久しいんだぞ。外モブが皮肉を言うような人物とは思えないし、実はさっきからずっと引っ掛かっていたのだ。


「えっ? ああ、ヘンかな」


「うん、すごくヘン」


「うう、しぐっちにもそう言われるんだよねぇ……そんなにヘンかなぁ……」


 外モブはガックリとうなだれる。けどすぐに顔を上げて


「でも、誰になんといわれようと、わたしにとってはギシンは神さまなんだよ」


「だからなんでよ?」


「なんでって? そりゃ当たり前だよ。だって―――」、


 外モブは胸を張って、


「わたしはギシンのみんなに感謝してるんだから」


 と全力のキメ顔でそう言い放つ。



 きっと、その時の僕がよっぽど呆けた表情をしていたんだろう。



 外モブは意図が伝わっていないことを察して、腕組みしながら「う~ん」とうなり出す。


「あのね、言ってもわたしってそんなに信心深い方じゃないんだ。だから実際に世界を創造したような神さまはいないと思ってるの。宇宙が生まれたのだって、突き詰めればきっと科学的な説明がつくと思う。でもね、ギシンってわたしたちのために≪終末獣≫と、あんな巨大でおっかない怪獣と命がけで戦ってくれてるわけでしょ? それを『ギシン』って、そういう呼び方するのって、なんかちょっと違う、失礼なんじゃないかって気がしちゃうの」


 そもそもギシンというのは字面が良くない、と外モブは付け加える。


「だからわたしはギシンを呼ぶ時は敬称込みで神さまって呼ぶことにしてるんだ。神さまを信じてないわたしが唯一信じてる神さま、みんなのためにを実践してくれている感謝してもしきれない存在、それがわたしがギシンを神さまって呼ぶ理由だよ」


「……感謝、ねぇ」


「そう、言葉じゃ言いつくせないけど、わたしにできるのはそれくらいしかないから。……でも世間ではなぜかギシンが得体のしれない不気味な存在扱いされてるじゃない? アレが納得できないんだよね~」


 外モブの表情が曇る。

 

 そりゃそうだろ。万が一ギシンが人心を集め、崇め奉られるようなことになれば閉塞的なこの世界のこと、神聖ギシン帝国なんてものが爆誕してもおかしくはない。


 そうなれば権力のピラミッドの頂点に、ギシンが食い込んでくる。


 現在のこの世界の主権者たちはそんな未来は望んでいない。


 だからギシンは常に日陰者になるよう、懇切丁寧に情報操作&世論誘導されている。



 ……まぁ、その施策によって僕みたいなハネッ返りを生み出してしまったんだから、策士策に溺れるとはまさにこのことだね♪



 …………本当に絶滅してもおつりがくるくらい愚かな種だよ。人間ってヤツは。



「……でさ、そんなんだから、4月から神さまがこっちに来るのって、わたし楽しみだったりしてるんだ。だって神さまだよ? 会えるんだよ? もうそれだけで嬉しいじゃない? それにわたしってバカだから、自分の目で見ないとよく分からないの。だから実際にギシンが世間で言われている通りの存在なのか? それともわたしが思っている通りの神さまなのか? それとも全然違う存在なのか? この目で確かめたいとも思ってるんだ」


「……ああ、そうなんだ……昔、世界に命がけで意見した偉人も同じようなコト言ってた気がする」



 確かガリなんとか。



 ……でも、そんなことはどうでもいい。


 

 それよりも僕はこの時、外モブに出会ったことをちょっとばかし後悔していた。



 きっと、このまま立ち去れば、僕にとっていい影響を及ぼさないだろう。

 覚悟が鈍りかねない。返報性の罠ってヤツだ。

 そうならないためには、どうも選択肢は一つしかないように思えた。




 重要な情報を開陳する。言葉には言葉でお返しする他ない。




 だったらいいさ。キミには人類が未だ知りえていない真実を教えてやるよ。


 特に心配はしていない。


 短い時間だがこの外モブの事は大体分かっていた。


 とんでもないお人よしで、おまけに世間とズレてて、そして先ほど自分でも言っていた通り、



 ―――バカ、だから。



 こっちの世界とあっちの異世界を股にかけた、海千山千の僕の敵ではないだろう。



「うんうん、でも実にいい心がけだ。きっとギシンの皆さんもさぞやお喜びのことだろうて」


「えっ? そ、そうかなぁ? そう言ってもらえると嬉しいな。実はまだしぐっちにも言ってなくてさ、でも、何となくだけど、キミなら分かってくれそうな気がしたんだよね」


「そいつはイイ勘してたね。実にグッジョブだ。そしてナント!! そんな信心深いあなたにお得で耳よりな情報があるんデスよ!!」


「ふふっ、何それ? どんな耳より情報かな?」


「先ほど言っていたギシンの神威が危険、消滅させられる、といった風聞ですが、それは全くの杞憂だから安心して大丈夫なのデスよ!」


「へぇ~そうなんだ。それって財団のパンフ情報? わたしの知ってるのとはちょっと違うけど」


「……僕はよく知っているからね。神威の本質が財団発表の≪消滅の力≫なんかじゃないってことを。たとえ神威に巻き込まれて消えてしまったとしても、死にはつながらない。命にもなんら別状はないのさ。なぜなら神威とは―――」




 真実はいつも一つ。指をビシッと突きつけながら外モブに告げる。





「ただの転移魔法だからさ。A地点からB地点へ移動しただけで死ぬワケないでしょ?」


「てんいまほう? AからB? まほう……MAGIC……あ、そうか」

 

 外モブはポンッと手を打って得意げな顔になる。まさか……コイツ!!








「つまりはマジック! 手品だったんだねっ!!」






 予想のナナメ上の返答。こいつぁ思った以上の逸材。


 外モブは僕の想像の範疇を突き抜けた、とんでもないバ―――だった。


個人的にあんずボーは駄菓子感満載で大好きです。

そしてこの設定説明回、あと一回だけ続きます。

本編から離れてしまっていますが、どうかお付き合いの程なにとぞよろしくお願いしますm(__)m

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