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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第14食




「…………そうだったんだ………………私、一つの事しか見えなくなっちゃう性質だから…………メイの気持ちには気づいてあげれてなかった…………ゴメン……」



 絞り出すようにヨーコちゃんは謝罪の言葉を口にする。



 悲しそうなヨーコちゃんの声。


 こんな声、初めて聞いたかもしれない。


 胸が、さっきまでとは違う痛みを訴えてくる。


 取返しのつかないことをしてしまったのだと、改めて実感する。





 でも、もう遅い。後戻りなんてできない。




 ヨーコちゃんは力ない足取りで、川の淵の方へと向かって歩き出す。



 そして数歩進んでから立ち止まると、しばらくその場で佇んで、ゆっくりとわたしの方へと振り返る。



「……メイからそんな風に言われるなんて、初めてな気がする……でも、ホントの姉妹って………そういうものなのかもね………………だったらさ、メイ。今からでも、私の本音聞いてもらえるかな。次は私の番ってことで、いいよね」


 それは確認ではなく、通達に聞こえた。


 ビルの明かりを背にしたヨーコちゃんの表情は、よく見えなかった。


 ただ、空気がピンと張り詰めたような気がした。






 わたしは本当に弱くてずるい人間だ。


 自分だけ言いたいことを言ったのに、自分が言われるのは、怖くて仕方がなかった。



 いくら優しいヨーコちゃんでも、ここまで悪しざまに言われたらきっと……



 わたしは唇を噛んで衝撃に備える。そして―――




「私はね、メイ、あなたは一生そのままでいいと思ってる」




 ズキン


 これがヨーコちゃんの本音。

 その意味するところは



「それって、つまり、わたしは、今のままずっと、神威に目覚めないまま、役立たずのままで、一生を終えろって、そういう意味……?」



 コクリ



「神威に目覚める必要なんてない。そのままでいい。変わらないでいいと思ってる」



 景色がぐにゃりと歪んで、足元がおぼつかなくなる。



「そうあって欲しいと私は願ってる」



 ヨーコちゃんのその言葉は、わたしにとっては余りにも辛くて



「ほ、本当にヨーコちゃんはわたしを、ペットのようにしか思ってなかったのね!? わたしの人格なんか無視して、このままずっと、辛い思いをしながら生きていけっていうのね!? そんなに自分が優越感に浸りたいの!? 役立たずな妹を眺めてほくそ笑みたいのっ!!? ヒドイ、ひどすぎるわっ!! そんなのっっ!! ―――わたしは、わたしがどれだけ、ううっ、うううう、ううううぅぅ」


 泣いたら負けだと思ったけれど、わたしはガマンしきれなくなって両手で顔を覆う。


 あの優しかったヨーコちゃんが、本当はわたしをどう思っていたのかが分かって、ショックすぎて、全てがウソだったなんて、もう何も信じられなくなって、


 もうこの世界になんの未練なんか無くなって、わたしは、わたしは―――



「ち、違う違う。そうじゃない。そういう意味じゃない。私はね―――」



 けど、ヨーコちゃんは慌てて取り繕う。




 そして




「私が言いたいのはね、メイにはギシンじゃなくて―――普通の女の子として生きて欲しいってことなんだ」




「う″う″う″う″っ…………………………へっ?」



 ヨーコちゃんの発した言葉は、わたしの想像とは余りにもかけ離れていて



「…………普通の……女の子……?」



「うん、そうだよ」



 暗くて、その時のヨーコちゃんの顔は相変わらずよく見えなかった。



 でも、わたしには何となく、ヨーコちゃんはさっきから怒っていたんじゃなくて、恥ずかしそうにはにかんでいるんじゃないかって、そう思えた。




「私たちはもう目覚めちゃったから、戦いの責任からは逃れられない。

 けど、メイ、あなただけは違う。

 あなたは私のできなかった普通の人としての生活を、まだ送ることが出来る。

 それはとっても素晴らしい事なの。

 多くの可能性に満ちた、奇跡みたいな事なの。

 あなたは、私を含めた全てのギシンの希望。

 神威に目覚めていないことを卑下する必要なんて、全くないんだよ」


 

 気のせいかもしれないけど、なんだか、地面がグラグラと揺れている気がした。

 


「メイにはね、私が歩めなかった日常を、当たり前の普通の人生を代わりに歩んで欲しいって、そう願ってるんだ。そのために私は戦っている。

 そう、私が戦えてるのは―――メイがいるおかげ。

 昔っから私は、世界を守るためじゃない。

 かけがえのないあなたの未来を守るために、戦ってるんだ。

 その事を思えば無尽蔵に、いくらでも力が湧いてくる」



 もし、それがヨーコちゃんの本心だとしたら、わたしは、わたしの今までの考えって

 

 わたしが立っていた小さな世界が、足元から音を立てて、崩れていくのが分かった。



「メイは役立たずなんかじゃない。私に力を与えてくれる世界で唯一の人。

 ペットなんかじゃない。私の大切な妹なんだよ………」




 物心ついた時から、ずっとずっとわたしの手を握っていてくれたヨーコちゃん。




 辛い時も、悲しい時も、寂しい時も、嬉しい時も、いつもあなたがわたしの傍にいてくれた。



 その意味が、今、ようやく、ほんの少しだけ、分かった気がした。



「うぅぅぅぅ、うぅぅ、うわぁぁ~~~ん うわぁんうわぁんわぁ~~~~ん」

 

「ああ、ゴメン、ゴメン。泣かせるつもりはなかったんだけど……」


 ヨーコちゃんは慌てて駆け寄ってきて、わたしを抱きしめてくれる。


 優しくて、安心するいつもの温もり。


 ずっとずっとこの温もりに包まれていたかった。


 もう、わたしの意地なんてどうでもよかった。




「わ″た″し″こ″そ″ご″め″ぇ″ん″な″さ″ぁ″ぁ″ぁ″い″!!!



 

 こうして、わたしとヨーコちゃんの初めての姉妹ケンカは、わたしの完全敗北で幕を閉じたのであった。









 

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