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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第12食

「ま、まさか、お兄さんがふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのイラストレーターさんだったわけっ!!?」


「だっっはっはっはっはっ!! 何ソレお嬢ちゃん!? んなワケ無いっしょ!?」


 お兄さんはいきなり腹を抱えて笑い出す。


「な、なにがおかしいのよ、じ、じゃあ一体どういう意味なのよ?」


 なんだかよく分からないけど……何かがおかしい。


 会話の歯車がかみ合っていない……


 いつの間にか手のひらは汗でジットリと濡れていた。


「……お嬢ちゃん……もしかして分かってない? あ~、だとしたら納得だわ。あのね、ウチはコピー品とか過去にネット上にアップされてた動画とかを販売してるお店なの。普通のお店とは違うんだよ」


 お兄さんの言葉をわたしは自分の中で反駁する。


「だとしたら……それって、もしかして……」


 そういう代物のことをどこかで聞いたことある。たぶん間違いない。それって


「それって……海賊版ってヤツなんじゃないの?……そうやって勝手に作ったDVDを売るのって……悪いコトなんじゃ……」


「だっはっはっはっ直球ストレートッ!! …………あのねぇ、お嬢ちゃん? そんなのトーゼンでしょ? 分かってるに決まってんでしょ? だけど需要があるから商売が成り立つ。ミンナ全てを承知でココに買いに来るんだよ。いわばこの店は必要悪ってヤツなんだ」


「何開き直ってるのよ!! そんなのダメに決まってるじゃないっ!!」


 あまりの罪の意識の低さに、思わず声が大きくなってしまう。


「でもね、もう絶版の作品だったり、そもそもDVD化されなかったりした作品を見るにはウチみたいな店がどうしても必要なんだよ?」


「そんな理屈通らないわよっっ!! 現にアナタはふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのDVDを複製して売ってるじゃないっ!? よくもそんなヒドイ事ができるわねっ!! そんなまがい物のDVDで見たらふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズの二人が悲しむわっ!! わたしはちゃんとしたお店で、ちゃんとした商品を買って、二人を応援するんだからっ!!」


わたしの大好きな作品を汚した罪は絶対に許せない。

力強く糾弾&宣言する。


だけど


「だっはっはっはっはっはっ!! ウ、ウケるぅ~~!! お、お嬢ちゃん、ホンっとなんも知らないんだね? ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズの正規版DVDなんて地球上のどこ探したってあるわけないっしょ??」


 お兄さんはひと笑いした後、嘲るようにわたしを見下ろす。


「な、なんで、そんな事言えるのよ? 諦めなければ願いは必ず叶うんだから!!」


 わたしはすでに自分の心の拠り所となっている二人の言葉で反論する。けど。


「うあっ!! まぶしい!! そんなキラキラした目でオレを見ないでくれっ、溶けちゃうぅぅっ(笑) ……はぁ、オレさ、そういう目を見ると、どう~も汚したくなっちゃうんだよね?」


 店員さんの目が細められる。


 その瞬間、お店の雰囲気がガラリと変わって一気に空気が重くなったような気がした。


 わたしはそこでようやく、自分が知らない男の人と対面しているという事実を思い出す。


 胸元が気になって、かばうようにそっと抱く。


「勘違いすんな。手なんか出さねーよ。ただお嬢ちゃんには現実を知ってもらう。ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズってのは、どこのメーカーからもDVDが販売されていない唯一の大日魔法少女アニメなんだ」


「な、なんで」

 

 あんな素晴らしいアニメがなんで


「なんでって、超絶鬱展開でソッコー打ち切りになったアニメだからだよ。内容に救いが無さ過ぎて、当時のキミみたいなピュアな女の子たちがショックのあまり自殺しまくったっていういわくつき作品なんだから。そんなのDVD化するわけないでしょ?―――いわゆる封印作品ってヤツさ」




 打ち切り?




 いわくつき?





 そして……自殺?



 何を言ってるの? 



 意味が分からない。


 だって、あんなに素晴らしい作品と、お兄さんが今言ったことは、余りにもかけ離れすぎていて……わたしは、わたしは…………









「メイッ!!」


「……えっ?……あ、ヨーコちゃん」


 気づくとヨーコちゃんがわたしの隣に立っていた。

いつからそこに居たのか、全く気付かなかった。


「もうっ、探したんだから。勝手にいなくなっちゃって」


「………あっ、うん……ごめん……」


「? どしたの? 元気ないよ?……それに、顔色もよくない?」


「えっ? ……そう?……うん、言われてみれば……ちょっと具合が悪いかもしれない……」


「えっ!? そ、そうなの!? じ、じゃあまっすぐ帰る!? 歩ける? 大丈夫? 肩貸そうか?」


「う、ううん、大丈夫。歩けるよ」


 そうは言ってみたけど歩こうとした途端、その場でよろけてしまう。

 ヨーコちゃんは無言でわたしの肩を抱いて、介助してくれる。


 ごめん。



「……待ってお嬢ちゃん。その人ってもしかして、キミのお姉さんだったりする?」


 店を出る直前、背後からお兄さんに呼び止められる。



「だとしたら何?」


 わたしの状態を察して、代わりにヨーコちゃんが答えてくれる。


「いやいやお姉さん、そんなにおっかない声出さないでくださいよ。オレは別に何もしちゃいないんだから?―――そらっ」


 そしてお兄さんがわたしの手元めがけて何かを投げた。

 体が無意識に反応してソレをキャッチする。


「ビビらせちまった侘びと、本物の姉妹愛を見せてくれたお礼にソイツはあげるよ。煮るなり焼くなり好きにするといい」


「メイ? 何それ?」


 これはわたしが求めて止まなかったモノ、でも今は……


「ううん、何でもない。……何でもないの」


 なぜだか分からないけど、その時、わたしはホントの事が言えなかった。


 それよりも……胸がうずいて、苦しい。


「まあいいか。―――それよりアンタ、今、ビビらした、とか言ってたわね。もしメイに何かをしていたとしたら、この店、アンタごと跡形もなく消滅させるから覚悟しときな」


「おー、こわ。お姉さんは武闘派なのね。だけどオレは誓って何もしちゃいないぜ。むしろ礼を言われてもいい立場さ」


「礼? なんでよ」


 そこでお兄さんは歯を見せニヤリと笑う。そして―――


「なんせそのお嬢ちゃんを一つ大人にしてあげたんだから。イヤ、ヘンな意味じゃない。教えてあげたんだ―――どんなに諦めないで頑張っても願いが叶わないこともある、っていうこの世の真理をね」


 傍から見れば好青年にしか見えない笑顔で、お兄さんはそう言い放っていた。


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