第11食
4/22 お兄さんの最後のセリフを改稿しました。
「そ″、そ″れ″っ、ほ″ん″と″ぅ″なの!!」
わたしはカウンターに上ってお兄さんに詰め寄る。
その時のわたしは歓喜に震える獣と化していた。
「あ、ああ、たしか何枚かストックがあったと思うよ。今日バカみたいに出たからいちおう確認するけど。……あの、それよりちょっと落ち着いてくれないかな? あと顔も拭いた方がいいよ?」
お兄さんはちょっと身を引きながら、ティッシュを差し出してくれた。
そんなにひどい顔になっているのかしら。
さすがにちょっと恥ずかしくなってくる。
わたしはお兄さんの好意を丁重に断ると、カウンターから降りてさっきヨーコちゃんから譲り受けたハンカチで目元を拭う。
そしてその後……ついでに鼻もかんでおく。
チーーーーーン!!!
これで、もうこのハンカチに安全領域はなくなってしまった……
でも、最高のかみ心地だった……
イイ物をありがとうヨーコちゃん♪
「それじゃ、在庫見て来るからちょっと待ってて」
わたしにそう告げると、お兄さんは店の奥へと引っ込んでしまった。
……それにしても……まさか最後の最後にこんなミラクルが起きるなんて……
やっぱりわたしとふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズの間には、運命的な力が働いているのだと改めて実感する。
それに二人が作中で言っていた通りだった。
諦めなければ願いは絶対に叶う、って。
ふふっ、やっぱり全てにおいてふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズは正しすぎるわ。
本当に本当に素晴らしい聖典!! 帰ったら一気見しなきゃっ!!
ワクワク、ソワソワ
わたしはお兄さんが戻ってくるのを今か、今か、と待ち望む。
興奮しすぎて心臓がバクバクうるさいくらいに脈打っている。
静まれ、いや、静まらなくていい。
この恋い焦がれている時間を、少しでも長く味わっていたい。
だから何度もすぅーはー、すぅーはーと深呼吸を繰り返してその時を待つ。
けど、
何をもたついているのか、お兄さんは一向に戻ってはこなかった。
さすがに奥まで行って声をかけるのは憚られたので、しょうがなくわたしはその場で店内をぐるりと見渡してみる。
今日廻った他のお店とは違って、白地の壁にポップも宣伝も無い、なんだかとっても簡素な室内だった。
店舗部分には奥行きが無くて、人が三、四人も入ればぎゅうぎゅうになっちゃうくらい狭い。
なのに壁に貼られた唯一の張り紙には「脅威の品ぞろえ!! 常時五万本以上取り揃えて〼」と書いてある。
一体どういうカラクリなのかしら?
棚には商品はほとんど陳列されてなく、しかもちらほら置いてあるDVDも盗難防止のためなのか、パッケージをコピーした紙がただポツンと置いてあるだけだというのに。
ヘンなお店ね。
それがこのお店に抱いたわたしの印象だった。
「いやぁー!! ごめんごめんお待たせ。どうもこっちの勘違いでついさっき最後の一本が出ちゃってたみたい」
ようやく現れたお兄さんは最悪の訃報を持ってきた。
ガビーン!!!
わたしの高ぶった期待感は、一気に奈落の底へと蹴落とされてしまう。
「そ″、そ″ん″な″、は″、話″が、違″う″じゃな″い″!!?」
「うわわわわ、ち、ちょっと、待って、話を聞いてくれれれれれ、だ、だから悪いと思ってるってててて」
「そ″ん″な″言葉″で済″め″ば″駐″在″さ″ん″は″い″ら″な″い″!!」
あまりのショックにわたしは再びカウンターに飛び乗り、お兄さんの襟元を掴んで激しく揺すっていた。
「だだだだだからちゃんと新しいのを用意してきたってててててて」
切れ切れのお兄さんの発言を聞いて、わたしの手がピタリと止まる。
「……へっ? どういうこと?」
「はぁ、はぁ、はぁ、だ、だから、今追加で焼いてきたんだってば。ホラこれ」
そう言いながらお兄さんはポンッとカウンターにあるモノを置いた。
「これがお嬢ちゃんのお探しのモノだよ」
それは簡素な透明ケースにしまわれた一枚のディスク。
いや、何言ってんのこの人?
わたしはその盤面を見て呆れてしまう。
「ちょっとふざけないでよ」
「はっ? いや、別にふざけてないよ。これがお探しのふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのDVDだよ」
「ウソおっしゃい。だって、これ、何にも描かれてないまっさらのディスクじゃない。わたし知ってるのよ。アニメのDVDってのは盤面にも可愛らしいイラストが描いてあるものなんだから」
今日一日回ったお店でわたしはゴマンとそれを見てきた。
もしかしたらディスクの中身が入れ替わっちゃってる、なんてことがあるかもしれないと思ったから、箱を空けて確認したから間違いない。
例外なくどの作品のディスクにも盤面にはその作品のイラストやタイトルが描かれていた。
アニメDVDとはそういうモノなのよ。
もしかして子供だけだからからかわれているのかしら?
きっとそうに違いない。
わたしは毅然とした態度で、抗議の声をあげる。
「あの」
「あー、そうか。ごめん、ごめん。時間がなかったからソッチまでは手が回らなかったよ。追加料金かかるけどやってく?」
けど、お兄さんの態度には全く悪気が無かった。こちらが拍子抜けしてしまうほどに。
言うにことかいて。
「はぁ? そんな事できるワケないでしょ? それ工場とかでやるもんじゃないの? なんでお兄さんがそんな事できるのよ?」
わたしはDVDとお兄さんの顔を交互に見比べる。
そして……ある事実に思い至ってしまう。




