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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第2話

「全裸保安官……」


 オレの話を聞き終えた火野華は、深刻そうに口元に手を添えて、考え込んでいた。


 うん?なんだ?

 まさか、オレの無念さに同情してくれてるのか?

 そんな共感力がお前にあったとは驚きだ。


 それにしても……


 考え込む火野華の横顔を見て、オレは意外に思う。


 コイツもこんな顔するんだな、と。


 いつも笑顔ばかり見てきたせいか違和感しかない。


 だけど、まあ悪くはない。


 窓際に座わらせればどこぞの深窓(しんそう)のお嬢様で通用するかもしれないレベルだ。


 いやいや、でも外ハネの令嬢なんているのか?見た事ないぞ。

 かといってこいつがストレートにしているのも、ちょっと想像つかないしなぁ。


 そんな益体(やくたい)のないことを考えていると、不意に火野華がオレの方を向く。


「たしか銃声がしたのって、ジェイムズがテロ犯を追い詰めた後だよね」

「うん?」


 ジェームズじゃないの、と思ったが問題はそこではない。


 ―――オレは説明の時に登場人物の名前なんて言わなかったはずだが。


「何だ?もしかしてお前も昨日見てたのか?」


「ううん。見てないよ」


 じゃあなんで知ってる?

 コイツは昨日の夜テレビを見ていない。

 なのに見たことがあるような物言い、そうか、そういう事か。


「お前はあのドラマに出演していたんだな」


「ちょ、そ、そんなわけないでしょ。何十年も前の作品だよ?」


 もちろん冗談だ。

 別にあのドラマが昨晩だけの再放送とは限らないだろうから、視聴の機会は他にもあったはず。


「お前はあのドラマを見たことがあるんだな」


「うん。昔にね。でもあのドラマすごく長いから大変だったでしょ。それにあんな中途半端なところで終わるなんて、ちょっとないよね」


 おお、心の友よ!!


 オレはその時ジ○イ○ンのように叫んでいた。心の中で。


 未完で終わった作品に接した時のモヤモヤ感を解消する方法は、ただ一つだけだ。

 それは同じ無念を抱えた者と語りあう事。

 そうしてやりきれない思いをお互いに吐き出すことによって、このモヤモヤ感は笑い話へと昇華(しょうか)する事が出来る。


 火野華よ、学校までの道のりはまだ長い。朝から思う存分語り合おうではないかっ!!


 ちなみにオレの私見ではジェームズは前張りをしていない体当たりの演技だと思うのだが、お前はそこをどう見た!?


 と、一人意気込んでいると。


「シーズン1はね。ほんっと最悪だと思う。あれは他のドラマと比べても

さすがに不親切すぎる終わり方だよ。シーズン2に全部丸投げなんだもん。

それにジェイムズだってまだ前張りしてる頃の保守的な演技だしさ、

はっきり言ってシリーズの中でも群を抜いて最悪な出来だったよ。

あれでよく続編にゴーサインがでたもんだ……………

ってあれ?……どしたの?なんか、すごい悲しそうな顔になってるけど?」


 …………そうか、顔に出てしまってたか。

 ジャ○ア○がなぜいつも暴力を振るうのか、少しだけ気持ちが分かったよ。

 きっとアイツもこんな痛みを、へへっ、抱え込んじまってたんだろうな。


 心の友に一瞬で裏切られたオレは、気力を奮い立たせて何とか言葉を発する。


「へ、へー、あ、あれ続きがあるんだ」


「えっ?うん。そうだよ。たしかシーズン7まで続いてたかな」


「そ、そんなに長いシリーズなのかよ……。じゃあ視るのも大変だったろう。なんせシーズン1だけでも一晩かかったくらいだしな」


「そうだね。確かに長かったなぁ。あ、でも一気にじゃなくて何回かに分けて見たから仁みたいに悲惨な顔にはならなかったけど」


 ニシシと笑われてしまう。


 わ、笑いたければ笑えばいいさ。

 それより今の言いよう……もしかすると……。


 オレはあることに気付き、興奮を抑えながら(なお)も問う。


「へー、そうなんだ。ネット配信なんてもう無いから、あれか、TUT○YAとかで借りて見たのか?」


 終末世界でも、あのTマークの店は健在なのである。


「ううん、違うよ。お父さんのコレクションの中にあったの。

わたしのお父さん外国ドラマのマニアだから」


 その時、予想通りの結論を聞いたオレの反応は早かった。

 多分、人間の限界速度に迫っていたと思われる。


「ならそのコレクションとやらをオレに貸してくれないかっ!! 頼む!! 一生のお願いだっ!!」


 自分でも引くくらいの大きな声だった。それに一生のお願いって……。

 ……オレ、そんなにあのドラマにハマってたんだな。


「え、えっとぉ、その、う、うん。で、でも」


 だが、なぜか火野華は珍しく口ごもって言いよどむ。


 なぜだ? お前はもっとこう、竹を割ったような性格じゃなかったか? なぜはっきりと言ってくれない? そうか、分かった、押しが弱いんだな!!


 オレは火野華の肩をぐわしっ、と掴むと


「頼むっ!! オレあのドラマの続きが気になって……こんな気持ちのままじゃ前に進めないよ!!」

 

 激しく前後に揺さぶってみる。


「わわわわ、ち、ちょっと、タンマ、な、なんかキャラおかしくない!? そ、それに、ち、力にはなってあげたいんだけどさ」


 火野華は待ったをかけると、もじもじしながら申し訳なさそうに言葉を発する。


「……み、見れるかな?」


「大丈夫っ!! だってオレ、ギシンだもん!! 我が家にはなんとDVDデッキが完備されているのだ。何の問題もないっ!!」


「い、いや、DVDじゃなくて」


 一気に雲行きが怪しくなる。


「も、もしかしてBD? まあ源蔵(げんぞう)さんに頼み込めば用意してくれないこともないだろうが……」


 DVDとBDの間には、ギシンといえども中々越えられない壁があるのだ。

 財団の予算の壁とか。

 意外とショボいぞ、ギシン。


 しかし火野華は力なく首をふる。


「そうじゃなくて……」


 ……なんだぁその達観(たっかん)した顔は。

 ま、まさか、お前の、お前の親父さんのコレクションというのは。


「VH」

「ベータなんだよ。仁……」


 よりにもよってそっちかよ!!


 ああ、オレは何度過ちを犯せば気が済むんだ。

 期待した分、絶望の落差が大きくなる。

 昔から、いや、ついさっきもそうだったじゃないか。


 ベータの再生機なんてこのご時世、ツチノコを見つける方が無難(ぶなん)代物(しろもの)だ。いくらギシンとはいえ、失われた遺物を蘇らせることなど、不可能である。


 その時のオレの表情がよっぽど酷かったのか、火野華は慌ててフォローをいれる。


「で、でも続きが今日やるんじゃないかな?」


 またそんな気休めを。


「……本当なのか?」


「う、うん。たぶん、そうだと思う。実は新聞のラテ欄に漢の裸祭り第二夜!! って書いてあって何のことだと思ってたんだけど、今考えるとそれって全裸保安官の事を指してたんだと思う。番組表もスカスカだから見間違いようがないし」


 このご時世、テレビ業界はほとんど慈善事業みたいなものである。だから何も放映していない空白の時間帯の方が多い。火野華がここまで断言するとなると、その信憑性(しんぴょうせい)は限りなく高いと思われる。



 だが問題が一つ。



「それ、何時からだ?」


「えーっと、たしか深夜の一時からだったと思うけど」


 まああんなもの(ジェームズのイチモツ)をゴールデンタイムのお茶の間に流せるわけもなし。


「だとすると、オレは……もう一徹……しなきゃいけないのか……いや、シーズン7までやるとしたら、ヘタすると……今週いっぱい」


 希望と絶望は常にセットで訪れる。オレは急に舞い込んだ希望と、絶望の大きさに目の前が真っ暗になった気がした。


 ああ、なんかいい感じの暗闇。このまま寝れてしまいそう。


「……あのさ、仁。それで納得してもらえたら、そろそろ、その、いいかな?」


「?何がだ?」


「だからさ、その手だよ、そろそろいいかな?」


 火野華は少し顔を逸らしながら、ぶっきらぼうに言い放つ。

 手?手が何だっていうんだい?


 そこでオレはようやく今の状況に気付く。


 あれ、姉さん、これ事件じゃないですか。


 なぜか目の前には着衣を乱した火野華の姿があった。ブレザーはずれ落ち、

 シャツの前がはだけて、肩からはなんか紐らしきものが見えている。


 そしてそんな肌もあらわな女子高生の肩をわし掴みにしながら、身を乗り出す

 徹夜明けの土気色(つちけいろ)の顔した男子学生の図。


 誰がどう見ても事案以外の何物でもない状況。


 ??どうしてこんなことになってしまったんだろう??

 オレはただ、ジェームズの股間の行方が気になっていただけだというのに?

 寝てないから判断力が低下していたのかな?


 まあ、でもお前が悲鳴を上げなかったのは本当に幸いだった。

 サンキュー火野華。


 心の中で感謝の意を表しながら、オレはそっと火野華から離れる。



 ―――直後に、背後から何かが襲いかかって来る気配を感じた。



 な、なんだこの重圧(プレッシャー)はっ!?

 

 慌てて振り返る。


 ドグシャァ!!


 顔面に、何か、固い物が直撃して……オレは、オレは……

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