表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
49/81

第9食

「メイ~、そんなに慌てなくたって、売り切れたりしないから大丈夫だよ~」


 ヨーコちゃんは足取りと同じく、口調までゆったりのんびりしていた。


 ヨーコちゃんは有名人だから変装用のキャップにサングラス、マスクまでしていたけど、おそらくその下の顔は朗らかに微笑んでいるに違いなかった。





 ……冗談じゃないわ




 そんなのんびりしてられないのよっ!! いくらヨーコちゃんだからってそこは譲れない。お願いだからもっと真剣になってっ!!


 わたしは心の中で叫ぶっっ!!


「ヨーコちゃんは知らないのっ!? 昨日のあのローカル放送を見てふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズの素晴らしさに気づいた人がこの街だけで数百万、いえ、もっとたくさんいるのよっ!? 間違いなく今日、この街は激戦区と化しているはずだわっ!!」 


「え、えーっと、そ、そんな人口多かったっけ、ココ? それより前見て歩かないと危な」


「うわあー!!」


「……言ってるそばから転んでる……」


「イテテテ、ひ、ひぃぃぃ!! ひひひ膝からちちち血がっ!!?」


 転んだ拍子に擦りむいたのか、わたしのひざ小僧からは真っ赤な血が吹き出していた。


 ……ああ、血が、血よっ!! 


 その原色そのものの赤を目にした瞬間、目まいがわたしを襲う。



 ……そういえば昨日も鼻血を出したわね……最近出血が多い気がする……もしかしてわたし……このまま毎日なにかしらで血を流して、そのうち出血多量で死ぬんじゃない??



 ……なんて深刻に考えてしまう……ちょっと大げさかな?



「大げさだよ。これくらいなら絆創膏で事足りるって」


 ヨーコちゃんはわたしの思考を読んだのかのような合いの手を入れ、落ち着いた様子でバッグから救急セットを取り出し、かがみ込む。


 なんて準備がいいのかしら、さすがヨーコちゃん!!


「メイなら絶対、何かやらかすと思ったからね。ちょっとしみるよ」


 またもや思考を読まれてしまい、わたしの膝頭に消毒液で湿らせたガーゼが優しくあてがわれる。

 




 確かに宣言通り、消毒液はちょっとだけしみた。


 けど、ヨーコちゃんの手からは、本物のお医者さんでも出せない愛が伝わってきた。痛みなんてその瞬間、吹き飛んでしまう。





 ……こんなこと思うのは、よくないことかもしれないけど……





 転んでラッキー!! わたしはその時、ちょっとだけそう思っていた。



「ホラッ、終わったよ」

 

 気づくと、わたしの膝は、膝頭が隠れるくらい大きな絆創膏に覆われていた。その中央に、見えるか見えないか程度のちっちゃ~な赤い斑点が浮き出ている。



 あ、れ、こんなモノ? ちょ、ちょっとリアクションがオーバーだったかな?




「立てる?」


 ヨーコちゃんに優しい口調でそう問いかけられる。




 もちろん、わたしの答えは決まっている。




「ううん、ムリ!!」


 そうして大好きなお姉ちゃんの腕にしがみつく!!


「……やれやれ、まったくしょうのない妹だ」


 ヨーコちゃんは口ではそう言って呆れてたけど、本心は違うことがわたしには分かってしまう。

 

 だって掴みやすいように、肘を曲げてくれたから。


「ありがとうヨーコちゃん。ふぁぼ♥」


「えっ? なぁに?」


「なんでもないよっ♥ それより早くいかなきゃ売り切れちゃうって!!」


「はいはい。大丈夫だからちょっと落ち着こうね。そんなんじゃ次の検診の時に、また血圧高いって言われちゃうよ?」


「血圧くらい別にいーもん」



 ヨーコちゃんは、さっきまでわたしが受けていた検診の話を持ち出してきた。


 どこも体が悪くないのに、ヨーコちゃんと一緒に暮らす条件として、わたしは週に一度、お医者さんの検診を受けなきゃいけないことになっていた。


 きっとギシン同士がいっしょに暮らすことで、わたしの体に何か変化が起きてないかを調べているのだと思う。


 もちろんその一番の関心は≪神威≫に目覚めたか、どうか、だと思うけど……


 検査中は服を脱がされたり、たまに棒を突っ込まれたりして、顔をしかめちゃうこともある。けど、お医者さんはヨボヨボのおじいちゃんだから気も使わないし、ヨーコちゃんとの楽しい毎日を過ごすためならこの程度の検査、別に苦でもなんでもなかった。




 ―――あの施設での生活に比べたら、ホントに笑っちゃうくらいの緩さだし。




 それに、いつもは厳しいだけが取り柄のセツコさんが付き添いだけど、今日はオフのヨーコちゃんが付き添ってくれている。



 それだけでも超絶ラッキーなのに、さらに今日はもっともっと嬉しいイベントが待っている。


 ヨーコちゃんは朝、わたしに約束してくれたのだっ!!




「最近あまりかまってあげれなかったから、今日の帰りになんでも欲しい物をプレゼントしてあげるよ」



 そう聞かれたわたしの答えはもちろん決まっていた。決まりきっていた。



「なら、ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのDVD全巻セットを買って!!」



 さっきお医者さんが「血圧高い」って驚いていたのは、わたしの心が高ぶりまくって、心臓がドキドキしすぎていたせいなのかもしれない、ううん、そうに決まってる。



「ねぇ、買い物終わったら観覧車乗ろうねっ!!」


「ああ、もちろんいいよ」


 

 この胸の高鳴りがずっとずっと続くと、この時のわたしは信じて疑わなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 けど




 そんな興奮は長くは続かなかった。



 だって




「ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのDVD? そんなモン置いてあるわけないだろ。冷やかしなら帰ってくれ」







「…………へっ?」






 駅を出て少し歩いたところにあるホテルの中、ヨーコちゃんと訪れた中古アニメショップで、禿げ上がったコワモテの店員にわたしはそう告げられていた。



「そんなモン? いや、だから出してよ。あるでしょ?ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズのDVD、わたし知ってるんだから」


「何を知ってるのか知らねぇがよぉ、ねぇモンはねぇんだよ」


「も、もしかして売り切れちゃったとか?」


「知らねぇよ、とにかくねぇモンはねぇんだ。いい加減分かれよ」


 接客をお仕事にしてるとは到底思えないほど、乱暴な言葉遣い&適当な応対の店員だった。し、信じらない、いろんな意味で。


「な、なんで? だってふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズよ? あんなに面白くて、可愛くって、尊くて、素晴らしい作品を置いてないなんて、そんなことあるわけないじゃない!! この店、おかしいんじゃないの!?」


「あぁん!? 今、何つったよ!? オレの店をバカにしてんのか!? このガキッ!?」


 店員が顔を真っ赤にして睨みつけてきた。けど、恐怖なんて感じなかった。むしろふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズを置いてない致命的にセンスのないこの店と、ゆでタコみたいな顔の店員さんを、わたしはその時、憐れんですらいた。



「メイ、無いならしょうがないよ。あまり店員さんを困らせないで」


 ヨーコちゃんに肩を叩かれたので、わたしはしぶしぶと退散することにする。


 けど、だんだんと腹が立ってきて、最後に文句の一つでも言ってやろうと思い、出口付近でガバッと後ろを振り返る。


「あ、あれ?」


だけど不思議なことに、あのコワモテの店員さんはすでに奥に引っ込んでしまったのか、その姿はどこにも見当たらなかった。




~~~~~~~~~~~~~~

 


「ねぇヨーコちゃん、ホントにさっきのお店が横浜一の品ぞろえのお店なのっ?? 全っ然、信じらんないんだけど!?」


 わたしはジト目になって、ヨーコちゃんに疑いの眼差しを向ける。


「う、う~ん、一応、アニメ好きの知り合いに聞いてみたんだけどなぁ? まぁ、他にも数件あるみたいだから、そっちを見て回ろうか?」


「モチロンよ!! ぜったいに聖典をこの手にして帰るんだからっ!!!」


「せ、聖典??」


 わたしの発言に疑問符を浮かべているヨーコちゃんを置いて、わたしはずんずん進む。









 ……さっき、ヨーコちゃんがもうちょっと早く歩いてくれてれば、もしかしたらあったかもしれない……



 



 そんなイヤな考えが、ちょっとだけ頭をよぎってしまっていた。



 ヨーコちゃんは、わたしのために買い物に付き合ってくれているのに……



 だからヨーコちゃんと距離を取って落ち着かなきゃいけない、そう思った。



 けれど



「メイッ!!」


 ヨーコちゃんは慌てた様子で追いすがってきて、わたしの腕を掴んでくる。


 

 もう、せっかく人が落ち着こうとしているのに、何なのよ?



 思わず声を荒げそうになってしまった瞬間、



「そっちじゃなくて、こっちだよ」


「あっ」


 ヨーコちゃんが指さす先は、わたしの進路とは真逆の方向だった。




 その時、わたしは、自分が道理も道順も知らない子供だという事を、改めて痛感させられていた。




「……ごめん、ヨーコちゃん」


「なにが? さっ、はぐれないように手を繋いで行こうか」


 ヨーコちゃんは気を悪くした様子もなく、わたしの手を取り、優しく握ってくれた。



 …………ありがとう、ヨーコちゃん



 お礼は恥ずかしくて口には出して言えそうになかったから、ギュッと握り返して、わたしの気持ちを伝えてみる。

 


 伝わったかな?


 

 ギュッ



 あっ、今、ヨーコちゃんも


 

 横を見上げるとヨーコちゃんがわたしを見つめていた。


 サングラスとマスクに遮られて見えなかったけど、わたしには分かった。


 いつものカッコかわいいヨーコちゃんの笑顔が、わたしの一番大好きな笑顔が、そこにある事を。



~~~~~~~~~~~~~~~~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ