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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第6食

「はぁ……つかれた……」


 家の明かりが見えた途端、張っていた緊張がほどけて、私の中に蓄積していた疲労が一斉に自己主張を始めた。

 

 気を抜いた途端これだ……


 前はこんなことなかったのに、まったく、足取りが一気に5割増しくらいに重くなったよ。

 

 私は足を引きずるようにレンガが敷き詰められたアプローチを進み、数分かけてようやく玄関前までたどり着く。

 


 洋風のこじゃれた館にはドアノッカー以外は認められない、メイのそんなこだわりのおかげで、ウチにはインターホンは備えつけられてはいなかった。



 ちょっと不便ではあるけど、まぁ、仕方がない。


 なんせウチのお姫様は、この異国情緒あふれる館をたいそう気に入ってらっしゃるのだから。



 ここに住むと決まった時のメイのはしゃぎっぷりといったらまぁ。



 当時のことを思い返して、思わず笑ってしまう。



 あの笑顔と引き換えだったら、大抵の事はガマンできる。



 私は一番大切なものを頭の中で思い浮かべながら、気力を振り絞ってドアノッカーを握りしめる。






 ガチャ




「お帰りなさいませヨーコ様」


「ああ……セツコさん。ありがとう」


 まさに天の助けとはこの事だ。


 重い玄関扉を押し開けてくれたセツコさんを見て、私は素直にそう思っていた。

 


 それにしてもなんてベストなタイミングなんだろう。



 まるで図ったみたいだ。



 もしかしたらセツコさんは武道の達人で、数メートル離れた人の気配が分かるのかな、なんて思ったけど、もちろんそんな事はない。





 いやしくもここはギシンが二人も住む邸宅だ。

 見た目は古風でも、監視の目はそこかしこに設置されているに決まってる。


 そしてそれは、私たちには決して気づかれないように巧妙に隠されているに違いない。

 なんせ感情を暴走させたギシンは、神威を暴発させてしまう恐れがあるのだから。



 万が一この街で私の神威が暴発したとしたら…………それは、あまり想像はしたくない事態だ。


 

 だから、そういった監視カメラが設置されているのは、必要悪ともいえる。



 ……けど、監視される立場の人間が、それを全て許容できるかは、また別問題だけれどね。



「もしかして映ってたのかな?」

 

 少し意地悪くそう尋ねてみる。すると、


「いえ、そうではありません。一時間ほど前にヨーコ様がご帰宅されると連絡がありましたのでここでお待ち申し上げておりました」


 予想外な答えが返ってきた。


「あーそうなんだ? …………って待ってたって、もしかして一時間ずっとそこで待ってたわけじゃないよね?」


「?もちろんそうですが?」


 どこまで本気なんだろう? セツコさんはいつも真顔だから冗談なのか本気なのか、判別がつきづらいところがある。

 

 私はこの時疲れていたから、素直に冗談として受け止めておくことにした。


「あはは、ありがとう。じゃあ待機手当を弾んでおくよう財団には伝えておくよ。ともかくお出迎えありがとう。もうクタクタだよ」


「お疲れさまで御座います。お夜食の用意をすぐにいたしましょうか? それとも先にお風呂になされますか?」


 もちろんそれとも私を……なんて冗談はさすがに言ってこない。

 いや、言われても困るだけなんだけどさ。


「メイは……さすがにもう寝てるか」


 日付はすでに変わっている。神威を放ってから数時間はロクに歩けやしないから仕方がないとはいえ、ちょっと寂しいな。


「いえ、まだ起きてらっしゃいます」


「そうだよね。さすがにこの時間じゃ……って……え? 今、なんて?」


「先ほどお部屋にお伺いしたところ、まだ起きてテレビをご覧になっていました」


「こんな時間までテレビ!!? まったくしょうのない子なんだから……」


 夜更かしの次元を超えて遊びほうけている妹に、私は少しばかり憤慨する。



 けど、頬は緩んでいた。

 だってメイに会えることは、私にとって喜び以外の何物でもないのだから。


「なら、ちょっとお姉さんとしての責務を果たしてこようかな。食事はその後にするよ」


「……かしこまりました。では後ほどリビングまでお越し下さい」


 準備があるのかセツコさんは身を翻してそそくさと立ち去ろうとする。




 この家は洋風だけど、我が家のルールで玄関先で靴を脱ぐ決まりになっている。

 

 郷に入れば郷に従え、だ。


 それに、きっと後々掃除が大変になるだろうしね。




「よっこいしょっと」


 おじさんみたいな掛け声を出しながら、ブーツを脱ぐためにかがみ込む。


 そしてバックルに手をかけたところで「ヨーコ様」とおもむろに声をかけられる。


 …………まだいたんだ?


「なーに?」


 顔を向けずにそのまま返答する。





「ヨーコ様」





 再度、呼びかけられる。


 聞こえなかったのかな?


「どしたの?」


 今度はちゃんと顔を向けて応対する。


 その時のセツコさんの顔は、いつも通りの真顔だった。



 ……けど、なぜだろう? 心なし普段と何かが違うような気がした。



「一つだけ……ご忠告申し上げておきます」



 セツコさんの表情は相変わらず変わらない。


 そしてそのまま抑揚も変えずに、私に向かって、こう告げた。






「どうかヨーコ様のお力で、メイ様がこれ以上ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズに夢中になられないようにしてくださいませ。あの作品は……悲しみしか残しません」



 







 ふぁぼ……何?







 言っている意味がよく分からず、私はセツコさんの顔を思わず見返す。





 その感情の乏しそうな表情からは、やっぱり彼女が冗談を言っているのか、それとも本気でそう言っているのか、とても判別できそうにはなかった。

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