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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第5食

 

「………ヨーコちゃん、ヤベェェェェ!!」



 全てを飲み込んでいった消滅波を安全圏(鼻先ほんの数メートル)の距離から眺めていた僕は、ブルりながら本来の顔に戻って、そう叫んでいた。



 …………その時の僕の下半身は、心なしかちょっと湿っていた。



 ヤ、ヤベェェェェ!! か、替えのヤツ持ってきてたかな?



「…………ってんなことより今はこっちだ!!(セルフノリツッコミ)日本から数千キロ離れてんのに、この範囲、ケタ外れじゃんかよ!? ホントにヤベェよ!! しばらく見ないうちにあの落ちこぼれのヨーコちゃんが、まさかここまでマッチングしてるなんて……」



 安全圏に建っていた★5ランクのウルレアホテル(鉄骨むき出しちょっぴり傾きかけ)から、消滅波が作り出した巨大クレーターを恐る恐る覗き込む。



 地球の裏側まで貫通してるんじゃないか、ってくらいの真っ暗な闇がそこに広がっていた。なぁーんにも残されていない。



 すごく、濃密な力を込めて神威(笑)が放たれたことがよく分かる。



「……はぁ、しっかしひっでぇ話だよなぁ。これだけのジェノサイドやらかしといてヨーコちゃん、全くお咎め無しなんだから。むしろ、≪救世の乙女≫なんて言われて、また株が爆上がりしちゃうんだからなぁ。あ~あ、ホント、まじめに暮らしてくのがバカらしくなるわ……」




 見目麗しい伊達風のヨーコちゃんは、はっきりいって財団のていのいい広告塔にされていた。



 そして財団の必死のプロパガンダにより、今回の消滅波も≪終末獣≫の攻撃のせいにされ、ヨーコちゃんはその脅威から世界を救った英雄へと祭り上げられるわけだ。




 世界を滅ぼす獣ですら人気取りの道具にしちゃうんだから、全く……人間の方がよっぽどおっかねーわ。



 それに財団の庇護があるから本人には絶対に事実が伝わらないんと来たもんだ。合掌…………


 

 僕は手を合わせて有象無象の魂たちに祈りをささげる。




 

 その時、ふと、気づいた。



 




 


 


 ヨーコちゃんの性格はもちろん覚えている。クソ真面目。



 

 ちょっとしたズルも絶対に見逃してくれなかったし、自分もそれをしなかった。



  



 もし、この大参事を知っていたら、罪の意識に押しつぶされて、きっとおかしくなってしまうだろう。





 だからヨーコちゃんは消滅破がもたらす被害について全く知らない、その威力に気づいてない。








 


 


 けど、本当にそうだろうか?





 

 僕は今更ながら、それがおかしいことに気づいてしまった。







 だって、凡百の使い手ならともかく、ヨーコちゃんクラスともなれば、自分の能力について、大体把握できてるはずだ。




 自らの力の特性を掴んだ者だけが先に進めるようになっている、僕たちに与えられたこの力は、そういうルールになっている。







 だから、こんな大穴を穿つほどの力を手に入れたヨーコちゃんが、自分の力の本質に気づいていないなどということは、逆説的に考えてありえないことなのだ。





 ……つまり、結論として、ヨーコちゃんはおそらく感づいている。




 自分の神威の威力がトンデモないことになっていることを。




 そして、その力がもたらしている二次被害についても、おぼろげながら理解している。





 それでも相も変わらず、ニコニコ顔で財団のお飾り人形をしているとしたら?




 罪の意識に耐えながらも、何かを守るために弓引いているのだとしたら?





 それは、








 ……それは覚悟を決めた者の態度だ。







 ……僕と同じように。






 ゾクゾクッ






 だとしたら……アイツ、ヤバいな。





 いや、ヤバいんじゃない、








 厄介だな。






 そういうヤツは―――ちょっといてもらっちゃ―――困る。







 僕の計画の障害になる。






「……でも、まぁ、なんとなく弱点も分かったわ。これだけの広範囲の転送、たぶん、僕と同じだわ。全MP使い切っちゃう系のヤツだわ、コレ。うん、間違いない」




 自分に言い聞かせるように、口に出してみる。


 そうだ、ぜってぇーそうだ。間違いないってばよ。




 とびぬけて強い神威なんて、ない。


 ただ、個性や特質によって、発露する形態が違うに過ぎないのだ。



 ヨーコちゃんは威力と引き換えに、MP消費が尋常じゃなくなっているはず。



「……だったら多分、今頃ヨーコちゃんガス欠だろうな。数日は二の矢は放てないはず…………するってぇと、コイツは…………ちゃぁーんすじゃねぇか!!」

 


 僕はおもむろに空に向かって拳を突き上げる。


 

 その時袖がめくれて現れた僕の左腕は、肘から先が欠損していた。



 けど、別に気にはしない。



 もう見慣れた。




 それに、むしろ誇らしい。




 だって、これは勲章なんだから。


 

 ()()()()()()()()()()()、僕は人類絶滅のお手伝いができるのだから。




「まずはヨーコ!! テメェだ!! テメェをぶち殺すっ!! そんでもって他のギシンどもも次々に皆殺しにして、人類をこの手で速やかに絶滅させてやるぜぇぇぇぇ!!!」




 決意を胸に僕は声高らかに宣言する。


 生命の途絶えた巨大なクレーターにその声は吸い込まれていき、濃密な闇が、さらに濃くなったように僕には感じられた。














 ……………………









 あれ? でも……な~~~んか忘れてるような気がする?





 えーと、なんだっけ??





 



 

 あっ、そうだ、そういえば……ヨーコちゃんの隣には……常に誰か他のギシンが居たような気が……???







 うーーーん? ううぅぅぅぅーーーん? うぅぅぅううううん??











 んなヤツいたっけ?







 ヤベェ、全く思い出せねぇ、若年痴ほうの兆しか? コレ?




 

 全脳力を総動員して、記憶のヒダをかき分けていくが、それでもその謎のギシンの正体は最後の最後まで思い出せなかった。











 「……………………………ま、いっか♪」




 これだけ考えても出てこないってことは、きっとどうでもいいヤツに違いない。



 たぶん、記憶する価値すらないほどの、ゴミみたいな存在だったんだろう。





 まぁ、12人もいりゃ、そういうミソっかすが生まれても、仕方ない。


 なんせ、六つ子にだって優劣がついちゃう時代なんだから。




 僕はいい加減疲れてきた腕を下すと、そう気楽に考え、一人ニカカと笑った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 「くしゅん! くしゅん!」



 あぁー、もう何よ?


 いきなり二回もくしゃみだなんて、誰かわたしのウワサでもしてるの?



 鼻血はもうとっくに止まっていたけれど、今度は別の液体がわたしの鼻からコンニチワしていた。





 だけど、それを迷うことなく袖口で拭きとる!!




 ……だって、ティッシュを取りに行く時間が、惜しいんだもの。


 

 それよりもメイちゃんが放つ、華麗なる必殺技を見届ける方が重要だわっ!!!





『ふぁぼ♥ふぁぼ♥イレイザ―!!!』





 あぁぁーーーキタわぁ~~~~!! もう素敵で最強!! もう何回巻き戻して見たか分からないっ!!



 褒め合う気持ちが最高まで高まった瞬間にのみ放てる、全てを消し去るメイちゃんの得意魔法っ!!



 そう、汚れきった悪意は、もう褒める言葉だけじゃどうにもできないの。




 完全に消去するしかないのよっ!! 



 そんな当たり前で大事なことを、このふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズからわたしは教えてもらえた。



 本当になんてすばらしい作品なのかしらっ!!



 はやくヨーコちゃんにも教えてあげなきゃ!!



「んふふ、んふふ、んふふふふ♥」



 きっとヨーコちゃんは喜ぶに違いない!! 


 そして、その時いつもようにカッコかわいく微笑むだろう。


 その笑顔を想像して、わたしの胸はかつてないほどに高鳴る。





 笑みが止まらない。




 はやく帰っておいでヨーコちゃん!!! そしていっしょにふぁぼ♥ろうねっ!!!

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