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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第3食

 ドタドタドタドタドタ



「うん?」



 バタンッ!!



「セツコさんっ!! お願いっ!! 今すぐT○UT○Y○に行ってふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズを全巻借りてきてっ!!!」



「は、はぁ? メイ様いきなり何を……!!? そ、そのお顔は!!? まさか血ですかっ!!?」



「えっ、ああ、うん、ちょっと鼻血を出しちゃって。って、そんなことよりも!! 早くふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズを借りてきてってばっ!!!」



「そんなことではありません。まずは血を拭いて止血いたしませんと」


 

 セツコさんはテキパキとした手際で、まずわたしの顔を拭いて綺麗にしてくれた。

 そしてティッシュで小さくこよりをつくり、それでわたしの鼻の穴をふさぐ。



「少しこれで様子をみましょう。横になってお待ち下さい。お召し物が汚れていますから、替えのものを持って参ります」



「そんなの後でいいから早く借りてきてよっ!! わたし続きがはやく見たいのっ!!」



「…………ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズ、ですか? そんなモノT○T○Y○に置いてありますでしょうか?」



「あるに決まってるよっ!! だってあんなに面白くて、素敵で、愛にあふれた尊い作品が置いてないなんて、そんなワケないものっ!!」



「…………まったく論理的ではないですね。一体何があったのですか?…………テレビでやっていた? あんな悪趣…………いえ、なんでもありません。それで続きが気になると? そうですか。ですが、いくら探してもムダだと思います。あと、これはすでにご承知のことだと思いますが、念のため再度申し上げておきます」

 


 そう言うとセツコさんは眼鏡をクイッと持ち上げ、わたしに向かって告げる。



「わたしはギシンであられるヨーコ様付きのメイドです。ヨーコ様よりメイ様の身の回りのお世話をするよう申し付けられておりますが、契約内容はそこまでです。あなたの命令を聞く道理は、私にはございません」



 眼鏡の奥の瞳が、はっきりとした拒絶の意思をわたしに伝えていた。


 興奮してすっかり忘れていたけど、そうだった。







 セツコさんは出会った時から、わたしに優しくなかった。






「……じゃあいいよ。わたしが借りに行くから」



「残念ですが、通学以外の不必要な外出も控えさせるよう厳命されております。それに何より」



 セツコさんはトドメとばかりに告げる。



「未成年のメイ様だけでは、会員証は作れないかと存じます」




 むっかぁーーーー!!




「ならもういいよっ!! さっきのヤツ録画しておいたからそれをまた見るもんっ!!」



 このまま話していたらまた鼻血が吹き出しそうだったので、わたしはもうセツコさんとは目を合わせないで自分の部屋へ戻ることにした。



「……お着替えはどうなさいます?」



「部屋で着替えるっ!!」



「そうですか。では後ほどお部屋の方へお持ちいたします。それで今晩のお夕飯は何がよろしいでしょうか?」




 あんなヒドイ言い方した後で、よくそんな風に聞けるわね。ホンっとよくできたメイドさんっ!!






 ……ちょっと意地悪してやる。





「タケノコの山」



「?なんですか?」



「だからタケノコの山だってば。知ってるでしょ、あのチョコビスケットのヤツ。夕飯はあれがいい」



「ご冗談を。あんなもの食事にはなりませんよ」



「でもっ!! どうしてもあれが食べたいんだもん!! アレがなきゃわたし、部屋から出てこないから! ごはんもずっとずっと食べないからね!!」




 セツコさんはプロだからため息一つつかないけど、内心はきっと怒っているに違いない。


 …………それとも呆れているかな。



「…………分かりました。買って参ります。ですが、あれだけでは栄養が偏ってしまいます。食後のデザートということでいかがでしょうか?」


 

 セツコさんはそれが仕事だとしても、一応わたしの体を気遣ってはくれている。


 さすがにこれ以上、かたくなな態度は取りづらい。



「……じゃあ、それでいいよ」



「ありがとうございます。―――あと、お伝え忘れておりましたが、ヨーコ様より食後のデザートは一品だけと厳命されております。ですので本日予定していた特性プティングは取りやめて、代わりにタケノコの山をデザートとしてお出しさせて頂きますね」






 えっ?





 ウ、ウソ、ちょ、ちょっと待って。あのとろける舌触りと濃厚なカラメルが絶品の特性プティングが無くなっちゃって、その代わりに、あのちょっと安っぽいチョコがウリのタケノコの山になっちゃうの?



 ど、どう考えても損じゃない。



「ちょ、ちょっとまってセツコさ」



「あと、これは先に申し上げておきますが」



 セツコさんは何の感情も浮かべていない無表情で、わたしに事務的に告げる。



「一粒で一品換算です。差し上げるタケノコの山は一粒だけですからね」



 


 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ




 わたしは、大皿にちょこんと乗せられた小さなタケノコを思い描き、その余りのシュールさに…………ただただ絶望していた。



 無表情で気づかなかったけど、



 やっぱりセツコさんは怒ってなどいなかった。







 メチャメチャ怒っていたのだっ!!




 


 だけどここまで徹底的にやり込めてくるなんて……



 ちょっと大人げなさすぎだよぉ…………



 ぐすん



 わたしは気づかれないように、そっと袖で目元を拭う。


 まるで血の涙を流した後みたいに、その袖口は真っ赤に汚れていた。


~~~~~~~~~~~~~~~



「ヨーコ様、そろそろお時間です」



 いつの間に横に立たれたのか、全く気付かなかった。


 それだけ集中できてたってことだ。うん、いい傾向かな。




「分かった。行こうか」



 私は立ち上がり、手になじんだ和弓を握りしめ、呼びに来た財団員の後に続く。



 今日、この地より、私は世界を救うための一射を放つ。



 外すことは絶対に許されない、極限の一射。



 だけど何の心配もしていない。何度も何度もシミュレーションしたし、こちらには()()()()()()()()()



 「さあ、それじゃ今日も化け物退治と洒落込もうか」

 


 軽快な足取りで、私は私の戦場へと向かう。

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