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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第3章 魔法少女になれた日 〜死村 メイ〜
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第1食

第3章開幕。

やっと辿りついた最も描きたかったエピソードになります。

視点人物は死村メイ、ちょっと精神年齢が幼い女の子です。

そして時系列的には3章→1章→2章となっております。

彼女の活躍を、ぜひ最後までご覧になってみてくださいm(__)m

 ある夜、わたしは夢を見た。 


 その夢の中でわたしは、生まれる前のひな鳥になっていた。


 そして外に出るため、

 殻に向かって一生懸命、嘴打ち(はしうち)をしている最中だった。




 コツコツ、って。



 でも、殻は固くて、ちょっとやそっとじゃヒビが入る様子はなさそう。



 そこで、ひな鳥のわたしは、ちょっとだけ力を強めてみることにした。




 コツコツ、コツコツ




 そうしてしばらくつついてみる。



 コツコツ、コツコツ、コツコツ




 ……なんだか首が疲れてきちゃった。


 

 うーん、生まれるのって案外タイヘンなのね。



 コツコツ、コツコツ、コツコツ、コツコツ、コツコツ、コツコツ



 ずぅーっとそうやってつついている内に、わたしはある違和感を覚える。



 

 なにか、ヘンね?


 なんだろう? 手ごたえがない?


 いくらつついてみても、前に進んでる気がしないのだけれど。


 鳥さんって生まれた瞬間から、こんなムリゲーなの…………?

 

 



 って、よく見ると、ヒビどころか傷一つついてないじゃない!?



 



 わたしはその時、ちょっとだけイヤな予感がした。

 


 だけど、それには気づかないフリをする。




 ……もうちょっと、力をこめてみましょう。あと、ペースも早めて。




 正直、これ以上長引くと、もう、持ちそうもなかった。


 気力も体力も。




 だから、わたしは全身全霊の力を込めて、クチバシを殻に叩きつけていく。


 生まれるために、必死で。


 コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ




 早さも勢いもさっきの倍くらい、一気に殻を砕きにかかる。



 ラストスパートよ。




 コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ





 すると、






 ガッ!!














 嫌な音がした。



 見るとわたしのクチバシの、先端部分が変な角度に曲がっていた。



 まだ育ちきっていなかったのか、柔らかいクチバシは激しい嘴打ちの衝撃に耐え切れず、醜くゆがんでしまったようだ。





 イタイ




 舌かんだ時の何倍もイタかった。




 ……けど、わたしのやることは変わらなかった。




 引き続き曲がったクチバシで、殻をつついていく。




 ガッ、ガッ、ガッ




 一心不乱にガッ、ガッ、ガッ






 すると今度は、








 バキッ!





 今度は、クチバシが根元から折れてしまった。




 顔じゅうに激痛が走る。





 もう、泣きそう。




 実際、目にはたぶん涙が浮かんでいたと思う。





 でも、それでも……




 …………それでもやることは変わらなかった。






 クチバシが折れてしまったから、仕方ない。

 わたしは今度は頭を直接殻にぶつけてみることにした。





 ゴンッ!





 …………星が飛んだ。…………あと、血もちょっとだけ飛んだ。





 でも、それでも、やることは変わらない。




 だって、






 だって、殻から出れなかったら、どのみちわたしは……







 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!





 わたしは狂ったように、何度も何度も頭を殻に打ちつける。



 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!



 それでも――――やっぱり殻は固くて、いつしかわたしは頭突きもできなくなってしまう。




 だって、血まみれのやわらかい頭からは、脳も少し飛び出してきて……




 ピク、ピク、ピク、ピク




 もう、どうしようもなくなってしまったから。







 ―――嘴打ち中に力尽きたひな鳥は、そのまま殻の中で朽ちていく。 




 さきほどの悪い予感は的中してしまった。




 きっと、わたしはそういう運命だったんだろう。



 その状況をわたしは、すんなりと受け入れることができた。



 だって、これはしょせん夢なんだし。


 それに、こんな状況、別に珍しくも何ともないもの。


 こんな境遇、世界中の、きっとどこにだって転がってるもの。





 それに何より――――





 現実のわたしの人生だって、このひな鳥と似たようなものなんだから―――



~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……メイ、メイ、そろそろ起きな」


 体を揺さぶられる感覚に、わたしはゆっくりと覚醒していく。


 まず視界に飛び込んできたのはベッドの天蓋。そしてその横には



「おはよう」



 大好きなお姉ちゃんの顔があった。



「…………ヨーコちゃん、おはよふわぁぁ」


 おはようの途中にあくびが漏れてしまった。

 あわてて口をふさぐわたしを見て、ヨーコちゃんは目を細めて笑う。


「ふふっ」 


 とっても優し気な微笑み。


 整った、クールでカッコいい顔立ちが、その時だけは、くしゃってなるの。


 わたしはこの瞬間のヨーコちゃんの表情が一番大好き。


 カッコかわいいって言葉があったら、きっとそれは今のヨーコちゃんのためにある言葉だと思う。


 今日も朝からとってもカッコかわいいよ、ヨーコちゃん♡


「食事の用意はできてるみたいだけど、どうする?」


 きっとわざわざ誘いに来てくれたんだ。少しでも長く一緒にいれるように。


 もちろん、わたしの答えは決まってる。


「一緒に食べたい。ちょっと待ってて」


 急いで起き上がる。その時、チラリと枕元の時計が視界の端に映った。





 ……えぇっ!? と、時計、壊れてるのかな?



「ふふっ、合ってるよ。メイが寝坊助なだけ」




 カァッー




 ほっぺが熱くなる。



「……ねぼすけ、じゃないもん……」


 そんな、言い訳にもなっていない言い訳をすることくらいしかできなかった。






 時計の針は10時を指し示していた。





 何もしていないのに、こんなに長く寝てしまった。

 照れと同時に、罪悪感がわたしをさいなむ。



 何もしてないのに何もできないのに役立たずなのに



 ぐっと唇をかみしめる。最悪な寝覚めになってしまった。



 だけど



 ぽふっ


「……行こっか」


 ヨーコちゃんが優しく頭を撫でてくれる。

 それだけでわたしを包んでいたモヤモヤは一瞬で吹き飛んでしまった。


 わたしが何をして欲しいか、ヨーコちゃんはすぐに分かってくれる。


 本当に凄いお姉ちゃん。



 ありがとう、大好きだよ。





 ……そして、いつもごめんね。





 こうしてわたし、死村メイの、史上最も役立たずのギシンの朝は、いつものように自己嫌悪と謝罪から幕を開けるのであった。




~~~~~~~~~~~~~~



 食事を終えたヨーコちゃんは、食後のお茶を飲むこともなく急いで出かけてしまった。


 ……きっとやる事がたくさんあるんだろう。


 でも仕方ないよ。ヨーコちゃんの活躍を世界中のみんなが待ち望んでいるんだから。


 わたしはベッドに身を投げ出すと、いつものように天蓋を見上げてボケーっとする。 


 ……鳥じゃなくて、牛になっちゃいそう。


「仕方がないよ。ヨーコちゃんはすごいギシンなんだもの……」


 自分に言い聞かせるように、そう口に出してみる。


「ヨーコちゃんは世界一すごいギシンなんだもの……」


 ……もちろんお兄ちゃんの前では絶対にこんなこと言えない。

 ばれたらきっとお尻ペンペンされちゃうだろうから。ひどいお兄ちゃん。



 でも、わたしは前からそう思ってた。


 ずっとずっと思ってた。





 ……………………




 わたしはガバっと起き上がると、ベッドの上で大好きなヨーコちゃんになりきってみることにした。



「やあやあ我こそは音に聞こえた弓の名手、死村ヨーコなるぞ! そこな終末獣よ覚悟いたせい」



 って、こんなこと言わないかな? でもヨーコちゃんいつもクールで武士っぽい雰囲気だし、別におかしくないよね?


 そう考えた途端、ヨーコちゃんがいつもしているポニテが、なんだかちょんまげに思えてきてちょっぴりおかしかった。


 そしてヨーコちゃんがいつも戦う時にそうするように、弓を構えて矢をつがえるポーズをしてみる。




 そうすると、神威の力で目には見えないけど、ものすごい力を秘めた虚無の矢が現れるの。




 わたしは息を吸いながら、ゆっくりと弓を引き絞っていく。




 ギリギリ、ギリギリ




 ふぅ



 一呼吸。




 そして、もうこれ以上引き絞れないくらいまで弓を引き絞り―――






 ハッ!!



 息を吐くと同時に、一気に矢を放つ。





 放たれた矢はぐんぐんとターゲットの≪終末獣≫に迫っていき、そして





  バシュゥーーン!!



 

 直撃と同時にこの世から完全にその存在を消滅させてしまう。



 やった!! さっすがヨーコちゃんの神威!! すごいすごいっ!!



 わたしはベッドの上で飛び跳ねて喜ぶ。


 どんなにつよくったって、ヨーコちゃんの消撃弓をその身に受けたらぜったいに逃げられない、助からない。だって直撃の瞬間,消滅破がばぁーんって広がるんだから!


 それにとっーーても遠くまで届くから、今いる横浜のお家からでも世界中のみんなを助けることができるの!!



 やっぱりどう考えても世界一すごい。

 わたしの自慢のお姉ちゃん。


 お兄ちゃんよりもヨーコちゃんがやっぱり一番だっ!!


 わたしはうれしくなって、大きくジャンプしてそのままベッドに倒れこむ。




 そして足をバタバタ、バタバタさせる。




 しばらくそうしていたが













 ……………………






 はぁ。



 あまり、もたなかった。



 



 世界を救うカッコいいギシンのヨーコちゃん。


 それに引き換え、わたしは何なんだろう。


 ヨーコちゃんの活躍に引き換え、わたしは何の役にたっているんだろう。


 一人でいると、いつもそんなことを考えてしまうの。



 答えは分かりきってる。



 だけど、認めたくない。




 だってわたしは、





 何の役にも立っていないギシンなのだから。





 ただのお荷物にしか過ぎない。




 むしろ、わたしの身の回りの世話をするのにヨーコちゃんの時間が割かれているのだから、世界にとってはマイナスですらある。





 でも、どうしたらいいのよ? 役に立ちようがないじゃない。




 だって、わたしは、死村メイは








 まだ神威に目覚めていないんだから。



 何の力もない、変哲のないただの女子中学生、それがわたしの正体。



 ……わたし以外のみんなは、とぉぉっくに力に目覚めて各地で活躍している。




 中には13歳のわたしよりもちっちゃい子だっている。



 ふつうのギシンなら10歳ころまでに、力の特性を理解して行使することが出来るようになるらしいんだけど、わたしにはまだその予兆すら訪れてない。


 ヨーコちゃんは焦ることないって言ってくれるけど……きっとわたしの気持ちは分からないよ。





 ……ヨーコちゃんみたいに活躍してる人には……











 ……って、ああ、ダメダメダメ、こんなのダメっ!!





 わたし、今、とっても嫌な子になってた。





 そのまま考え続けると、すぐにまた自己嫌悪に陥りそうだったので、わたしは急いで立ち上がる。



 何かしてなきゃ気が滅入っちゃうだけだわ。


 そう、ね、音楽でも聞きましょう。


 こんな時は明るい行進曲を聞けば、少しは気分も晴れるはず。


 そう思い、レコード台のところまで行こうとした瞬間、












『……メイちゃん』










 誰かに呼ばれた。




「えっ? 誰?」


 慌てて周囲を見渡す。


 だが、誰もいない。


 いつもの独りぼっちの、ガランとした無駄に広い室内が広がっているだけだった。


 でも、今、確かに、声が、わたし、誰かに




『……メイちゃん!……』



 !!? さっきよりもはっきりと声が聞こえた!!


 それに今度は、何か、気分を高揚させるような旋律まで一緒に聞こえてくる。


 何? 何なの?


 わたしは声のした方へとゆっくりとした足取りで向かう。









 その時、わたしの胸には一つの予感があった。









 この先に、自分の運命を変える、何か大きな出会いがあると。



 理屈ではない、本能がそう告げていた。









 そしてわたしは、わたしを呼んだ存在と対面する。




 予感は現実のものとなった。





 その日、わたしは聖典と出会った。




 人生の目標とすべき、尊いものに巡り合った。




 それは、聖書でもコーランでもアヴェスターでもない。





 わたしだけの聖典




 どんな名著や名画に出会っても微動だにしなかったわたしの心を揺り動かした、その聖典とは






 それは…………










 ジャカ ジャカ ジャカ ジャーン♪




『魔法少女ふぁぼ♥ふぁぼ♥シスターズ♪ 今日もいっしょに頑張ろうね、メイちゃん♪』



 つけっぱなしにしていたテレビモニタから、天使がわたしに向かってそう語りかけていた。

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