第1話
第1章は序章の展開とはちょっと毛色の違う、終末世界の青春日常編になります。
主人公が中々戦いませんが、どうか暖かい目で見守って頂ければと思います。
そして、主人公の死村仁が何を思い、どのように成長していくのか? そしてなぜタケノコの山が消えることになったのか? その全容をぜひご覧になって見て下さい。
「……なんて最悪な天気なんだ」
まだ5月だというのに朝から猛暑日のような暑さだった。
オレを殺しにきている直射日光を手で遮りながら、なんとか空を見上げる。
憎たらしいほど雲一つない晴天。
……帰っちゃおうかな~~?
そんな悪魔的誘惑が頭をもたげる。
……いや、やめておこう。
だが、すぐにその誘惑をはねのける。
両親役の二人に余計な気は使わせたくないし、それになによりも
世界を救うギシンが不登校っていうのは……なんかカッコ悪い気がする。
ええかっこしいなオレは、あきらめて再び歩を進めることにする。
それにしても
もう一度だけ立ち止まって天を仰ぎ見る。
こんな青空を見るのは一体いつぶりだろうか―――?
そんな他愛のない事を考えていたオレの後頭部に、いきなり衝撃が走ったっ!!
ぽふっ
避けるヒマもなかったが避ける必要も無い。それくらいソフトな衝撃。
これは、うん、コットン100%の優しさだ。
「おはよ!!神さま!!」
振り返ると外ハネが特徴的な、セミロングの女子生徒が立っていた。
身長は女子では高い方で170cmあるオレと目線が変わらない。
その長身を支えるのは、細すぎない健康的な美脚で、スカートを高い位置で履いているため肌色部分がやたら多かった。うん……実にけしからんな。
そしてそいつはなぜか満面の笑みを浮かべて、仁王立ちしていたのであった。手にした凶器(巾着袋)で人の頭を殴っておいてそんな笑顔が出来るなんて、サイコパスの類なのだろうか?終末世界は朝からクレイジーだぜ!!ヒャッハー!!
……まあ、そんなことは無いか。
お前いつも笑ってるもんな。
「朝から神の後頭部を殴打するなんて、相変わらず命知らずなヤツだな、火野華よ」
橘 火野華。
同じ高校の同級生。常にニコニコしている元気印の少女だ。
七福神のメンバーの中にいても違和感がないくらい笑顔が板についている、と個人的に思ってる。
今度鯛でも持たせてみるとしよう。きっと似合うはずだ。
「ひ、ひぃぃ」
ちなみに先ほどオレが発した「命知らず云々」という発言が聞こえたのか、近くを歩いていた名も知らぬ学生Aが、いきなり猛ダッシュで駆けだしていくのが見えた。
なんか、すまん。
「あはは、もう何言ってんの?朝からバイオレンスなんだから」
しかし、火野華は臆することなくオレの肩をポンポンと叩いてくる。
オレはそれを避けるようにして心持ち距離をとる。
なんでかって?
まぁ、そりゃ、ねぇ?(意味深な顔)
実のところ、オレはコイツが苦手だった。
だって、この世界がいつまで続くか分からないんだぜ?
だったらなるべく現世のしがらみは少ない方が旅立ちやすいだろう―――
オレはそんな風に思ってる。
なのにこの馴れ馴れしさときたもんだ。
この八福神のメンバーには、オレの繊細な考えはおそらく伝わらない。
かといって無視するのも感じが悪いし……。
だから結局ずるずると火野華のペースにのせられてしまっているのが現状なのである。
「ん?あれ?」
突如、火野華が手を後ろに組んでオレの方に寄って来る。
「仁、なんだか」
おっと、さっそく来たか。
気を抜くとすぐこれだ。
さっき距離を取ったのも実はこれに備えるためだったりする。
コイツは他人との距離感覚が、ぜってぇおかしい。
遠慮なく他人のパーソナルスペースに飛び込んできやがる。
オレは落ち着きと節度を持って
ゆっくりと半歩下がる。そしてもう半歩。
よし、これで安全圏まで退避できたな。
火野華と向き合う。
「な、な、な、なんだよ?」
おい、どうしたオレの声帯。もうちょっと頑張れって。
「う~~~ん、なんか仁、顔色悪くない?」
ありがたいことに、オレのヘタレな動揺は完全スル―されていた。火野華が火野華で本当に良かったと初めて思った瞬間だ。
「目の下とかクマすごいよ」
あぁ、そのこと。
「ああ、実は昨日はほとんど寝てないんだ」
「えっ!?なんで?昨日出たの?警報はなかったと思うけど?」
「いや、そうじゃなくて実は昨晩な――――」
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昨晩、オレは今日提出の数学の課題と格闘していた。その戦いは凄惨を極め、ようやく終わった頃には日付が変わりかけていた。
「つかれた……寝るか……ん?」
布団に入ったところでBGM代わりにつけていたTVから、軽妙なインストゥメンタルが流れ出していることに気付く。
消してなかったか、いかん、いかん。でんきだいじに。
慌てて布団から這い出ると、画面の中では屈強な外人の男が拳銃を握りしめながら、NY的な市街を駆けずり回っているのが見えた。
だがおかしい。
なぜかその外人の男は全裸だった。
その疑問はしばらく画面を眺めている内に、氷解していく。
ふむふむ、なるほど、このジェームズ氏は……全裸保安官なんだな。
って―――なんじゃそりゃぁ!!?
お前の存在がすでに事件じゃねぇかよぉっ!!
あと、何で毎回股間が映りそうになると、どっからともなくタンブルウィードが飛んでくんだよっ!? もっとスマートな隠し方思い浮かばなかったのかよっ!? 何の説明もなく、時代背景無視のオブジェクトをぶち込んでくるんじゃねぇーーー!!
などとツッコミんでいるうちに、気付いたらオレは胡坐をかきながらテレビ画面に釘付けになっていた。
そして
チュン、チュン
カーテンの隙間から朝日が、後光のように……射しこんで……まぶしいな……。
おはよう日本。
オレは全力で徹夜してしまっていた。
その時胸に去来した感情は、そう、激しい後悔だった。
なぜかって?
それはこのク○ドラマがトンデモないオチだったからだよ!!
ツッコミ疲れているうちに、気づけばテロの実行犯と全裸保安官ジェームズがお互い銃を突きつけ向かい合う場面で、物語は佳境を迎えていた。
そして手に汗握って見守る中、ジェームズが一言。
「そろそろオレの服を返してくれないか。パンツだけでもいいから」
オマエ好きで全裸やってたわけじゃなかったのかよ!? そんなしょうもない理由でテロ犯を追いかけてんじゃねぇぇぇっっ!! テロ犯もそんなしょーもないモン盗んでんじゃねぇぇ!! 一気に話がスケールダウンしたわ!! それにジェームス! お前途中でアパレルショップで聞き込みとかしてたじゃんっ!?
買えよっ!! そこでさっ!!
途中から見たので知らなかった驚愕の動機が明かされる!! と同時になぜか突如画面が暗転!!
暗闇の中から銃声がパン、パンと2発続き、どちらとも判別のつかないうめき声が上がる!! そしてなぜか流れ出すメサイア!! ……湧き上がる嫌な予感……
その予感を裏付けるように、暗闇の中から浮かび上がるTHE ENDの赤い文字。
呆然としてしばらく動けなかった。
オレは最初、テレビが壊れたのかと心配してしまったほどだ。
だが、しばらくすると画面が砂嵐に変わったことで全てを悟る。
ああ、これもう完全に投げっぱなしの打ち切りだわ。
このドラマはアナタから大切なモノを盗んでいきました。
それは貴重な第二次成長の機会と時間です!!
なぜかそんな幻聴が聞こえたような気がした。
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「―――と、いうわけでほとんど寝てない」
オレは火野華に昨晩起きた悲劇について、かいつまんで説明していた。