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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第2章 最高にロックな日 〜死村 ??〜
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第11戦

 

「……なぜ、ギシンがギシンを殺すのだ?」


 ところどころ地面が隆起しているだけで、あとは何もないまっさらな平原。


 そこで、僕と橘さんは向かい合っていた。


 風を除ける障害物がないので、吹きっさらしの風が顔にモロにぶつかってくる。



 ……そんな状況だからだろうか、ちょっとだけ寒気を感じて、僕はそっと襟を立てる。



「……くれぐれも選択肢には留意しろ。でないと、後悔することになるぞ」



 橘さんの眼光は……とても冷たくて、鋭い。


 さすが、裏社会の第一線で活躍してきただけの、プロ。どんなウソでも、簡単に見透かされてしまいそうだった。



 おまけに、釘まで刺されてしまった……


 これは、もう、お手上げかもしれない。


 ギシンとはいえ、ただの子供が、本物の殺し屋とサシで渡り合えるわけもなし。


 僕は、さっさと諸手を上げて、降参することに決める…………



























 …………なっわっけないだろー♪ 




 アンタが殺しのプロだったら、僕は騙しのプロなんだ。


 なんせ、生まれてこの方、本心を隠し通して、全てを欺きながら生きてきたんだから。

 それ相応の年季だってある。


 おまけに僕はとっても気分屋さんなので、橘さんには本当のコトを教えてやらないことに決めた。



「……うぅ、えっぐ……えっぐ……」



 そしていつもように、目に見えない偽りの仮面を装着する。今回は(泣きver)と言ったところかな。


 こうやって仮面をかぶるイメージをするだけで、演技の訓練なんて受けてないのに、あたかも本当の感情のように振る舞えるんだ。


 これはもう才能だね。


 そして、超A級スナイパー様(笑)に向かって、悲哀120%増しの涙声で語りかける。



「……えっぐ、実は、僕……ずっと、アイツに、さっきのヤツに……乱暴……されてたんだ……。

 毎晩、毎晩、何度も、気絶するまで……それが、何年も続いて……兄弟なのに、そんなこと、されるなんて、信じられなくて、最初は、びっくりしてた。でも、だんだんと僕、それが……待ち遠しくなっちゃって……気づいたら、いつもアイツのことを考えるようになってたんだ……そして、好きになっちゃってた。……おかしいってことは分かってる、だけど、どう頑張っても、その気持ちを……抑えられなかった。僕は、血のつながった弟で、アイツはお兄ちゃんで、それに……男同士だって………そんなあたり前のことは分かってた!! けど、どうしようもなかったんだっ!! それくらい僕はアイツのことを!! ううぅっ、な、なのに、それなのにアイツは、アイツは、うっ、うっう、僕のことを、もう、いらないって、僕なんて、ただの、使い捨ての道具(オナホール)だったって、そう、言ったんだ、ひっぐ、だ、だから、僕、アイツが、誰かに盗られるくらいなら、その前に、いっそ、自分の手で、アイツを」



 ズキュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!













 ……人間ってさ、打たれた時、どういうリアクションとるか、分かる?


 僕は、分かったよ。







 正解は、全身の力が勝手に抜けて前のめりに倒れる、だ。





 バタッ




 身じろぎ一つできない。


 頭が空っぽになってた。



 なんで? なんで?


 その疑問だけが頭に残ってた。



 そして、しばらくすると、音と感覚が甦ってくる。



 僕は撃たれた箇所に、ゆっくりと手を当てて…………



 そして、少しでも痛みが和らぐように、祈りを込めて、さする…………












 さする……………










 さす









 ……………………………ん?




 何かがおかしい。






 ??? あれ? なんで? 



 どこも、痛くない?



 うん…………痛くないぞ?





「……? な、なんでっ!!?」


 驚きのあまり、素の声に戻ってしまう。

 

 その時、僕の顔からポロリと、偽りの仮面が剥がれ落ちてしまう。





 気づいた時には、後の祭り。






 どうやら、ハメられたみたい。



「今のはただの警告だ。だが、次は、容赦なく当てる。今のような態度を取り続ければもう一体、この場にギシン死体が転がることになるぞ」




 ジャキン!!



 ピタッ




 そう言いながら橘さんはスキのない動作で、上半身だけ起き上がらせた僕のコメカミに銃口を押し付けてくる。





 ぐ~りぐりっ♪ ぐ~りぐり♪ ぐ~りぐりぃ♪♪




 な~んて、かわいらしい効果音を脳内で再生してみたけど、ダメだった。


 冷たい鉄の感触がもたらす恐怖は、そんなモンで拭い去れるほど、甘いものではなかった。





 シャーーーー






 ……僕の股間が、勢いよく湿っていく。





 …………コイツ、いつか、ぜってー、コロス。




 僕は、そう決意すると、偽りの仮面〈笑みver〉をかぶって、偽りの照れ笑いをする。


「っもうっ! 橘サンったら、冗談キツいんだからさぁ! ビビッてちょっとだけ、ちびっちゃったじゃん!? 今のはジョークに決まってるでしょ!? ジョークにさ。もうっ、替えのパンツなんて持ってきてないのに、どうしてくれるのさ? こうなったら橘さんの白ブリーフでいいから僕に貸してっ」


 



 ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!





 ああ、もう、今度は何よ?




 再び耳元で弾けた銃声に脳が揺さぶられ、僕はそこから立ち直るのに数分の時を要した。



 橘さんは、頭をぐわんぐわんさせながら、ようやく起き上がった僕に向かって、ムッとした表情で一言。




「…………白ブリーフではない。決めつけるな」









 そんなイキった小学生みたいな理由でバンバンバンバンぶっ放してんじゃねーよぉ!!! 


 それともなんだ? テメーは、どっかのギャグマンガの某警官リスペクトなののかぁぁぁ!!?



 あと、これが一番気に食わねぇんだけどよぉ、






 超A級スナイパーのくせに白ブリーフじゃねぇーって、それ、どうなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーー????






 ……………



 …………………………




 ふぅ。


 脳内で、たまっていた鬱憤を吐き出すだけ吐き出し、ようやく僕はスッキリする。


 そして、偽りの仮面〈ちょっとだけ本気ver〉をかぶり、真顔で橘さんに向き直る。


 ……仕方ない、ヘルもんでもないし、ちょっとだけ教えたるか。


「分かった。話すよ。僕が他のギシンを殺す理由。……でも、大した話じゃないよ。ただ単に社会になじめなかったギシンが、全てを呪い、世界をメチャクチャにしたくなりました、だから世界を守るギシンが邪魔になりましたってだけ。以上」


「……本当にそんなくだらない理由で、ギシンを殺したのか」


「うん、そうだよ♪」


 直接手をかけたのはテメーだけどな、と容赦なく心の中でツッコんでおく。



 ……まぁ、ホントは外部の人間使いたくなかったんだけど、橘さんは本物のプロだから絶対に情報は漏れないだろうし、それに僕たち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだからしょうがない。



 なんたって神威は対象を消滅させる力じゃなくて―――させるだけの力なんだから。


 でも、それを言ってもたぶん理解されないだろうから、それについては言及しないでおく。



「……でもさ、それってくだらない理由かな? 橘さん、よく考えてみてよ。この世界、本当に守る価値あると思う? ずっと暗殺稼業してきたなら、僕の気持ち、理解してくれるんじゃないかな?」


「……確かにこの世界には、腐った面も多い。だが、それと同じくらい良い面もある。お前はそれを見ようとしていない、視野狭窄に陥ってるだけだ」



 おや、人殺しらしからぬ、良心的な発言だこと。


 僕は感心すると同時に、あきれる。


 説教なんてつまんな……いや、でも待て、逆に人道的な暗殺者って、そこはかとなくぶっ飛んでて、これはこれでアリなのかもしれない…?


 なんて、一人妄想を膨らませていると。


「……やはり、分からんな。お前の本心は一体、どこにあるというのだ」


 橘さんはどうも納得なさってないようだ。

 当然だね。だって。


「……まぁ、僕がこの世界を心底嫌ってるっていうだけじゃ、きっと、理由の半分にしかならないだろうしね」


「なら、そのもう半分とやらを、聞かせてもらおう」





 もう、さっきみたいにおっかない思いをするのはコリゴリだった。


 人間は学習する生き物、僕は手持ちのカードから、橘さんを納得させるだけのカードを全放出する。



「いいよ。僕はね、何度も言うけど、この世界が大っ嫌いなんだ。滅びてしまえばいいと思ってる。そして、ある日、僕は僕と、同じ志を持っている人たちの存在に気づいたんだ。その人たちはね、この世界の行く末なんて、微塵も考慮していない。いくら人が死のうが、消滅しようが、屁とも思ってない。本気で世界を壊そうとしている。僕はね、そんな人たちがいることに心の底から感動した。だから今では、少しでもその人たちの役に立ちたいと願っているんだ」



「……どの時代にも、そういった終末思想にかぶれる輩はいる。だが、世界規模で横断的に破壊活動を行える組織など、すでに現存していない。お前と思想を同じくするモノとは何なのだ? 組織か? 国家か? それともカリスマ的指導力を備えた個人の事なのか?」



 どれも外れさ。


 

 もっと異質なモノなんだよ。橘さん。



 僕は人差し指をピンと立てて、お空の彼方を指さす。



「宇宙人? バカな」



 いや、もっと、もっとバカなことだよ。



「違うよ。この世界はね。なんと!! 異世界の人たちから目をつけられちゃったんだ」


「……はぁ?」


 クールな橘さんがあっけにとられて、一瞬間抜けな表情になる。


 きっと、それだけ荒唐無稽な内容に聞こえたんだろう。


 でも、これが本当の、マジの、真実なのさ♪








「《終末獣》は自分の意思で勝手にやってくるわけじゃない。


 異世界の人たちによって、この世界に転送されてくるんだ。




 ……人間が、大事に、大事にしている地球はね、




 向こうさんも手に負えない《終末獣》を捨てるための、()()()()()に選ばれちゃったのさ♪」






 気づいたら風はいつの間にか止んでた。


 周りは草木一本生えていない、荒廃した大地、死の大地。


 僕が望んで止まないモノだ。


 思わず、心が躍り出す。



 ―――嗚呼、ラグナロクが近づいていく。

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