第9戦
今回のお話にはあまり好ましくない表現がありますので、ご覧の際にはご注意の程よろしくお願いいたします。_(._.)_
飛翔した≪全裸≫は、トンでもねぇ速度で上昇し、夜空に浮かぶ星々と交ざりあって見えなくなっちまった。
クックックッ
全て順調だ。まんまと目論見通りの展開になった。
オレは思わずほくそ笑む。
≪全裸≫の全てを切り裂くバターナイフがあの高高度から降ってくれば、いかに≪首無し≫の完全無欠の鎧とはいえ、ぶち裂かれちまうだろう。
この時を待っていたんだ。
あの時から―――≪全裸≫に吹き飛ばされたあの瞬間から―――ずっと、ずっと待っていたんだ。
最強の矛と楯を同士討ちさせる、この瞬間を。
その発想は、吹き飛ばされた瞬間、天啓のように頭の中に降りてきた。
そしてすぐに理解する。
あの二体の終末獣をオワらせるには、どう考えても、それしか方法がない、と。
≪首無し≫の装甲に守られた≪全裸≫を正攻法で倒すのは、悔しいがオレ一人じゃ荷が重すぎた。
コイツらのチームワークに翻弄されて、≪首無し≫にかかずらってる間に≪全裸≫に殺されちまう。
だからアイツ等を二体同時に殺すしか、勝つ方法はない。
そのための同士討ち。
その荒唐無稽な発想を実現させるカギを、たまたまオレは持っていた。
それが依代の存在。
終末獣は人間よりも依代を優先して狙う。
理屈は分からねぇが、奴らは例外なくそういう習性を持っている。
現に≪全裸≫の初撃が少し離れた依代に向かってくれたおかげで、オレは今、こうして生きている。
まったく、とんでもねぇジョーカーが事前に配られてたモンだ。
ズルみてぇなカードだが、ズルはばれなきゃズルじゃねぇ。
≪首無し≫に設置された依代に向かって放たれる、全力を込めた≪全裸≫の一撃!!
お前らは、何が起きたのかも理解できず、仲良く絶命することになるだろう。
あばよ、オレが出会った中で、特にクソッタレだった、クソケダモノヤローども。
オレは作戦の成功を確信し、≪首無し≫が横たわる墓穴の方へと目を向ける。
あとは舞子がその墓穴へ依代を放り投げてくれれば、全てが終わる。
≪全裸≫の落下時の衝撃は、オレの攻守壁で防げるだろう。
人一人分くらいなら、わけもねぇ。
結局こっちの犠牲は……オレ様の足一本で済んだわけだ。
まぁ、上等としておこう。
なんせこんなご時勢だ、欲張りすぎるのはよくねぇ。
ギシンの足一本で世界が救えるのなら、安いモンだ。
すでになんの痛みも感じていない足をかばいながら、オレは立ち膝になる。
さあさあ、降りてこい、そして全てを終わらせろ。
女がシャワーを浴びている間、ベッドの上で待つ、そんなワクワクした心持ちでクソケダモノヤローの帰還を待ちわびる。
ドクンッドクンッドクンッ
だが、その胸の高鳴りは、すぐに別の意味にとって代わられる。
…………オイ? 何やってんだ舞子?
さっさと放り投げろ、何モタついてやがる?
そのケースを目の前の大穴に、投げ入れるだけだぞ?
なんでさっさとやらねぇ? それで全てが終わって、帰れるっていうのに、なんなんだよ? なんで、お前はそれをしないんだよ……?
オイ、舞子、お前、まさか―――!!
その時、雷鳴のように轟く≪全裸≫の咆哮が、上空からオレの鼓膜を打った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
覚悟は決まった。
アタシは手にしたジェルミランケースを、すでに穴が空いて使いモノにならなくなった依代を、脇へと投げ捨てる。
そして、きっと今ごろ訳も分からず、うろたえているアイツに向かって、声を張り上げる。
「アタシ、最後にどうしても言いたいことがあるんだけどさぁ!! アンタ、とんでもない、最悪のクズヤローだったよぉ!! 旦那も奪われて、毎晩、毎晩、股を開かされてさぁ!! それに、女のアタシにこんな危ない橋まで渡らすなんて、もう、心底、愛想が尽き果てたよぉっ!! だから、もう、こんなクソみたいな世界には、何の未練も、アタシは、ないんだからねぇ~~~!!!」
聞こえてなくてもいい。
アタシの気分の問題だ。とりあえず舌出して、中指も立てておこう。
…………よし、これで、錯乱した女に見えたかな?
頬を涙が伝う。
死が怖いわけじゃない。それよりも怖いことがある。
ごめんね、こんなことにつき合わせちゃって。
お腹の上から、まだ見ぬ命の塊にそっと触れてみる。
分からないけど、分かる。
アタシは、終末獣の生態の一部を理解していた。
終末獣は、強い命の息吹に反応している。
全てを破壊しつくそうとするケダモノにとって、最も驚異的なものは
兵器でも兵士でもギシンでもなんでもない。
奴らが、最も恐れているものは
新たに生まれる命なんだ。
破壊の意味を根底から覆す、生命の誕生。
だからこそ、奴らはその萌芽を率先して消そうとする。
アタシはさっき見たんだ。
終末獣の攻撃の直前に、ジェルミランケースの中で、薬でも使われていたのか膝を抱えて朦朧としていた女性のお腹が、ぷっくりと膨れていたのを。
終末獣の攻撃を逸らす囮、依代に使われていたのは、新たな命をその身に宿した、人間そのものだったんだ。
……正直、さっきの発言の中で、本当のこともある。
ここまでして生き延びようとする、この世界の浅ましい連中に、ほとほと愛想が尽き果てた、っていうのだけは、結構マジだったりする。
だけど、しょうがないよね。
生きるってのは、キレイごとだけじゃすまないんだ。
だから糾弾はしない。
それにアタシも、自分の都合で同じ方法を選んだ。
だから何も言えないんだ。
ただ、謝って、せめて、最後に、こうしてなでてやることくらいしか、アタシにはできない。
本当に、本当に、ごめんね。
アタシは何度か腹部を撫でた後、巨獣が横たわる大穴に向かって、身を投げ出していた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「舞子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
アイツが何を考えているか、何をしようとしているか。
どうでもいいっ!! どうでもいいっ!!
ただ、アイツが自分の腹を撫でた瞬間、温かくて大きな光が迸ったのをはっきりと見た!!
アレは、命の輝きだ。
世界なんてどうでもいい。兄弟たちのことも忘れた。
ただオレはその時、大事な女を守りたくて、その内側にある何かも一緒に守りたくて、
全ての攻守壁を、舞子を守るように展開させていた。
「舞子ぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
その瞬間、神威と精神がリンクしたのがはっきりと分かった。
オレの攻守壁は、もともとこう使うべきだったんだ。
奥意によって、薄いベールの膜状に変形させた攻守壁を、幾層にも織って、たたんで、
卵状に組成させていく。
それは両足が残っていた頃の、全盛期のオレですら成し遂げなかった、究極の防御壁だった。
感覚で分かる。
コレを打ち破れる存在なんて、この世には存在しない。
世界が滅んでも、舞子、お前だけは守ってみせる。
「グボォォォォォォォエエェェェェムゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンッ!!!!!」
そして、次の瞬間、空から≪全裸≫が降って来た。
その衝撃破で≪首無し≫は大地と一緒に爆散し、巨大なクレーターが墓穴を中心に形成される。
≪全裸≫も落下と≪首無し≫の厚い装甲に激突した時の衝撃で、粉みじんに砕け散っていた。
そして舞子を守っていたオレの絶対防御の攻守壁は
「あぁぁ、あぁ、あぁぁぁあぁあぁあ!!!!」
感覚で……すぐに……分かっち………ぐ、ぐぐぐぐ、うぅぅ、うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!
≪全裸≫の攻撃によって、攻守壁が瞬時に溶解していた事実を、足裏の感覚がオレに伝えていた。




