表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第2章 最高にロックな日 〜死村 ??〜
35/81

第8戦

 ――――正直、ちょっとだけ、後悔してる。


 終末獣を目の前にしたアタシは、少しだけ、ブルってた。


 ……いや、少しなんてもんじゃない。


 今まで感じたことがないくらい、ブルってた。


 さっきから抑えようとしても、震えが止まらない。

 そもそも、抑えこもうという、意思すら働かない。


 意識は完全に無、だった。


 目の前にそびえ立つ、巨大な壁から放たれる威圧感によって、アタシという人間の覚悟はいともたやすく吹き飛ばされてた。圧倒的過ぎた。



 ……もっと楽な死に方があったんじゃないか?……

 なんで、わざわざ、こんな最悪手を、選んじまったんだ……アタシは?


 ……もう、止めようかな……


 無になった心を、一気に弱気が塗りつぶしていく。


 全身にまでその感覚は広がっていき、もう立ってられないくらい膝が笑い出すと、アタシはあきらめてその場で膝をつくことに決めた。


 仕方がないよ。こりゃ不可抗力だ。

 人間がこんな化け物に立ち向かおうだなんて……あまりにもおこがましいって……。


 

 楽になりたい、その一心で、大地に向かって崩れ落ちる。







 だが、倒れなかった。



 その時、崩れ落ちそうになったアタシの体を支えていたのは、

 

 

 ただの〝意地“だった。




 ―――ははっ、まさか、最後の最後に、これとはね。


 笑えてくる。


 今までアタシは、この意地っ張りな性格が原因で、結構、損してきた。


 親、友人、今まで出会った数多くの人、全員から、けっこう疎まれてる自信がある。



 なんせ納得できないことには、徹底的に反抗したからね。



 生きづらい性格だってのは、昔から分かってたけど、どうしようもなかった。

 そういう性格込みで、アタシという人間なんだから。



 こんなめんどくさい性格のおかげで、失ってきたものは数知れないけど、


 だけど―――どうやら最後の最後で帳尻があったらしい。


 だって、そのおかげで、ただの何の力も持たない、平凡な人間のアタシでも、終末獣と対峙して、こうして立ってられるんだから。


 負けたくないって、意地を張れるんだから。


 アタシの後ろには、あの子がいる。


 アタシに心底ホレている、ギシンがいる。




 だったら―――かっこ悪い姿は見せられないねぇ!!



 その意地が―――アタシを最後の最後で奮い立たせた。



「図体ばっかりデカくったってさぁ!!」


 アタシはキッと目を見張ると、目の前の壁を睨み付ける!!


 確かにデカい、でも、だからどうしたっていうんだい!!?


 テメーだって、終末獣の中じゃ、小さいほうじゃないか!?


 そもそも、そんなところで張り合う必要はないっ!!


 アタシは人間だ。

 

 テメーらが虫けらみたいに踏みつぶしてきた、ちっぽけな人間だ。


 そんなチンケな人間を、恐怖で膝つかせることすらできなかったなんて、


 ―――きっと、過去に例がないよ。今までで一番ダサい、最弱の終末獣なんじゃないの、アンタ?



 そう思うと、今まで感じていた圧迫感が、ウソのように消え失せた。

 どう考えてもこっちの方が格上だ。


 アタシは今、精神的にコイツを見下せているっ!!



 音が甦り、世界に色が戻っていく


 灰色の世界から、ようやく帰還できた。 



「――――――!!」


 途端に、アイツの、K・Sの叫び声らしきものが聞こえてくる。



 まったく、大したガキだったよ、アンタは。


 あまりしたくはなかったが、その時、アタシは素直に尊敬の念を抱いていた。

 


 たった一人で終末獣と闘い続けたギシン。



 グラサンをかけて、ムリに笑って、ダサい革ジャンを着て……

 必死にイキがって戦う少年に対して。




 …………それにしても、ホントに似合ってないグラサンに、ダサい革ジャンだったわねあの子…………






 ぷっ




 不意にあの珍妙な姿が思いだされ、思わず、吹き出してしまう。


 まったく、こんな時に笑かしてくれるなんて、ホントあの子、名前どおり、人を笑わせる才能あるわ。




 いつの間にか、恐怖は完全に消え失せていた。


 とても穏やかで、すがすがしい気分だった。


 どんなに巨大でも、恐ろしくても、関係ない。




 アンタはもう、お終いだ。




 だって、アンタの相手は、アイツなんだから。



 どんな苦境もひっくり返してきた、最強のギシン。



 反則級な強さを持ち、


 残忍で、


 狡猾で、


 容赦なくて、そして、誰よりも臆病。



 そんな訳分からない男にケンカを吹っ掛けちまったんだから、それは、もうご愁傷さま、としか言いようがないね。



 そして首のない終末獣に向かって、アタシはゆっくりと、中指を立てる



 「さあ、覚悟しな。この、クソケダモノヤローがっ!!!」



 ……言ってみて初めて分かった。


 コレ、とってもスカッとする!!

 


 アタシはポケットに手を突っ込み、信号拳銃を手に取ると、真上に掲げて一気に引き金を引く。



 パシュー



 一筋の光がクネクネと蛇行しながら、夜空に向かって昇っていく。


 その赤い閃光を眺めながら、一つ、願掛けをしてみた。


 あの灯が消えるまでに、アタシの覚悟が決まれば、きっと全てがうまくいくと。


「……よっしゃ……やるか」

 

 灯が消えるのと、アタシが決意したのは、ほぼ同時だった。


 覚悟は決まった。後悔は……しない。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 舞子の合図の光だ。


 オレは息を大きく吸い込み、奥意で一気に《全裸》の足裏を貫く。


「ボォォォエエエェェェムゥゥゥゥン」


 よっぽど堪えたのか、実に悲し気な声で泣きわめきやがる。


 しばらく、そうやって悶えてな。


 お前の出番も、もうすぐだからよ。


 《全裸》が頭を抱えて苦しんでいる隙に、オレは全ての攻守壁を集めて《首無し》の足元を穿つ。



 バシュゥ



 立っていた足場が急に失われ、《首無し》はバランスを崩しながら、後ろ向きに転倒する。


 だが、その倒れこむ前に、もう一仕事。


 ≪首無し≫の背後に。穴を掘る。

 

 攻守壁の残量はほとんどねぇから、巨大な塊をぶつけるわけにもいかねぇ。


 オレは奥意を発動させ、小さな輪っか状の攻守壁を作る。


 そいつを地面に叩き込み、回転させながら、徐々に輪の外縁を広げていく。

 

 技名は……サークル・K・Sってとこだな?

 


 バシュバシュバシュバシュバシュゥ!!


  

 回転体となった攻守壁によって、大地がみるみる削られていく。


 そして、いい感じの穴が掘り終わった次の瞬間、



 ドシィィィィィィィン!!!



 ≪首無し≫がその穴に倒れこんですっぽりとハマる。


 

 ……これで、終いだ。


 そこがテメェの墓穴だよ。


 後は、舞子が依代を穴の中にぶん投げてくれれば、それでこの長い長い夜も終わりだ。


 オレは安堵して、足を地面に投げ出す。


 全ての攻守壁が解除され、《全裸》が虚無の針牢獄から解き放たれる。

 

 「……さあ、テメェもいい加減、鬱憤が溜まっただろ? 全部吐き出していいぜ。特大のをかましてくれや」



「グググ、フォフォフォフォオオオオムゥゥゥゥンンン!!!!」

 


 オレの意志が伝わったのか、《全裸》は今までにねぇ爆音を響かせながら、天高く跳躍していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ