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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第2章 最高にロックな日 〜死村 ??〜
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第7戦

 勝利を確信し、振り向いたオレの視界の先には、横倒しになって大破しているジープが映っていた。



 な、何が起きたんだっ!? ついさっきまでは、無事だったのに?



「ま、舞子ぉぉぉぉ!!」



 距離が離れていて、届くとは思えなかったが、オレは、そう叫ぶ。

 

 声が届いたとしても、それで舞子の運命が変わるはずもなかったが、とにかく、そう叫ぶ。




 完全に油断していた。


 《首無し》は《全裸》を守るための、ただのデクノボウだと思い込んでいた。

 


 そんな単純な話じゃねぇ。アイツだって腐っても終末獣だ。

 攻撃の手段は備えているに違いない、そう判断するべきだった。



 いくら片足を失って、朦朧としていたからって、こんな判断ミスをしちまうなんて、クソッ、クソッ、クソがッ!!

 


 《首無し》の鎧の隙間からは触手みてぇなモンが数本飛び出して、それがジープの周囲をウネっていやがった。



 アレが、舞子を、襲ったのか、



「クソがぁああああああ!!!」



 攻守壁を使って触手を蹴散らす。


 バシュゥッ!!



 アレには攻守壁が効く。だが……埒があかねぇ!!

 消した先から、次々に生えて来やがる。全部を捌いてる余裕はねぇ。

 それに――――


「ボォォォエェェムゥゥゥ!!」



《全裸》の方を、おろそかにするわけにはいかねぇ!! まださっきの痛みから回復はしてねぇようだが、気を抜けばオレの神威はすぐにスッ飛んじまう。とても《首無し》の触手全てにまで気を回している余裕はねぇ!!


 どうする? どうすりゃいい?


 喉が渇く、頭がイテェ。

 あと、少し、あと、少しだったのに、こんな、クソッ。



 八方ふさがりの状況にオレは、今度こそ本当に絶望しかかる。

 





 その時、オレは、本当に愚かだった、と言わざるを得ねぇ。





 こんなに簡単に負けを意識して、諦めかけちまってたんだから。



 でも、この日だけは特別だったことを、すぐに思い出す。



 いつも一人で、一人っきりで戦ってきたオレだったが、

 


 今日だけはスゲェ助っ人がいる。



 オレは、宇宙一スゲェ女と、一緒に戦ってたんだ。



 それを、思い知らさせる。



 視線の先で、ジープのドアが内側から蹴破られ、そこから舞子が現れた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


 イタイ……な……



 エンジンが止まったジープの中は、棺桶みたいに冷え切っていた。



 それにしても、全く、ひどい話だと、改めて、思う。



 アタシは節々が痛む体をいたわりながら、さっき聞いた作戦を思い出していた。



 アタシの安否なんて、微塵も考慮しちゃいない、人命無視の作戦を。

 



 ―――あの首がない終末獣の鎧の隙間に、依代を置いて来いてきてくれ――――



 

 ホントに小憎らしくて、ふてぶてしいガキだよ。そんな事、女のアタシに頼むかね、普通?

 まったく、最後の最後まで人をイラつかせてくれたモンだと呆れる。



 セ○クスだって一人よがりで、ヘタクソだし、避妊なんて一度もしてくれなかった。


 本当に絵に描いたようなクズだった。



 なんでそんなクズのために命を張らなきゃいけないのか? 世界のため? それともあの人のため?



 改めて考えてみる。



 どれも違うと思えた。

 



 まぁ、そうだろうね。



 しいて言うなら、



 今まで見てきたからだろう。



 あのギシンの苦悩を。



 あのギシンは、いつも震えていた。


 戦いの前なんて、眠れずに、いつも毛布にうずくまって震えていた。



 それを誰にも悟られないように、イキった風にしてたけど、アタシを含め、周りの大人はみんなその本性に気付いていた。



 だけど、そんな状態でも、キチンと自分の義務を果たそうとするアンタの仕事っぷりを見て、皆、心の奥ではアンタを認めてもいた。


 そして、いつしかアタシ達は、何も出来ず、ただ世界を救う重責を子供に負わせていることに、後ろめたさを感じるようになっていった。


 だから、いくら体を求められようが、拒絶はしなかった。

 それくらいしか出来ることがなかったからね。



 ……そうさ、これは誰のためでもない。

 


 きっと、アタシの気分の問題なんだ。



 ガキに世界の運命を全部まかせて、それで安穏としてる、そんな歪な日常を否定したいだけなんだ!!



 ―――早く戻ってやらないと、あの子のことだ。


 横転したジープなんて見たらすぐに弱音を吐いちまうに決まってる。だからさっさと行くとしよう。

 

 アタシはボロボロになった身体にケリを入れて気合を入れなおす。



 依代は……もう、つぶれちゃってるね。これじゃ使い物にならないだろうけど……多分、問題ない。



 アタシは見たんだ。



 終末獣の攻撃によってケースが破壊された瞬間、その中に収められていたモノを。



 ハッ、何か怪しいとは思ってたけど、まさか、あんなモンが依代の正体だったとはね。



 そりゃ、公表できないわけだ。



 嫌悪感はあったけど、おかげでアタシは安堵する。



 代用が効くに決まってる。自信はある。

 最近、なんだか体がだるいことが多かったし。



 多分、間違いないだろう。


 アタシの身体は、今、きっと依代と同じだ。



 なんせ、この一カ月間、あのクズには一度も避妊されてなかったんだから。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ま、舞子ぉぉぉ」


 ジープから出てきた舞子の衣服は、所々、血塗られているように見えた。

 ケガの程度は分からねぇ、だが、とても無事とも思えねぇ。


 だけどアイツは健気にも、ケースを抱きかかえて、オレに向かって親指を立ててきやがった。




 ……ヤロウッ、あんな、あんな、態度、見せられちまったら、もう、迷ってるヒマはねぇじゃねぇか!!




 絶対にこの作戦を成功させてやらぁっ!!




 オレは《全裸》に割いていた攻守壁の一部を、舞子の防御に回す。


 

 次の瞬間、《首無し》の触手が間髪入れずに、舞子に向かって襲いかかった。



 攻守壁の残量はほとんど残っちゃいねぇから、舞子の全身を覆いつくすのが精いっぱいだ。



 終末獣の攻撃が、舞子の皮膚スレスレにまで迫る!!



 だけど、舞子はそんな状況でも、全くビビらず、スーツを抱えながら、自ら《首無し》に向かって駆けて出していく。




 スゲェ女だよ、ホントに……。 



 なら、オレは、絶対にお前を守り切ってみせる……。



 だから、そのまま、迷うことなく駆け抜けろ、舞子っ!!



 舞子と《首無し》の距離は直線距離で、およそ数十メートル。


 遮る物は何もない。

 

 行けっ!! そのまま駆けろっ!!


 手を握りしめながら、その行く末を見守る。





 そして、



 とうとう、その時が訪れる。





 舞子が、《首無し》の足元に到達する。


 それは二体の終末獣の、終着駅。


 この戦いの終わりを意味した。


 

 星の輝きが薄れ、空が白み始める。



 舞子とオレが力を合わせて共に戦った、長い長い夜が、ようやく明けようとしていた。

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