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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第2章 最高にロックな日 〜死村 ??〜
33/81

第6戦

5/2 とある理由で流血表現をカット致しました。ご了承の程よろしくお願い致しますm(__)m


 オレと舞子はどちらともなく口づけを交わしていた。


 お互いの命を分け与えるような、そんなトビっきりの口づけを。


 だが、舞子が離れると同時に今の感覚が一時の錯覚だったとすぐに分かる。


 ……熱が引き潮のように去っていっちまった。


「じゃあいくよ」


「ああ、しっかりな」


 オレは気休めを言うつもりはなかった。だけど舞子は違った。


「じゃ、また、後でね」


「……ああ、また後でな」


 ……どうやら最後の最後まで気をつかわせちまったようだ。全くしようのねぇ男だぜ、オレは思わず夜空を見上げる。



 《全裸》の特攻から少し離れた場所にあったジープは、驚くことにほぼ無傷だった。

 全く本当にタフな車だ。


 だが、おかげで作戦はつつがなく遂行できる。


 舞子は運転席に乗り込むと、エンジンを始動させ彼方へと走り去っていった。


 その行く先があの二体の終着駅になる。


 ―――ジープの荷台には唯一残った依代が載せられていた。




「さて、それじゃ、こっちはこっちの仕事をすっか」


 オレは投げ出していた足を立て、立膝になると残った一本の足で大地を踏みしめる。



 ――――――――うぅ――――――――



 ダメだな、どうもまとまらねぇ、力が、拡散しちまう。


 感覚で理解する。

 攻守壁を構成する見えない障壁はほとんど残っちゃいなかった。


 どうやらオレの神威は、両足で大地を踏みしめてこそ真価を発揮するモンだったらしい。

 チッ、失ってから初めてその価値が分かるなんて、ずいぶん教訓めいてやがんな。


「……仕方ねぇ、ならあるモンで戦うしかねぇな。全くクモの糸を掴むが如し……だ?」


 その時、アホみたいな話だがオレは自らが発した言葉にある天啓を受けていた。

 気分はまるでカンダタだ。


 …………糸、糸ねぇ…………


 出来るかどうかわかんねーけど、試してみる価値はありそうだ。


 土壇場でこんな一手を思いつくなんて、まだまだお釈迦さんは人類を見捨てちゃいねぇみてぇだ。





 全く、最高に―――ロックな日だぜ!!





 その時、地面がわずかに震えた。


 《全裸》のヤツが彼方からこちらへ向かって走って来る姿が遠くに見えた。


 ようやくお出ましか。ったく、どこまですっ飛んでいやがったんだか。


 頭から突っ込んでいった《全裸》の特攻の勢いは凄まじく、大地はモーゼの十戒よろしく割れてその断面が地平の彼方まで続いていた。


 とんでもねぇ威力だった。でも、だからこそ。


「悪ぃがこっから先は通行止めだ。そこで地団駄踏んでな」


 オレは足裏に力を込めて、なけなしの攻守壁を発動させる。

 場所はこちらに向かって突っ込んでくる《全裸》、その前面。


 だが、やみくもに展開してもあの頭から突き出たバターナイフで攻守壁はスパスパ切り裂かれちまうだろう。だから、オレは



「くぅ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 とにもかくにも力を足裏に込める。そして神威のその先にある奥意を発動させようとする。

 コイツは難事業だ。

 奥意なんて神威以上にデリケートな操作が要求されるモンだから。

 両足あって、体力も十分で、ようやく発動できるレベルの極意だ。



 今オレは片足しかねぇ。

 おまけにさっきの攻撃で頭を打ち付けたせいか、意識も多少、朦朧としていやがる……。




 ――――だから足りねぇ分は気合でカバーするしかねぇんだよぉぉぉぉぉぉ!!!




 脳も神経も感覚も感情も過去も未来も現在も、オレという存在の全てを総動員して奥意に至る感覚を探っていく。



 ズシンズシンッ



 振動が先ほどよりも激しくなる。

 だが動揺はしない。


 そんな余計な感覚にリソースを奪われたくない。


 オレは再び没入していく。



 ズシンッズシンッズシンッ



 まだ何も見えない、聞こえてこない。



 ズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッ



 焦るこたぁねぇ、もうすぐだ……………………



 ズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッ




 ……………………………………




 ズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッ





 …………………………………………………………………………




 ズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッ







 …………………………………………………………………………まだ奥意の感覚は訪れない。





 なぜだ? なぜ何も見えてこねぇ?





 地面が激しく揺れて、体が浮き上がりそうなほどの突き上げが地面からせり上がって来る。





 ダメなのか? こんなに難しいモンだったか?




 やがて……振動と一緒に恐怖まで喉元にせり上がって来る。




 間に合わないのか?



 オレという存在の全てを総動員しても…………届かないのかよっ!?


 最後の最後に覚醒して、敵を倒すって、そういうハッピーエンドはねぇのかよっ!?


 もうそこまでだった。

 一旦途切れた意識を、再び集中させることは出来なかった。 

 オレはどうにもならない現実の重みを知って、ただ。



 ズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンッズシンズシンズシンズシンズシンズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシ!!!



 すでに間近に迫った《全裸》の足音を絶望しながら聞いていた。



 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………



 虚脱しながらオレはふと背後を見やる。




 舞子の乗ったジープはまだ道半ばだった。



 このまま《全裸》が突っ込んでいったら、間違いなく舞子は助からねぇだろう。

 このクソケダモノヤローは、人間よりも依代を優先してバラシにかかるんだから。



 その時オレの脳裏に浮かんでいたのは、舞子の安否でもなんでもなかった。



 さっき舞子と別れる前にしたキスのことだった。



 ……アイツ本当にエロテクニシャンだよなぁ、この状況であんなに舌を絡めてくるなんてよぉ。いつもアレで腰砕けになっちまうんだよなぁ……



 すでに現実逃避の境地に、オレはその時至っていた。



 そういえば、いつだったかベッドの上で舞子がオレに言ったことがあったな……



 ~~~~~~~~~~~~~~~~


「アンタ勢いは凄いから、あとはもうちょっとだけ繊細さが加われば120点になるよ」


 なんだそりゃ?


 すげぇ気をつかった言い方だったが、要旨は透けていやがった。

 ようは遠回しにヘタクソって言いたかったんだろ?

 繊細なオレ様の心は大層傷ついたモンだった。

 危うくイ○ポになりかける程に。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 当時のことを思い出してむかっ腹が立ってくる。


 なんだよ繊細って? オマエみたいに舌をグワングワン回転させてみりゃいいってのか?


 オレはやけくそになって、世界最期の瞬間を目前に、口を開けてエアディープキスの練習を始める。



 ―――そして思わず笑っちまった。



「ハッ、なんだそりゃ」





 ズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシ!!!!!!!!!





 オレは別に絶望的な状況で奇行に走った、己のあわれさを笑った訳じゃねぇ。




 見えたんだ。




 オレが頭の中で舞子とキスをした瞬間、



 その瞬間にはっきりとした光が――――




「ボォォォォォォォォォォォォムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンン!!!!!」



 

 すぐ眼前でよく分からねぇ爆音が上がる。


 これが《全裸》の苦悶の叫び声だとしたら、


 クックックッ、大層間抜けな声だな。



「どうやらオレに欠けてたのは、本当に繊細さ、だったらしいな?」


 舞子を慈しむようなキスを思い描いた瞬間、神威と身体がはっきりとつながったのが分かった。



 アイツの言う事はいつも全て正しかったんだ。



 本当にスゲェ、宇宙一スゲェ女だ。



 片足で奥意を発動させたオレは攻守壁を糸状にこよって、それを大地に剣山のように設置していた。


 《全裸》のむき出しの足は勢いよくそれを踏んづけちまったモンだから……ご愁傷さまだ。足裏から甲まで細かい穴が大量に空いてやがる。


 これならすでにほとんど残っていない攻守壁でも、コイツの進撃を止められる。

 おまけに《全裸》の無敵のバターナイフは足元までは届かねぇ。

 首をブンブン振り回しながらイヤイヤしてやがる。



 オレは全ての攻守壁を使って《全裸》の周囲を剣山で埋め尽くしてやる。



「さっき言ったろ?こっから先は通行止めだってよ。しばらくそこで大人しくしてな!!」


 

 オレは勝利を確信し、背後を振り返る。


 だが、……そこにはようやく掴んだ細い希望を断ち切る、さらなる絶望が待っていやがった。

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