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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第22話

「ねぇねぇトキノちゃん、お願いだからさ~~」


「なっ!?なんでそんな事させなきゃいけないのよ!?」


 和解した二人はさっきから女子トークに華を咲かせっぱなしだ。

 お兄ちゃん、ちょっとだけ寂しいかな。



 ……でもいいんだ。



 こんなトキノを見るのは本当に久しぶりだから。

 だから見ているだけで十分だった。


 それにしても。


 改めて思う。


 火野華、お前は凄いヤツだな、と。


 トキノの心を変える、オレには出来なかったことをお前はあっさり成し遂げちまったんだから。

 それはきっと、オレの神威の力なんかよりもずっとずっと価値のある、素晴らしい力だ。

 

 ……ちょっとだけ悔しいかな。

 

「ねぇねぇ、仁からもお願いしてってば」


 なんてことをぼんやりと考えていたら、いつの間にか火野華の顔が目の前にあった。


「な、な、な、な、なに?」


 突然の不意打ちに素人童貞なオレはどもってしまう。くそぅくやしい!!


「聞いてなかったの? だ~か~ら~トキノちゃんの頭をなでなでさせて欲しいんだってば。仁も手伝ってよ!!」


「えっ、なにそれ? なんでそんなことすんの?」


「キレイだからちょっとだけ触ってみたいの」


 実にシンプルな解答。

 キレイと言われて嬉しかったのかトキノの口元が少し緩む。

 だがそれを慌てて手で押さえて、元の冷たい表情を貼りつける。


 ムリすんなって。顔面が痙攣しちゃうぞ。

 どうやらトキノは新たにツンデレの神威を会得したようだった。


「そうだな。確かにトキノの髪はキレイだ。世界で一番美しいと言っても過言ではないだろう。それに触れたいと願わない者はいるだろうか?いや、いなぁい!!」


「っ!!」


 今度は耳まで真っ赤になった。いやぁ色白だから分かりやすいねキミ。


「……それにわたし、まだちょっと連れ去れた時のショックが残ってるみたいで……このままじゃPTSDになっちゃうよ。……アフターケアって無いのかな……」


 火野華の追撃によって今度は顔が真っ青になる。

 やるなお主も。

 

 オレ達二人の波状攻撃にさらされたトキノは、一度大きく天井を仰ぎ、そして諦めたように嘆息する。


「……分かったわよ。ホラ、好きにすればいいでしょ」


 陥落。

 もう後は火野華のされるがままになっていた。

 

「うわぁ~~すごい!!手櫛がこんなスッと入るんて信じらんない。トキノちゃん凄いよ!!」


「な、何を言うかと思えば当然じゃない。私はあなた達みたいな安物は使ってないのよ」


「そうなんだ、へー、いいなぁ。それにしても」


 くんかくんか


「なんだか体からもいい匂いがするね」


「ちょ、ちょっと匂いまで嗅いでいいなんて言ってないわよ?」


「ごめんごめん。でもあまりにもいい匂いだったから、ついつられちゃって」


「まったくこれだから人間は……それにこれは香水の匂いよ。特注品だから一般庶民は手に入れる事すら出来ないんだからね。ありがたく嗅ぐといいわ」


「ええーそうなの? 凄いなそれ。でもトキノちゃん香水つけてるなんて大人っぽいね」


「大人っぽい……? ふふっまったく……いつの時代の価値観なのかしらそれ? 古臭くてナンセンスだわ。今時は幼稚園児でもつけてるわよ」


 どこのセレブ園児だ。適当なこと言いやがって。

 つっこみたかったがグッとこらえる。


「そうなんだ」


「そうよ。もしかしてアナタ持ってないの? 一瓶も? はぁ、これだから田舎の高校生は……仕方ないから今度お古を上げてもいいわよ」


「えっ!!? くれるの?」


「捨て場所に困っていたところだからちょうどいいわ。せいぜい私のお古でもつけて女を磨くといいわ」



 傍から見てると分かるが


 やっぱりトキノはものすごく嬉しそうだった。


 きっとアイツは今、人生で初めてのガールズトークを経験している。

 こんな事になるなら、もっと早く二人を合わせてやればよかったかな。


「ねぇトキノちゃん?」


「何かしら?」


「もしかしてだけど……今、嬉しかったりする?」


「な、な、何よいきなり? そんなことあるわけないでしょ!?」


「だって、なんか、今、鼻歌歌ってたからゴキゲンなのかなって」


 確かに言われてみると、そんな旋律が聞こえたような気がしなくもない。

 女の観察眼(耳)は侮れないな。


「ば、ばっかじゃないの? 私が人間ごときに誉めそやされてどうにかなるわけないじゃない!!」


 それに対するトキノの返しは、これはまあ見事なほどのテンプレだった。

 オレは今日だけで、トキノの新たな可能性を何度も見て感動すら覚える。


 実の兄でさえツンデレなトキノを見て、萌死にしそうになったのだから……火野華が見たらきっと助からないだろうな。


 成仏しろよ。南無。


「トキノちゃんって――――超かわいい!!」


「~~~~!!」


 普段のトキノなら神威で逃げ出してしまっただろうが、今日ばかりはさすがに空気を読んだようだ。自分を抱擁する火野華をガマンして、そのまま受け入れていた。




「も、もういいかしら」




 数分後、耳まで真っ赤に染まったトキノがボソリとそう呟いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それからしばらくして、オレたち三人は再び剣ヶ峰に立っていた。


 そして


「やっほおおおおおおおお~~~~!!!」


 火野華の大音声が朝を迎えた富士山頂に響き渡る。


「いやぁ、富士山といえばやっぱりご来光だよね。感動っ!! まさか生きてるうちに拝めるなんて思いもしなかったなぁ!! ねぇねぇ仁たちもせっかくだから何か叫んだら?」


 一人だけテンションアゲアゲのところ悪いが、オレは喉がつぶれているし、トキノはかわいがられ過ぎてなんだかぐったりしている。それを伝えると。


「そっかぁ残念。でも凄いよね。トキノちゃんのその、神威、だっけ? あっと言う間に瞬間移動出来るんだもん」


 火野華のお願いによってオレたちは朝日を拝みに再度、剣ヶ峰へやって来ていたのであった。

 まさかトキノをアッシー代わりに使うとは末恐ろしい女である。


 だが、少しばかり勘違いをしているようだ。


「こいつの神威は瞬間移動じゃないぞ」


「へっ? そうなの? でも一瞬でこっちに来れたけど」


「こいつは神威は地続きでないと発動しないんだ。だから大陸間の移動は不可。瞬間移動というよりはどちらかというと縮地に近いな」


「…………ああ、しゅくちかぁ。そっちねぇ~。うんうん、なんとなく実はそんな気もしていたんだけどね」


 火野華はオレ達に背を向けると、一人朝日に向かってうんうん、と頷いていた。


「……仁、あの娘、絶対分かってないわよ」


 オレの背後でトキノがぼそりと呟く。

 どうやらお前もアイツの事が少し分かってきたようだな。

 そう、ちょっとオツムは残念なんだよ。


「でも神威ってなんだか――――――みたいだね」


「うん?なんだって?」


 耳慣れない単語が飛び出し思わず聞き返す。


「だからチートだよ。聞いたことない?」


 チート……?


 ああ、あれか?

 生乳に乳酸菌を加えて加熱すると出来あがるアレの事か?


「……仁、それは違うと思う」


 兄の思考を勝手に読むな、トキノ。


「ああ、あれね。ちーとね。うんうん。まさかそう来るとは意外だったなぁ」


 言葉の意味はよく分からなかったが、オレは一つ学習することができた。

 それは人間は知ったかぶりをしたがる生き物なのだということである。


「仁、もしかして知らないの?」


 困惑した表情の火野華。

 知るは一時の恥、オレは先人のありがたい言葉をその時思い出していた。


「ごめんなさい。知りません」


「まあ、神さまはゲームなんてしないだろうしね。あのね、わたしのお父さん、海外ゲームのマニアでもあるんだけど」


 ドラマといいゲームといい多趣味な親父さんだな。


「かいつまんで話すと、それ使ってゲームデータをいじると製作者が意図してない強さになっちゃうの。体力が減らなかったり、対戦相手を一撃で倒せたりね」


「それ、面白いのか?」


「ううん。つまんなくなると思う。でね、ゲーム用語だけじゃなくて、その内もの凄い強力な、反則級の力の事もチート能力って呼ぶようになったの」


 お父さんのコレクションの中で、そう解説している本があったと火野華は付け加える。


「だからさ、なんかさっきの話聞いて神威ってチート能力みたいだなって思ったんだ。だってなんでもできちゃう凄い力なんだもん」


 自分の知識をひけらかしたのが恥ずかしかったのか、火野華はそう言うと再び朝日に向かって「うわああああぁぁぁ~~~~」とか叫んでいた。







 そうかチートねぇ。


 お前からしたら神威も、そのチートとやらも似たようなもんなんだな。




 ……全く凄いヤツだ。



 オレは今まで、この神威のせいでずっとずっと悩んでたんだぞ?


 オレを過酷な運命に縛りつけているこの力のことをよ?



 それをゲームのなんだ? バグらせて強くするモンと同列に扱ってくれるなんて

 

 なんだか、16年間も悩んでたのが、アホらしくなってくるじゃねーか。


 









 その時受けた衝撃は


 





 多分、誰に言っても理解してもらえない。


 だけど、この時オレは初めて、この身に宿る力と向き合えた気がしたんだ。


 こんなものは神の力でも何でもない。


 ただの、ちょっと便利な、ゲームバランスを崩壊させる程度の、


 変哲のないただのチート能力なんだって、気楽に考えるようになれたんだ。


 だから。



「あれっ仁?」


 峰の先に向かったオレを火野華は不思議がっていることだろう。


 だけど今はただ、猛烈に何かを叫びたかった。


 喉がつぶれていようが関係なかった。


 腹の底から、鬱積していた16年間の思いを吐き出すように―――









「オレのこのチート能力で


世界を救ってやるからなぁ〜〜〜〜!!!!!」










 日本一高い山の頂上(てっぺん)で、オレは声高らかにそう宣言していた。





 第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜  完

死村 仁は転んで負傷(?)したため少しお休みになります。

2章からはまた新たなギシンの物語となります。

どうぞ最後までお付き合いのほど、よろしくお願い致しますm(__)m

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