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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第21話

 山道から滑落したあと、どうやらオレは気絶していたらしい。


 そしてトキノに救われた。


 アイツはそのままだと凍死確定のオレを、神威を使ってこの小屋まで運んでくれたそうだ。


 そしたら、たまたまその小屋に避難していた火野華とも遭遇できた、というなんともご都合主事が待っていたらしい。


 でも、ご都合主義でもなんでもいい。



 本当に――――無事でよかった。



 ちなみにトキノには何のケガも無かった。


「仁が落ちる瞬間、私を下して助けてくれたから……」


 そう言って、ややはにかみながら、トキノは語ってくれた。



 ―――間違いなく事実と違うのだろうが、そういう事にしておこう。

 あえて評価を下げる選択を取るのは愚か者のする事だ。



 オレは愚か者にはなりたくないのだ!!



 それに、そうでなくともオレの評価はすでに微妙になっているのだからな。


 なぜって?


 だってトキノがオレをここに運びこんだのは探索を始めてから


 一時間後のことだった。



 うん、とても情けない話だが、オレはトキノを担ぎながら山道を探索すること数十分で、すっかりグロッキーになってしまっていたわけだ。


 なんだよ、足の裏の感覚が無いとか、最悪の想像が頭から離れないとかさ!?

 体力も根性もなさすぎだろっ!!間抜けすぎて顔から火が出るわっ!!



 だが、まあ火野華を見つけるという当初の目的を果たせたのだからヨシとして置こう。


 しておこう…………

 


 して…………



 やれやれ、

 どうも、まだオレにはやらなければならないことがあるようだ。



「………………」




「………………」



 オレの前には机を挟んで、無言で向かい合う火野華とトキノの姿があった。


 二人の間に流れる空気は、それはとてもとても険悪なものだった。


 まあ、二人の関係は被害者と加害者なんだから、仕方がないともいえる。



 トキノは人間相手には珍しく、しおらしい態度で項垂(うなだ)れている。

 対する火野華は、これもまた珍しく真顔でトキノの顔を真正面から見つめている。



 やれやれだぜ、どうやら仲介が必要なようだな。

 と、オレが身の乗り出そうと思った矢先に



「……その、今回の件だけど」


 なんと口火を切ったのはトキノからだった。

 それだけはないと思っていたので、少し面食らってしまう。


「私は……自分のやったことを別に悔いてはいないわ。けど、それでアナタの生命まで脅かすつもりはなかった。夜の山の危険を知らなかった私の無知と、思慮の足りなさ、その二点についてだけは非がなかったとは、言えないこともないかもしれない」


 尊大な物言いは相変わらず、かといって突き放すわけでもない。

 とても小さな変化だがオレはその変化を見逃さなかった。


 頑張れよトキノ。

 


「アナタはとても愚鈍で、破廉恥で、図々しい女だわ。ギシンである仁に馴れ馴れしくするなんて身の程知らずもいいところよ。……だけど、さっきの二点を鑑みて、それをアナタの愚かさと比較してみたとすると、ほんの少し、わずかばかりだけど、今回だけに限っては、その、あれよ、私の、責任というものが、なきにしもあらずというか、なんというか」




 ま、回りくでぇ~~~!!



 トキノの謝罪は、全く謝罪に聞こえない残念なものだった。


 

 火野華は口を引き結んでトキノの言葉を黙って聞いている。


 そんな火野華を見てトキノは……息を呑むと意を決したように一気にまくしたてる。


「だから今回だけよ!! 私が悪かったわっ!! 特例中の特例で、ギシンである私が謝罪してあげるわよっ!! ありがたく思いなさいっ!!」



 まったく及第点とは言えない謝罪だったが、今日の所はこれで勘弁してやってくれ火野華よ。


 なんせコイツ、今まで人に謝った事なんてないんだからさ。

 オレは火野華だったら笑って許してくれるだろうと、そう思っていた。

 

「ねぇ、トキノちゃん。それだけ?」


 しかしそうはならなかった。

 火野華は抑揚を変えずに淡々と聞き返す。


 オレは甘えていたのだろう。


 あの高慢なトキノが頭を下げてくれさえすれば、火野華はきっと受け入れてくれるだろうと。


 火野華というお人好しの度量に、胡坐をかいていたのだ。


 ……まあ、仕方ないか。

 少しばかり残念だけど、コイツだって普通の人間だ。怒りもする。

 それに会ってまだ一カ月しか経ってない、友達にもなりきれてない人間だ。

 読み違えることだってあるだろう。


 もう後は仕方ない。泥沼にならないようにオレが間に入るしかない、か。



 オレはトキノの味方をする。

 だってトキノにはオレしかいないんだから。


 

 するってぇと、どうやら火野華との関係もこれで終わりのようだなぁコンチクショー!!!



 べらんめぇ口調でおどけてはみたが、そうでもしないと泣いてしまいそうだったのはオレだけの秘密だ。



 自嘲の笑みを漏らしながら、一つ咳払いして会話に割って入る。



 「おい火野」

 「トキノちゃん、わたし言ったよね。自分のことはいいって。今だって別に気にしてないよ。むしろ初めて富士山に来れて、ちょっとラッキーって思ってるくらいだもん。だから、もし本当にわたしに対して悪いって思ってるなら、あの時言ったことをちゃんと謝ってくれるかな?」



 立て板に水、の火野華の科白。

 何の意味かはさっぱりだったが、どうもこれは二人だけの間で通じる符牒らしい。

 トキノはハッとした表情をしていた。


「……あの時言ったことって……ま、まさか」


「そう。わたしじゃなくてこっちのに、ね?」


 アレ?もしかしてオレ今、こっち呼ばわりされた?し、失礼じゃね? 


「ア、アナタは自分がされたことよりも、そ、そんなくだらないことを気にしてるっていうの?」


「くだらなくなんかないよっ!! わたし一度気になっちゃったらずっと気になっちゃうんだもん。そんな状態でトキノちゃんを受け入れることなんて出来ないっ!!」


「べ、別に、う、受け入れて欲しいなんて話はしてないのだけど……」


 困惑した表情のトキノ。

 心なしか頬が赤くなっている。

 お、おい、まさかお前そっち方面の素養もあったのか?


「さあ、早くトキノちゃん」


「…………わ、私は……」


 トキノは長いこと俯いて考え込んでいた、が何かを決心したのかやがて顔を上げるとすっとオレの方へと向き直る。

 

 よく分からないが、とりあえず背筋くらいは伸ばしておくか。

 どうもこれはとても真剣な場面らしい。


「仁、その」


「な、なんだい?」


 おずおずと口を開くトキノ。

 頬がさっきよりも赤くなっている。

 色白だから余計に目立つ。

 そして口元に手を添えて、探るような上目づかいでオレを見つめてくる。



「あ、あなたが、そ、その、ギシンの立場を利用して、この女にピ―――――(放送禁止)やピー―――――(R18)をして、あまつさえピ――――――――(なろう規約違反)をしていたなんて風に思っていたのだけど、、それは、私の誤解だったわ、その、ごめんなさい!!!」













「はぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~???????」











 それは魂の底からの「はぁ、何言ってのコイツ」だった。




 肩の力が抜けすぎて腕がもげるかと思ったくらいだ。



 何じゃそりゃ?



 まっ―――――たく意味が分からない。



 オレを酷いヤツ扱いしてしまって、ごめんなさい、ということなのだろうが、

 そもそも、もし裏でそんな風に噂されていたとしても、余りにも事実と乖離しすぎていて、オレは別に怒りもショックも受けなかっただろう。



 何 バカなこと言ってんだ、と呆れるくらいが関の山だ。


 


 この二人はそんなくだらない、陰口にもなっていない妄言のせいで諍いあっていたというのか?



 マジで、マジで?

 事実、二人の顔はとても真剣で、唾を飲み込むのすらためらってる風である。




 そんなお前らに贈る言葉一つだけだ。





 あほくさ。





 オレは二人の勘違いを正すために、大げさにため息をついて言い放ってやる。




「何を勘違いしているか知らないがなトキノよ。それだけは無い。なぜならオレはまだ素人童貞なんだぜ?」



 別に玄人経験があるわけではない。

 あえて素人と強調してみただけなのだが、 

 うん、言った後に後悔した。


 相当にキモイ発言だ。


 我ながら思う。


 これは、そう0点どころじゃない。


 マイナス100点の解答だ。



 あの火野華がウェッて顔をして、トキノも眉根を寄せて口元を手で覆いだす。

 そして二人してひそひそと密談し始める。


 オレは確信する。

 今の方が失礼な事を言われているに違いないだろうと。



 やれやれ、体力も根性も、おまけに品性までないオレの評価はいったいどこまでだだ下がることやら。

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