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人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
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第19話

 ここが剣ヶ峰(けんがみね)か。


 富士山頂の最高峰、つまり日本で最も高い場所に降り立ったオレは


「さ、さみぃぃぃぃ」


 その情け容赦ない寒さに震えていた。


 や、山を舐めすぎてた。

 知ってはいたけど何だこの気温は?

 数値以上の寒さだろ?

 もっと厚手のパーカーを着てくればよかったか?


 歯の根が合わないほど震える。


 冷気に体温とやる気も奪われそうになるが、オレは必死にアイツの姿を思い浮かべ耐える。


 弱音なんて吐いている場合じゃない。


 今ごろ、もっとつらい思いをしているヤツがいるはずなんだ。



 用意してきたマグライトを取り出し、周囲一帯を照らしてみる。


 石碑が一棟立っているだけで、人の姿は見当たらなかった。


 オレは……覚悟して崖下に向かってマグライトを照らしてみる。






 ……………










 ………………………

















 …………………………ふぅ。


 見える範囲には人らしきものの姿は見当たらなかった。


 すでに十分最悪の事態だが、それでも最後の一線だけは超えていない事にホッと胸をなでおろす。


 だが完全に安堵は出来ない。

 ここにいないとすると火野華は今ごろ……


 すると、オレの後ろにいたトキノが突如がっくりと膝をついた。


 寒さに耐えきれなくなったわけじゃ、なさそうだな。


 マグライトを向けてもピクリとも反応しないので、さすがに心配になる。


「おい、大丈夫かトキノ?」


「……えっ……うん」


 どうやらまだ先ほどの事を引きずっているらしい。


 ムリもないだろう。


 信頼していた実の兄から脅されたばかりでなく、自分が蔑んでいた人間と同じだと聞かされたばかりなのだから。立て続けにアイデンティティを揺さぶられる程の衝撃を何度も受けて、どうしていいか分からない、ってところか。


 普段のオレなら情にほだされてしまうところだが

 今だけはそういうわけにもいくまい。


「トキノ、休んでるヒマはない。すぐに火野華を探しにいくぞ」


 ここにいないとすると、アイツはすでに自力で下山を試みているのだろう。

 山を舐めるどころの話ではない。


 あいつは下校途中にさらわれた。


 学生服での富士山頂からの下山など、おそらく人類史上初めての愚行に違いない。

 ここにいても埒が明かなかっただろうが、まったく無茶をしやがって。


「私が……あの人間を………?」


 トキノは虚ろな目をオレに向けてくる。


「そうだ。これはお前が犯した罪だ。だったらお前が責任を取るのが筋だ」


「でも、私は……ギシンなのよ……あんな女のためになんて……」


 やれやれ。本当に頑ななヤツだよ。


「ならムリにとは言わない。だがせめて手伝ってくれよ。それくらいいいだろ」


「……何をすればいいの?」


「神威を使えとまでは言わない。せめて足元を照らしておいてくれ」


 オレはパーカーを脱いでトキノの肩にかけてやる。


 おおぅ、寒さって突き刺さるものなんだな。


 そのまま背を向けてトキノの前にかがみ込む。


「とりあえず乗れ」


「乗れ?」


 意味が分からなかったのか、トキノは真顔で聞き返してくる。

 そしてオレがやろうとしている事を察ししどろもどろになる。


「で、でも、わ、私、重いし、それに、泥がついてるから」


「いいから早くしてくれ。じっとしていると凍っちまいそうなんだ」


「あ……う、うん」


 トキノはオレに体を預けると首におずおずと手を回してきた。

 その躊躇を断ち切るため、一気に立ち上がりムリヤリ背負ってしまう。


「あっ」


「お前……ずいぶん軽いな。ダメだぞ、無理なダイエットなんかしちゃ。成長期なんだからな」


 緊張をほぐしてやろうと思い、久しぶりに会った親戚のおじさん風いらぬおせっかいを焼いてみる。


「…………」


 どうやら失敗したようだ。

 まあ、親戚づきあいなんてした事ないから上手く演じようもないか。


「それじゃライト渡すからとりあえず足元を照らしておいてくれ。オレは周囲を見ながら歩くから」


「……分かったわ……」


 そうして深夜の暗夜行が始まった。


 耳元にトキノの息遣いを感じながら一歩一歩踏みしめる。


 周囲にはいっさいの音がない。完全なる無音。


 標高3,700メートルの世界は生物にとっては過酷すぎるのだろう。


 岩だらけの荒涼とした道を眺めている内に、もしかするとオレ達は知らずの内に死者の国に迷い込んでしまったのではないだろうか、そんな妄想をしてしまう。


 はぁ―――


 ドクン、ドクン 


 その度にトキノの呼吸音と、背中越しに伝わる鼓動を確認してオレは不安をかき消していく。


「ねぇ仁」


「なんだ」


 トキノも不安なのだろうか。

 唐突に話かけられる。


「もし、あの女が見つからなかったら仁は本当に私を消すの?」


「そうならないために必死に探してるんだ」


「そう、なんだ」


 足元の光が唐突に消える。


「何の真似だ」


「私、それでもいいかもしれない」


 トキノの顔は分からないが、どうも冗談で言ってる雰囲気ではなさそうだ。


「怒らないで聞いてね。私は今、とっても幸せなの。世界に私と仁しかいなくなって、後は星が瞬いているだけ。そんな静かな世界を二人で歩くことをずっと夢見ていたの。だから今、願いが叶っちゃった」


「寂しいヤツだな」


「寂しくなんてないわ。だって好きな人と一緒なんだから。それにこの世界で多くを望むことはきっと罪なことでしょう? だからこれくらいの願いでちょうどいいと思うわ」


 聞いてて胸が苦しくなる。


「だから、こんな幸せな気持ちのまま愛する人に消されるなら、それも終わり方としては悪くはない気がしているの」



 間違ってる。



 お前がそう思うようになったのはあの衝撃的な原体験のせいだ。



 オレがお前を救うために、人に向けて神威を使ったあの出来事が原因なんだ。



 兄を愛しているだなんて真顔で言えるのは、オレが罪の重さに押しつぶされないようにお前が無意識に気を使ってくれてるからなんだよ。



 本当に・・救いようがないほどやさしい妹だ。



 だけど、オレまでその深みに落ち込むのは、少しだけ保留にさせてくれないか。



「トキノよ」


「何かしら」


「どうも今、獣のウンコらしきものを踏んだ気がする。ライトつけてくれ」


「…………」


 我ながら0点の解答だと思う。


 無言で足元が再び照らし出された。


「あーあとな。お前が今言ったことは夢でもなんでもないと思うぞ」


「なんでよ?」


「いつでもすぐに叶えてやれるからだ。そんなモノを人はわざわざ夢とは呼ばない」


「あ」


「でもそれは火野華が無事に見つかってからだ。分かるな」


 トキノが背中にコツンと頭を寄せてきた。



「…………私、ギシンなんだけど」



 後はもう二人とも無言。


 オレは月の地表みたいな山道を歩きながら、背中越しに感じる心音が先ほどより激しくなっているのに気付かないフリをしていた。

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