表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類滅亡が確定した世界をチート能力で救うことが出来るか?  作者: 平 来栖
第1章 タケノコの山が消えた日 〜死村 仁〜
22/81

第18話

「私は自分のためにしかこの力を使わない。別に神でいいじゃない。神でいさせてよ。傍若無人な存在でいさせてよ!! この世界が終わるほんの少しの間だけなんだから!!」


 人が神の犠牲になっていいなんて、そんなのは神話の中だけで十分だ。


「ダメだ。人が自分の欲求のために人に迷惑をかける、それは唾棄すべき行為だ。皆、この終末世界で必死に生きている。それを壊す権利なんてきっと本物の神にだってない」


「なんでそこまで人間の肩を持つの?あのカス共が私に何をしたか、まさか忘れたわけじゃないでしょ?」


 もちろんトキノが何をされたか、オレが何をしたか、それを忘れたことはない。

 だけど、それでも。


「お前の言う通り中にはロクでもない連中もいる。だけど、オレは最近になってそんな連中ばかりじゃないってことが分かって来たんだ」



 脳裏に浮かぶのは二人の少女の姿。

 どちらもギシンのオレに対して屈託なく接してくれていた。


 そうか、そういう事か。

 ようやく今、分かった気がする。


 なぜオレがこんなに必死になっているのか。



 オレはどうやら嬉しかったらしい。


 この一ヶ月、


 深夜ドラマを見て、


 その感想を話して、


 カバンをぶつけられて、


 鼻血を出して、


 そのあと少し悲しませて、


 そして好きと言ってもらえた。



 そんな普通の高校生みたいに振る舞えたこの一ヶ月を、


 それをたまらなく……慈しんでいた。


 身内と争ってでも取り戻したいと思うほどに。



 ……なら何としてもやり遂げてみせる。



 改めて決意する。 




「そんな人間いる訳ないわ!!」


「いる。お前がさらった女の子がそうなんだ」


「……………」


「もういいだろ。頼むから火野華の居場所を教えてくれ」


「嫌よ。仁はあの女に騙されてるに決まってる。私、仁が傷つくのを見たくない」


「どうしても教えてくれないのか?」


「ギシンの伴侶はギシンにしか務まらない」


 頑なな態度。

 これ以上話しても平行線だろう。

 タイムアップ、どうやらオレの負けだ。


 トキノを説得することは出来なかった。

 コイツの今までの人生観を変えるには、時間が足りなすぎた。


 お前の事は本当に大事に思っている

 血のつながり以上の絆を感じている。


 だからこそ、本当にすまないと思う。


「交渉決裂だな。なら仕方ない。先ほど送ったメッセージ通りだ」


 トキノに背を向ける。

 瞼の裏が燃えるように熱い。

 久しぶりの感覚だ。

 オレは瞳に流れ込む力の激流に身を委ねる。


「オレは人類に仇なすお前を、消滅させることに決めた」



 そして目の前にあった裏山を視界に収める。



 次の瞬間、夜の闇ごと空間が抉られていく。

 その結果、巨大な質量を持った山が地球上からその姿を消した。

 発光するわけでもなく、爆音が轟くわけでもない。

 静かなる消滅。

 質量保存の法則を無視した完全なる無の訪れ。余波は生じない。


 どこか別の次元に消えているのか、物質が存在していた時間を遡行させているのか、

 現在の残された科学技術では解明できなかった。


 どちらでもいい。

 異世界からやってくるという規格外の化け物を退治するにはうってつけの力だ。

 同じ化け物同士、つぶし合えばいいとすら思う。


「あ、あ、あ、あ」


 オレの背後でトキノが崩れ落ちたのが分かった。


「そ、そんな、ま、まさか、本気で、わ、私を、そんな、そんな」


 悲壮感漂う声、

 お前にとっての死村 仁という存在を利用させてもらった。

 本当に酷い兄だよ、オレは。

 こんな方法しか思い浮かばなかったんだから。


「失せろ。二度とオレの前に現れるな。もし次に視界に入ったら容赦なく消す」


 トキノが地面を這いながらオレにすり寄って来た。

 神威をつかうことも忘れて、泥で汚れる事もいとわずに。

 そしてオレの足にしがみついてくる。


「お願いだから私を拒絶しないでっ!!見捨てないでっ!!仁、お願いだからっ!!」


 胸がひどく痛む。

 だけどトキノは今もっと苦しんでるだろう。

 だから弱音を吐かずに最後まで嫌なヤツでいよう。


「捨てられたくなければどうすればいいか、分かるな?」


「わ、分かったわ、い、言うわ。言えばいいんでしょう。だ、だからお願い、私を、見捨てないでね」


 終わった。

 思わず大きなため息が漏れた。


「バ、バカは高いところが好きだっていうでしょ、だから連れて行ってあげたの、相応しい場所に」


 バカと煙じゃなかったか、と思いつつ問う。


「それはどこだ?」


 グッと絞り出すようにトキノは答える。


「剣ヶ峰よ」


 確かに高いな。


 その時、オレはバカみたいにそんな当たり前の事を思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ